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デザイナー森永邦彦が新ブランドに込めた想い -vol.1-

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【軌跡】「アンリアレイジ」を日常に定着させる試み 森永邦彦手掛ける「アンシーズン」㊤ 人が着ることで得る気付き

森永邦彦がデザインする「アンリアレイジ」は、新技術を取り入れたクリエーションを、実験的なショーやプレゼンテーションで見せる手法に定評がある。15年春夏からは発表の場をパリに移し、海外での認知も徐々に高めてきた。シーズンごとに異なる技術やコンセプトを深耕するアンリアレイジに対して、14~15年秋冬に立ち上げた「アンシーズン」は、いわばアーカイブラインとも呼べるもの。と言っても、過去の売れ筋の単純な焼き直しでは決してない。アンリアレイジで開発した技術やコンセプトをいかに日常に根付かせるか。それを担うのが、アンシーズンだ。

だいご味かつリスク

「アンリアレイジは、発表するシーズンに全てをかける。ファッションは時代時代で判断されるものだから、アンリアレイジもそのシーズンで判断されるものでいい」と森永。常に新しい価値観が求められるモードの世界では、そのようなシーズン毎の変化や挑戦は必須だ。このスピード感やリミット性こそ、他のプロダクトにはないファッションのだいご味と言える。

しかし、それは同時にファッションビジネスが抱えるリスクでもある。特に、アンリアレイジのように技術やコンセプトのリサーチ・開発に少なくないコストや時間をかけるブランドにとっては、作ったものを半年で過去に追いやることは大きな負担だ。

コスト面の話だけでなく、半年ごとに次々と新しい技術やコンセプトを打ち出していたのでは、「日常に根付くものも根付かない」という思いもある。「アンリアレイジはコンセプトや技術に深くフォーカスするブランドだけに、表現者としての自分は、一つのシーズンが終わったらそこから離れたくなる」が、「作り手としては、1シーズンで終わらせるのではなく、作り続けなければならないと思う」。そんな二律背反の思いを両立させるために、アンシーズンはスタートした。

アンシーズンでは、シーズンを超えて同じ技術やコンセプトを粘り強く積み重ね、時間をかけて日常化させていく。それは、新しい分野にどんどん踏み出していくアンリアレイジとは対極にある。「ビジネス基盤を作るという点でも、自分がやってきたことに向き合ってブランドをしっかり伝えるという点でも、アンシーズンは必要だった。それが、アンリアレイジのパリ進出という転機もあって具現化した」と森永は話す。

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アンシーズン18年春夏の球体シャツを使ったルック

自身の考え超えて

たとえばアンリアレイジは、09年春夏に「○△□」と題したコレクションを発表している。マネキン代わりの球体や三角錐、立方体にぴったりと張り付くようなパターンのシャツやアウターを作っていた。「球体や立方体の体を持った人間なんていない。誰にも合わないということは、つまり誰でも着られる服だということ」として、身体に定義されない服を作る試みだったが、当時の反応はシビアだったという。

「球体シャツはシーズンで計30枚も売れなかったかもしれません」。でも、アンシーズンをスタートし、その中で球体シャツを出すようにしたところ、現在までに累計で2000枚以上を売るアイテムとなった。

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アンリアレイジ09年春夏の「○△□」のプレゼンテーションから

同様のアイテムは、10年秋冬の「ワイドショートスリムロング」のコレクションからも生まれた。同コレクションは、縦横比を変えたマネキンに、拡大・縮小したトレンチコートやカーディガン、パンツを着せることで、一般的に標準形とされる身体とは何なのかといったことを問う内容だった。

その時、押しつぶされて横に広がったような形のマネキンに着せていたパンツをアンシーズンの中で展開したところ、これも累計で数千枚が売れるようになった。取材日に森永自身が着用していたアイテムでもある。

挑戦的なコンセプトや新しい技術が、アンシーズンを通して多くの人の日常に定着していくという経験によって、森永自身の考え方にも変化が生まれている。「服が多くの人の身体を通ることで、こんな着方もあるんだという発見がある。それは、デザインした当時に僕が考えていたことを遥かに超えるもの」と感じている。

「これまでは、売れることや人が着ることでの充足感よりも、作って満足するという部分が大きかった」が、「(こんな風に作り手の想像を超えていくような存在にならなければ)自分たちが目指しているような服にはならないのかもしれない」と話す。

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09年春夏で出した球体シャツ

アンシーズンによって、森永は自身がこれまで作ってきたものと、より真摯(しんし)に向き合うようになったと言う。「アンシーズンをやらなければ、日の目を見ずに消えていった商品も多い。毎シーズン、アンリアレイジでこれだけの型数を作っていて、残っていくのはごくわずか。だからこそ、残りそうなアイテムに対しては、ブランドは覚悟と執着を持って残していくべきだと思うようになった」。