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困難なときほど人気が高まる?ホラー映画の流行と政治の関係

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ディストピア作品の流行は、いまの社会を反映している?

マーガレット・アトウッドの小説を原案にして制作されたテレビドラマ『侍女の物語』は、原作同様にディストピアを描いた作品だが、視聴者は単に「ホラー」と感じるかもしれない。環境破壊が進み、人類が滅びる寸前の世界----出生率は低下し、女性はあらゆる権利を剥奪されている。レイプが横行し、公開処刑が当たり前になっている世界を描いているのだから、これはホラーとカテゴライズされるべき作品なのだ。主役のオフレッドと仲間たちによって回想される社会は、現在わたしたちが直面しているものにそっくりだ。社会の腐敗は、オフレッドやその家族が気づかぬほどにゆっくりと進み、気づいたときにはもう手遅れになっている。私たちはそこでまた恐怖を覚える。全10話には、リンチによる殺害や、手術によるクリトリス切除(わたしはこのシーンを見てから数日の間、下半身に違和感を感じ続けた)など、背筋が凍るようなシーンがたびたび登場する。だけどそれより恐ろしいのは、彼女たちが民主主義の世の中で権力に抵抗しようと用いる、たとえば抗議運動のような手段が、もはやまったく機能していないということだ。だって、一年前には想像もつかなかったそうした社会が、いま目の前で出来上がりつつあるのだから。

『侍女の物語』だけではない。現代の社会背景を映し出すダークな映画やドラマは枚挙にいとまがない。『ゲット・アウト』『Raw』『IT/イット』そして『ストレンジャー・シングス』、今わたしたちは「ホラー」を求めている。それを裏づける統計もある。映画産業とデータに関するこのサイトによると、2017年の映画市場の7%をホラー映画が占めている。大した割合ではないように思えるかもしれないが、これは過去10年間で最高の割合だ。エンタメ系ニュースサイトの『Vulture』や『Deadline』を眺めていれば、必ずスティーヴン・キング原作小説の映画化に関する記事に出くわす。『ツイン・ピークス The Return』も忘れてはならない。これまでの『ツイン・ピークス』シリーズでは悪の存在がただ物事の裏に垣間見える程度だったが、今作では悪の存在がより近くをうろついている。デヴィッド・リンチは「残忍」の描き方をさらなるレベルへと高めた。作中にはさまざまなストーリーが複雑に交錯しているが、そのどれもが血なまぐさい。『ツイン・ピークス The Return』の製作が始まったのはドナルド・トランプの大統領就任前だが、その頃にはすでに現在あるアメリカの狂気が始まっていた。いま、わたしたちは巨額の予算をつぎ込んで作られた恐怖映画やドラマを("たまに"では収まらず)何時間も食い入るように観て、語り、解読しようと躍起になって、次のホラー作品のニュースを心待ちにし、新シーズンの公開を待ち望んでいる。

可愛いキャストに可愛い衣装、ウィノナ・ライダー、懐かしさが心地よい80年代ポップ・カルチャーと、ヒット要素満載の『ストレンジャー・シングス』。だが、視聴者が引き込まれるのは、不気味で得体の知れない恐怖の存在だ。次元を超えて怪物がこちらの世界へと入り込み、現実を捻じ曲げはじめる。デヴィッド・シシリン(David Cicilline)アメリカ連邦議会議員は、「トランプ・シングス」というボードを掲げ、「『ストレンジャー・シングス』の主人公たちのように、我々もまたアップサイド・ダウンに迷い込んでしまった」と言っていた。

ホラーが現実になってしまうような時代には、笑いに逃避しそうなものだ。たしかにTwitterは嘘のような政治を面白おかしく皮肉るツイートに溢れている。しかし笑いは空虚に響く。どぎまぎする気持ちを必死に覆い隠しているだけのように感じられる。タブロイド系メディアの売り上げが急落し、ニュースや時事系出版物が売れていることからも、世の中が現実逃避を求めていないことがうかがえる。米大統領と北朝鮮最高指導者が核戦争の危機を招き、人類の存続を脅かしている。アメリカではネオナチが街を闊歩し、イギリスは先行きを考えることなくEU脱退を決めるなど愚行を見せている。こんなとき、ひとは笑うのではなく、恐怖を求める。最悪のシナリオを想定し、予行演習をすることで不安への免疫をつけ、この先に起こる現実に備えているのかもしれない。

不安を掻き立てる映画人気の高まりは政治情勢と連動していると、映画史学者のゲイリー・ローズ(Gary Rhodes)は話す。「アメリカ映画史には、困難なときほどホラー映画人気が高まるというパターンが見られます。たとえば、アメリカで最初のホラー映画ブームは、大恐慌と第二次世界大戦の時期に訪れています。宇宙人の地球侵略ものの映画は、50年代の"赤の恐怖"時代(政治主導で共産主義排斥が進められた時代)に多く作られました。ホラー映画の古典的名作である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)や『悪魔のいけにえ』(1974)は、ベトナム戦争勃発から終戦直後に生まれました。同様の現象が、911アメリカ同時多発テロ事件の後にも見られます。アメリカ社会の不安、心配、深い恐怖心は、このようにして映画に反映されてきたのです」

ホラー映画は観るものに解毒作用をもたらす。ニュース報道とは違い、映画やドラマにはエンディングがあるからだ。テレビなら、電源を消せば恐怖のストーリーをおしまいにできる。「ホラーや緊張感をもたらす映画・テレビは、現実逃避になるものです」と、メディア・サイコロジー・リサーチ・センターのディレクター、パメラ・ラトレッジ(Pamela Rutledge)博士はいう。「またそれと同時に、最終的に物事は正されるのだという安心を与えてくれもします。西洋のホラー映画は、善人が生き残り、悪者は最終的に捕らえられるか殺されるという道徳に基づいた作品がほとんどです。駆り立てられた恐怖感があるからこそ、ラストの解決に満足感を味わうことができるのです。また現在は世界に秩序がもたらされ、悪者はこらしめられる、スーパーヒーロー作品が急増していますね」

『ストレンジャー・シングス』の製作総指揮ショーン・レヴィは同作のシーズン2について、「登場人物たちがホーキンスの町、バイヤーズ一家、子どもたちのグループに、なんとかして平穏な日常を取り戻そうと奮闘する内容になる----それが不可能であるという現実に直面する場面も」と語っている。主役のウィルはアップサイド・ダウンの次元から抜け出すことに成功するが、わたしたちはこの現実世界に迷い込んだままだ。超能力をもった救世主が現れることもない。だから、あるあらゆる手段をもって抵抗を続けなければならない。現実はますます恐ろしい方向へ進んでいる。一時たりとも油断してはならない。

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