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スノーピーク山井社長が語る"ライフバリュー"とは?

スノーピーク山井社長が語る

スノーピーク社長 山井太さん 自然と人つなぎ「人生価値」を創造

キャンプ用品メーカー、スノーピークの事業領域が拡大している。昨年、アパレルの店舗網が広がったことに加え、今年は初の常設グランピング施設を開業。アウトドアの知見や集客を生かした「地方創生」のコンサルティング事業も動き出した。

これまで同社はオートキャンプビジネスでアウトドアを楽しむ「ライフスタイル」を広めてきたが、今後は多様な事業を通じ、「ライフバリュー」を作る会社に生まれ変わる。

※この記事は7月7日付本紙に掲載されたものです

◆地域おこしに加担していく

--先月、観音崎京急ホテル(神奈川県)内にグランピング施設を開業した。

建築家、隈研吾氏とスノーピークが共同開発したモバイルハウス「住箱」を客室として使った、常設としては初のグランピング施設です。備品や食器、スタッフの制服にいたるまでスノーピーク製品です。

--グランピング事業のビジネスモデルは。

直営施設もできますが、基本的にはフランチャイズです。ホテルや旅館といった宿泊事業者にモバイルハウスなどを納品し、営業開始後は売り上げの10%程度をスノーピーク側がいただく仕組み。施設が増えれば増えるほど、ロイヤルティー収入が増えるのが特徴で、いったん納品したのちも、稼働率が良ければ、施設内に導入してもらう客室数が増える可能性があります。

--2月には地方創生に関するコンサル会社も設立した。

我々のミッションは自然と人をつなぐこと。そして、自然は地方にあり、我々としてはそこをアウトドアで活性化させるべきだと考えています。

これまでも大分県日田市にある(椿ヶ鼻ハイランドパークの)キャンプ場をリファインし、(15年から)指定管理者として運営を始め、1年で黒字転換させることができました。ネーミングライツを得られたので、「スノーピーク奥日田」と命名し、九州中のスノーピーカーを呼び集めることができたのです。

日田市とは良好な関係を築けており、熊本の震災ではキャンプ場が支援の最前線デポになりました。施設の責任者は、街づくりを担う青年会議所に所属してます。企業市民としてしっかりと土地に根を下ろしています。

こうしたことを全国各地で展開すれば、地方創生につながると思っています。土地ごとの売り出し方や価値の付け方はすべてオーダーメードですが、各地に我々の拠点を作り、企業市民となって当地を良くすることに加担したいのです。

--進行中の案件は。

フルスペックになりそうなのが、十勝地方で進めているもの。4月に、当社のほか帯広市や地元の金融機関などが出資し、地域資源を活用したアウトドアの観光戦略を立案・創造する「デスティネーション十勝」という会社を作りました。

例えば、現地では天然温泉を持ちながら、管理の問題などで閉まっている野営場があるのですが、非常にもったいないと感じます。我々なら天然温泉付きのグランピング施設として生まれ変わらせるノウハウとソリューション、商品を持っています。そこで新会社が軸になり、自治体や地域の諸団体と連携しながら、そういったコンテンツを19市町村にまたぐ十勝全域に20~30カ所作り、世界中からアウトドア愛好者を招きたいと考えています。

--眠っている資産を役立てる、と。

十勝で感じるのは、地元の方が素晴らしい自然をまったく誇らないこと。例えば、歴舟川はあまりに透明で、泳いでいるニジマスがまるで宙に浮いているように見えます。本州にはそんな川はほぼありませんよね。

しかし、土地の人はそれが当たり前だと思っているので、良さに気づかない。だからこそ、僕らじゃないと分からない十勝の魅力を、遊べるところに変換し、まとまりとして発信できるようにしたいと思っています。5年くらいかけてこのプロジェクトを完成させたいですね。

もちろん十勝地方以外でも、全国各地でこうした取り組みを始めます。手順としては、まず自治体と包括連携協定を交わし、スノーピークがコンサルをし、その後、具体化していきます。

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スノーピークグランピング京急観音崎

◆あえて事業の踊り場を作る

--昨年、アパレル事業初のキャンプイベントを開いた。

当社の製品は、アーバンテイストなアウトドアアパレルであり、ファッションとして買われる方もいます。アパレルは非キャンパーを取り込む入り口として位置付けていますので、お客様がキャンパーでないのは、我々にとってうれしいことですが、アパレルのコンセプトはあくまで「キャンプで着られる服」。〝アウトドアっぽい〟はどの会社でもできますが、我々は本物を提供しているので、スノーピークのアパレルを着てキャンプをすると、その真価を分かってもらえるはずです。

そこで服をきっかけにキャンプというものを体験してもらう〝回路〟を作るため、(キャンプ場を併設する)ヘッドクォーターズ(本社)で「フィールドワーク」というイベントを開きました。キャンパー向けのイベントと同様、お客様とスタッフが一体となって楽しむことができたと思っています。

--アパレルの売り上げ構成比は、前期8.1%と影響力が高まる。

我々はこれまでオートキャンプビジネスを通じ、アウトドアを楽しむライフスタイルを広めてきました。今、ユーザーを見ていると、この点は実現できたと自負しています。しかし、これからは「ライフバリュー」を作らないといけないと思っています。人生価値を作るには、キャンプシーンだけでなく、キャンプをやっていない時間も含めてバリューを提供しなければならない。そのためにはアパレルが非常に重要な要素です。

スノーピークはギアとアパレル両方を手掛けるユニークな企業なので、そういう人生価値の作り方を提案できる素地があります。グランピング事業に絡めて、例えばリラックスウェアやヨガウェアなどにも、アイテムを広げる可能性はあります。

--3月には、その本社とは別に大規模拠点を設けた。

20億円を投じ、(新潟県見附市の中部産業団地内に)総面積1万1550平方メートルに及ぶ新施設「オペレーションコアHQ2」を建設しました。物流機能に加えて、製造、購買、アフターサービス、営業管理部門などを集約しています。

スノーピークはクリエイティブな会社ですが、実はオペレーションはそれほどうまい会社ではありませんでした。これまで本社と物流センターが離れており、そのことで関連部門同士の連携がうまくいっていなかったのです。

かねて物流機能を拡張する計画はあったのですが、これを機に、社長室と企画本部を除く全機能を物流センターに統合しました。要は「今年のビジネス」に関わる業務のすべてを一つの場所に集め、何か問題が起こったときに、すぐに解決できるようにしたのです。

倉庫のキャパシティーは4倍に拡大。SAPの最新システムをフルラインで導入し、我々がオペレーション上で感じていたストレスはほぼ無くなりました。倉庫はまだ3分の1程度しか使っておらず、余力も十分。売上高300億円くらいまでは対応できる大きさです。

--本社の役割は。

二つの機能を残しました。一つは「未来を作る仕事」。スノーピークでは社長の仕事は未来を作ることです。もう一つは「ユーザーとの交流の場」。現在、場内に温泉を掘っており、19年春をメドにスパレストランやグランピング施設が開業します。

つまり、キャンプをやらない人も含めて、ユーザーと交流する場としての機能が充実するのです。ここに商品やサービスを作る企画本部を残し、ユーザーが集う現場に身を置きながら、開発に心血を注ぎます。

――今期、出店ペースは緩やかになる。

過去2~3年は積極的に出店してきました。人材の成長スピードが出店速度に追いついていないことは承知していましたが、出店できるときに出ておいたほうが良いとの経営判断です。

例えば、外資ファッションブランドが入居していた館1階・約330平方メートルの物件を、破格の条件で提示されれば、出るべきですよね。しかし、これから数年内に300億円を目指すには、内部拡充する〝踊り場〟を作らないと、それは達成できません。だから、1~2年は出店を少し抑え、人材育成や仕組みの整備など、内部体制の充実に力を入れます。オペレーションコアの建設もその一環です。

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やまい・とおる 1959年新潟県三条市生まれ。明治大学卒業後、外資系商社であるリーベルマン・ウェルシュリーを経て、86年にヤマコウ(現スノーピーク)入社。96年社長に就任。自身も熱心なアウトドア愛好家で、キャンプやフライフィッシングを楽しむ。57歳。

〈スノーピーク〉

ハイエンドでスタイリッシュなキャンプ用品を開発・製造する。「自らもユーザーである」という視点に基づくこだわりの製品群や、本社が立地する新潟県燕三条の金属加工技術を活用した高い品質、キャンプイベント・SNS(交流サイト)で築いた顧客との親密な関係、小売店との直接取引による流通コストの低減などが強み。16年12月期業績は、売上高92億2200万円(前期比17.4%増)、営業利益8億5300万円(50.1%増)だった。

期末店舗数は直営店が24(15年末18)、卸売り先にスタッフが常駐するインストアが62(同53)、インショップが154(同99)。2020年ごろに売上高300億円、経常利益70億~80億円を目指している。目標達成時の売り上げ構成は、キャンプ(アウトドア)事業が60%、アパレルが25%、住環境への製品提供などアーバンアウトドア事業が15%程度となる見込み。

記者メモ

2年前に山井社長から構想として聞いていたことが、どんどん具現化していて驚いた。特に地方創生に向けたプロジェクトは、こんなことをするアウトドアメーカーは他にない。現在、十勝地方以外にも、オファー段階含め約30の案件が進んでいるという。成功事例が積み重なれば、各地域にいろいろな気付きを与えるだろう。
もっとも本業については、昨年拡大の歪みが出たようだ。ハイシーズンの8、9月に台風が多かったこともあるが、店舗数の増加で販売員の平均レベルが下がり、下期以降、国内の既存店売上高は悪化したという。テントはセルフ販売でも売れるが、タープやキッチン用品など、システムデザイン化された商品は、店側から積極的にユーザーにアプローチしないと売りづらい。
この1~2年はこれまでのような出店はしないというから、新システムによる顧客管理手法などを活用しながら人材育成を促し、1店あたりの売り上げをどれだけ拡大できるかが今後の飛躍に向けた焦点となる。(杉江潤平)