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「わたしたちはゲームで現実逃避がしたいだけの、同じ人間」ゲーム界に生きる女性の葛藤

ドキュメンタリー映画『ギーク・ガールズ』は、オタク文化の隠れたヒロインたちにスポットライトを当て、ゲーム界に生きる女性たちの葛藤と、彼女たちに対する社会の誤解を浮き彫りにしている

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This article was originally published by i-D UK.

女性ゲーマーたちが直面する現実は厳しい。容姿へのコメント、インターネット上でのハラスメント、レイプ脅迫、殺害予告など、とても現実とは思えない出来事が彼女たちには起こっている。それを知るには、2014年に起こった"ゲーマーゲート騒動"について考えてみるといい。当時27歳だったゲーマー/ゲーム開発者のゾーイ・クイン(Zoe Quinn)は、レイプの脅迫や殺害予告にさらされ、自宅の住所や社会保障番号などの個人情報がネットにリークされる騒ぎとなった。ネット掲示板には彼女への誹謗中傷が溢れ、彼女は引越しを余儀なくされた。「自宅の住所が脅迫コメントとともにネットでさらされているから、家にも帰れない」と当時、彼女は語っている。

ゾーイに対する憎悪に満ちたこの動きは、彼女の元恋人が自身のブログにアップした投稿をきっかけに始まった。この投稿の中で、その男性は「彼女がこれまでに肉体関係を持った」として複数の男性の名をリスト化して挙げていた。そのうちの数人はゲーム記者で、うちひとりがゾーイの開発したゲームの記事を書いていた----そのような疑惑が、すべての事の発端だった。ネット上でいわゆる「犯人探し」をするユーザーたちは、ゲーマーゲート騒動が単に「ゲーム記者とゲーム開発者のあいだに存在する不審な関係を問うものだった」と口をそろえる。しかし、ゾーイをレイプし、ゾーイの親族を殺すと脅迫することは「問う」行為ではなく、「いじめ」だろう。この騒動が引き起こしたのは、男性が「自分たちのもの」と考える世界に女性が参入しづらい状況を作り、女性ゲーマーたちを萎縮させただけだった。ゲーマーゲート騒動の根底にあるのは、男性が自分たちの立場を誇示し、女性に対して上から目線を振りかざす、男性至上主義的な残忍さだ。ジャーナリズムとは似ても似つかないものだ。

そうした風潮もあるゲーム業界だが、それでもゲームを愛しているからとその世界に挑戦する女性たちもいる。女性のオタクたちを追った、おそらく世界初のドキュメンタリー映画『ギーク・ガールズ(Geek Girls)』で、カナダ人映画監督のジーナ・ハラ(Gina Hara)は、プロのゲーマー、コミック、アニメ、芸名、そして熱狂的ファンたちが作る独自の世界へと足を踏み入れる。そこで彼女は、NASAのロケット開発科学者から"カナダでもっとも頭脳明晰な人物"と名乗るプロ・ゲーマーのステファニー・ハーヴェイ(Stephanie Harvey)をはじめとするオタクたちに接見する。この映画は、知られざるオタク文化の内側を覗かせてくれるとともに、「女性ゲーマー」「女性であるということ」そして「オタク世界」を大きく讃えている。

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自らもゲーマーである監督のジーナ。i-Dとのインタビューで、彼女は女性ゲーマーにつきまとう性差別について教えてくれた。「ストリーミング配信型ゲームのプラットフォームTwitchで『Minecraft』をプレイしていたときに受けた性差別は耐え難い苦痛だった」と彼女は話す。「そこで送られてくるコメントのほとんど容姿に関するもの。わたしの容姿がゲームにどう関係があるわけ? 誰も言われたくないようなことを平気で言うひとたちがたくさんいるの」

問題は、ゲーマーから開発者、記者にいたるまでゲーム文化全体において女性の存在が認知されていない現状にあるとジーナは言う。映画に登場する女性プログラマー、レイチェル・シモーン・ワイル(Rachel Simone Weil)の言葉を借りれば、「男性オタクの多くは、女性のプログラマーやゲーマーに出会ったことすらない。ギークダム(オタクの王国)に閉じこもって育ち、女性プログラマーを見たことがないから、女性がプログラミングをできるなんて考えたこともない。メディアで取り上げられるプログラマーやゲーマーは決まって男性」という現実があるのだ。

もちろん、ゲームオタクのイメージが災いしているという側面もある。『シンプソンズ』に、なにかと上から目線の態度が鼻につくコミック・ブック・ガイというキャラクターが登場するが、世間一般に浸透しているゲーマー像は、まさにそんなイメージなのだ。「それを打破したい。ゲーム界にいる女性たちを見てもらって、そのイメージを少しでも改善したい。彼女たちは快活で美しくて頭も良く、世界で素晴らしいことをたくさん成し遂げているんだから」

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そんな女性のひとりが、マリコ・マクドナルド(Mariko McDonald)だ。マリコは、ゲーム開発者として働くかたわら、自身のブログ「Gamerwife」を運営している。また、ゲーム会社Ubisoftの開発者で、ゲーム作りを志す女性たちの後押しを目的とした非営利団体Pixellesの共同創始者でもあるレベッカ・コーエン=パラチオス(Rebecca Cohen-Paracios)も特筆すべきゲーム界のヒロインだ。そしてもうひとり、前述のステファニー・ハーヴェイもまたそんな女性のひとりだ。ステファニーはゲーム界を「もっともピュアな感情を持つことができる場所であり、クリアな頭でいられる場所」と言ってはばからない。彼女たちのようなゲーマーは、単にネット住人たちへ中指を突き立てながらゲーマーのイメージを打ち破っているだけでなく、世界の少女たちに、自分を信じて夢を追うことの大切さを身をもって示しているのだ。

しかし、当然ながら多くの女性ゲーマーたちはネット上での誹謗中傷を恐れ、カメラの前に立とうとしない。「人目に触れれば、ハラスメントや脅迫まがいのコメントは飛躍的に増えるから」とジーナは説明する。男性であれば、お互いがどれだけ酷い内容のコメントを送りあおうが、お互いのスキルを批判し合おうが、たかが知れている。「お互いが男性である場合、コメントが性器や髪型に及ぶことなどないわけだから」

ゲーム界にはびこる性差別やステレオタイプと戦っている女性は、ジーナだけではない。YouTubeに連載されている「Tropes vs. Women in Video Games」は、たとえば「苦境に立たされ傷ついた女性を、屈強な男性が救う」というような、ゲーム界に見られる性差別の現実を分析するシリーズ動画だ。このシリーズの製作者であるアニータ・サーキーシアン(Anita Sarkeesian)は、その名が示唆するとおり女性だ。アニータはゲーム界に横行する性差別について声を上げていることで、これまでにレイプ脅迫を受け、ネット上で自宅の住所をさらされたりしてきた。ゾーイ同様、アニータも恐怖から自宅へ帰ることができず、Twitterで「わたしは諦めたりしない。でも、女性に対するこのようなハラスメントは根絶しないと!」と発言している。

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「男性だろうが女性だろうが、わたしたちはゲームで現実逃避がしたいだけの、同じ人間」とジーナは言う。問題は----特に若い女性にとっての問題は----ゲーマーの心に火をつけてくれるゲームと出会うことが難しいという点にある。売春婦をひき殺すようなゲームを嫌う者もいるし、ナチスを探し出して狙撃するゲームに拒絶反応を示す者もいるのだ。「世の女性の多くは、『このゲームはわたしのような女性を対象にして作られたものじゃない。ゲーム自体がわたしに向いていないのかも』と感じてしまうんだと思う。だからこそゲームを作る側に女性が増えるべきなの。映画の世界も同じだと思う。女性が描くストーリーが増えれば、その作品を自分のものだと思えるひとも増える」

現在、ゲーム界に身を置く女性に対する誤解は根強い。そのひとつは、"女性ゲーマーは彼氏を見つけるため、または彼氏を喜ばせるためにゲームをやっている"というものだという。それは完全なる誤解だ。『ギーク・ガールズ』を見れば誰もが理解するだろう。しかし、もっと多くの女性が脚光を浴び、ゲーム界に生きる女性たちのイメージの打破に挑んで、ハラスメントに屈することを拒み続ければ、きっとそこには変化が生まれる。

変化を実現するには、まずゲーム界に生きる女性たちの存在が広く可視化されなければならない。そして、その存在に対する社会の意識と認識が高まらなければならない。女性の団結精神と反逆精神を強く打ち出した『ギーク・ガールズ』は、まさにわたしたちをその方向へと導いてくれている。世界の女性ゲーマーたちよ、立ち上がれ!

Credits
Text Oliver Lunn
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.