ファッションマガジン

英国で話題の俳優ダニエル・カルーヤが語る、人種差別と現実世界のホラー

「スーパーに行けば警備員に追いかけられる、黒人の警備員にね。どういうことだ? 俺がカクテル・シュリンプ味のポテトチップスを万引きするとでも思ってるのか? だけど、こういうことにいちいち立ち向かうのはあまりに疲れる。それで自分の中に溜め込んで、内面化してしまうんだ」

daniel-interview-20171111_001.jpg

ダニエル・カルーヤは時の人だ。
アメリカの人種差別を恐怖と風刺を込めて描いた映画『ゲット・アウト』でブレイク中のスターに、次回作のセットで話を聞いた。撮影中の作品はマーベル映画『ブラックパンサー』。どこから見てもまさに超重要大作だ。

「とにかく最高にぶっ飛んだ経験をしてる」ロンドンに住む27歳のカルーヤは言う。「アフリカ系がテーマの超大作で、内容もアフリカの物語。今までに見たことがないし、そんな作品に参加できてすごく嬉しいよ」

ドラマ『スキンズ』や『ブラック・ミラー』への出演で、英国ではすでに名の知れた俳優カルーヤ。新作を撮影中のため『ゲット・アウト』の反響の大きさには、まだはっきりした実感がない。ホラー映画専門のブロムハウス・プロダクション(『ザ・ギフト』『インシディアス』など)が製作を手がけ、アメリカ国内で興行的な大成功を収めた本作は、映画批評サイト「ロットン・トマト」でめったにない満足度99パーセントを叩き出し、解説系の記事でも頻繁に取り上げられるテーマになった。

劇中でカルーヤが演じるのは、白人のガールフレンドと一緒に彼女の実家を初めて訪ねる黒人の青年クリストファー。この映画をコメディ作品に仕上げるのは簡単だったはずだ。脚本と監督を担当したのは〈キー&ピール(Key and Peele)〉のジョーダン・ピール、笑いは彼の得意とするところでもある。しかしジョークはやがて血塗られていき、『ゲット・アウト』は白人主義アメリカが歴史上いかに自分たちの特権のために黒人たちから多くを奪い取ってきたか、それが現在も進行しているかを、鮮やかにそして残酷に描き出していく。

この映画でのカルーヤはみごとだ。どこかしら抑えられた彼の演技によって、日常に潜む人種差別の特性とその怖さが浮き彫りになる。とはいえ、彼の本作出演は必ずしも熱狂的に歓迎されてばかりではない。先週、俳優のサミュエル・L・ジャクソンは、「アメリカのブラザー」ではなく英国出身の俳優がこの役に配されたことに疑問を投じた。「アメリカの俳優より安い」ことで、イギリス人俳優がアメリカ人の役を得やすくなっているのでは、という持論も述べている。

----『ゲット・アウト』大ヒットの影響はありますか?

イエスとノーの両方かな。ちょっと不思議な状況なんだ。『ブラックパンサー』のセットの中はすごく落ち着いている。ただ『ゲット・アウト』が大勢の人に観られはじめていることは確かだね。今は外の世界とあまり接触がない。携帯の通知は鳴り止まないけど。でも現実は変わっていない。自分が尊敬している人たちがたくさん映画を観て、気に入ってくれてる。それだけで十分だよ。

----特に誰か、名前を挙げてもらえますか?

ラッパーのナズ(NAS)が映画のポスターを投稿してるのをスクリーンショットして誰かが送ってくれた。あれは興奮したな。マジかよ、ナズ!って。 信じられなかった。

----サミュエル・L・ジャクソンのコメントについて、どう思いますか?

あのさ、サミュエル・L・ジャクソンは俺がこの業界でキャリアを重ねていくのを助けてくれたんだ、すごく親身になってね。仕事でも、プライベートでも。彼はレジェンドだよ、何十年もその立場にい続けている。彼に対してはリスペクト以外に何もない。ひとつ言えるのは、彼はまだ映画を観ていない。たくさんの人たちが、自分の言いたいことのために彼の話を利用してるみたいな気がする。俺は自分の人生を生きているだけ。ただ、同じ文章の中に「黒人」という言葉と「安い」という言葉が並んでるのは気分が悪いよ。世界中の誰が言ったとしてもだ。俺たちは安くない。そうだろ?

そういうことが原因で人が死んでるんだから。役を演じるのとはまた別のことだよ。演技は演技。現実の世界で黒人は低く見られてる。「黒人」と「安い」を並べちゃダメなんだ。黒人の男性は安くない、黒人女性も安くない。安い黒人なんていない。俺たちはものすごく値打ちがある。だけどサミュエルがすごい人なのは変わらない。閉ざされた扉を壊してくれたんだから。デンゼル・ワシントンもそう、ジェイミー・フォックスも。扉をぶち壊してくれた。俺がいま考えているようなことを考えられるのだって、彼らがしてきたことのおかげだと思ってるよ。

----あなたは映画の中で、人種差別のからくりや、それが内面化していくさまを巧みに演じていました。役柄の上では、どんなことを考えていましたか?

メディアでとりあげられる人種の問題は、極端なものが多い。例えば有名人の誰かが他の有名人の誰かを人種差別的な蔑称で呼んだ、とか。誰かが警察に撃たれたとか。でもそういうのは、病気の兆候のようなものなんだ。もし人が俺を見て、肌の色とか、イギリス人という国籍しか見ないなら、それは人間そのものを見ずに、ただ兆候を見ているだけ。『ゲット・アウト』の脚本は、それが本当によく描かれているのがすごいと思った。そんなふうに他人を見るやり方がね。それこそが日常的な人種差別だよ。例えば俺がテスコ(スーパーマーケット)に行くと、警備員に追いかけられる。黒人の警備員に。どういうことだ? 俺がカクテル・シュリンプ味のポテトチップスを万引きするとでも思ってるのか? 俺はそんな物を盗みそうに見えるのか? だから高級な店には行かないんだ、最低の扱いを受けるだけだから。毎日そんなことを感じている。食料を買うだけなのに、自分が黒人だということ、それが人々の意識の中でどんな意味を持っているかということを思い知らされるよ。だけど、そういうことにいちいち立ち向かうのはあまりに疲れる。それで自分の中に溜め込んで、内面化してしまうんだ。

----なぜこの作品はホラーでなければいけなかったんでしょうか?

人種差別は恐怖だからだよ。人種差別は悪魔で、人を殺すからだ。映画の中にはモンスターも悪霊も出てこない。あるのは差別意識という恐ろしいものだけ。それがパラノイアを生み出すんだ。肌の色のせいで刑務所送りになることもある。肌の色のせいで牢屋に入れられるんだよ。外で警官に止められても、言い返すことさえできない。そんなことをすれば、逆らおうとしていると決めつけられてしまうから。自分の臆病さを責めるけど、身の安全のためだから仕方ない。それでもひどい自己嫌悪を感じてしまうんだ。

----あまりネタバレしないような形で答えてもらいたいのですが、もう一つの結末はなぜ採用されなかったと思いますか?

撮影はしたんだよ。そっちも試してみたけどうまくいかなかったみたいだ。脚本が書かれてから、撮影をして、映画が公開されるまでに、あまりにたくさんのことが起きたからね。「ブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)」の運動もあったし、まだオバマ大統領の時代でもあった。人種差別は解消したと考えられていた。でも、監督のジョーダンは、"いや、それは違う"と言いたかったんだと思う。もうひとつのエンディングでは、いま現在起きていることを、あまりにはっきりと明るみに出してしまっているから、観客にとってはトゥー・マッチだったかもしれない。採用された方の結末には解釈の余地がある。使われなかった方がリアルではあったかもしれないけど、最終的には少しの希望が感じられる方に決まった。いまこそまさに、希望が必要とされているときだからね。

Credits

Text Colin Crummy