日本橋の中心、三越本店の目の前にあらたなギャラリーがオープンした。「NACC/日本橋アナーキー文化センター」と名付けられたこの施設は、ソスウによって1年間限定で運営されるアートスペース。高さ約 6m の内壁には、一面にDIEGO、Biko and Kenny from TZCによるペイントが施され、プロジェクトメンバーの琴線に触れたアーティストが“無秩序”に並べられている。
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若者の自由な発表の場が少なくなっていることを危惧したソスウが、商業的ではない「遊び場」として生み出したアートの発信地。日本橋という土地を選んだのは、単に街と“アナーキー”のギャップを面白がったからではない。普段なかなか足を運ばない日本橋という街の魅力を若い人にも味わってほしい、そのきっかけになればと話す。今後は1カ月半ごとに展示を入れ替え。ソスウが定期発刊するアートフリーペーパー『土色豚』のエキシビションも予定している。我こそはと思うアーティストの自主プレゼンもウエルカム(ただし審査はあります)。10⽉20⽇(⽊)まで開催される初回の展覧会では、ファッション、アート、音楽と、異なるジャンルの13組のアーティストが参加する。
出展アーティストに聞く見どころ
【奥田浩太】
1ドル紙幣をモチーフにしたドレスで一躍話題に。世界のセレブリティからもオファーが絶えない奥田浩太の作品を一覧できる機会は日本で初。素材や加工技術など、間近に見ることで新たな発見がある。200枚の1セント硬貨で作ったブラジャーは、素材費2ドル。その価値はいったいいくらなのか。ふだん何気なく触れている“お金”の価値を、ふと立ち止まって考える機会に。
ー About
1991年生まれ、新潟出身。ジュエリーデザイナーとして、「AHKAH」のジェンダーレスラインのデザインのほか、「TELFAR」「Yʼs PINK」など国内外多数のファッションブランドとコラボレーション。アーティストとして資本主義における価値の不思議を探求すべく、 “MONEY”をテーマに置いたコレクションやアート作品の企画・展示を多数手がける。2018 NYFW で発表したファッションショーが話題になり、カニエ・ウエストやリアーナを始めとした数々のセレブリティーと交流。全米他、世界各地へ衣装提供している。
【土居哲也】
くまの着ぐるみのようなセットアップや、おなじみのブランドのパロディなど、ユーモアとタブーをミックスしながら独創的な世界を描き出すRequaL≡(リコール)。これまでアーカイブを展示する機会がなかったという土居哲也本人にとっても、コレクションを再解釈するきっかけになったと話す。
ー About
少年時代にビジュアル系ロックバンド Janne Da Arc の中性像に魅了され装いの虜に。その後国内の様々な教育機関で服飾を学びながら在学中に「RequaL≡」設立。ブランドコンセプトは時の単位に常に等しく。CHANEL 主催の南仏で開催されるイエール国際モードフェスティバルでは審査員特別賞を受賞。 現在では国内外でコレクション発表を継続しながら精力的に活動中。
【HUMAN AWESOME ERROR (蔡海、恒良英男、福原志保、他)】
金属を叩いて成形する鍛金の技術を、暴走族のカスタムバイクに応用した「工藝族車」。工藝と族車という一見交わることのない価値観は、画一性へのアンチテーゼという共通点を浮き彫にする。「民主的工藝」では、古物の益子焼と100円ショップの器に、NFCチップを埋め込んだ。手を加えないことが価値とされる古美術の世界では、御法度ともいえるチップを埋め込んだ器。一度価値をゼロにした益子焼の器と、現代の100円ショップの器を並べ、未来における価値について考える。
ー About
物事の摂理、現象を理解しようと、我々人間は自然科学や文化で関係を結ぶ。しかし、正しいと思い込んでいる人間の認識はエラーだらけである。一方、自然界におけるエラーは進化の契機となる。 私たちは、そのエラーを面白おかしく発見しながら、世界を再認識するためにフィールドワークを行う。HUMAN AWESOME ERROR とは、流動的で有機的な活動体である。 現代、引き続きエラーだらけのテクノロジーやシステムを、人間はどのように受け入れて生きていくことが出来るだろうか。
【岡田佑里奈】
写真の表面を“ひび割れ”させることで、新たなアプローチを試みる岡田佑里奈。今回の展示では、「NACCの空間に、こっそりと野良猫が存在しているように意識した」と話す。自由で干渉もしない野良猫たちが、NACCで繰り広げる特別な旅を目撃したい。
ー About
1995 年兵庫県出身。2020 年京都芸術大学修士課程修了。主な個展に「Walk in a dream」(ARTDYNE、東京、2021)、主な受賞歴に「The Art of Color DIOR 2019」(入選、 フランス)「ART AWARD MARUNOUCHI 2018」「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD#7」がある。
【前田梨那】
写真という他者を通して「私」と「あなた」の関係性について考えるという前田梨那。現像の手順を組み換え、イメージと偶然を触れ合わせながら制作する。本展では、制作時期の異なる3作品を展示。最新の作品は、重ねて展示した3枚の作品をガーゼの隙間からそっと覗きみる趣向。
ー About
1997 年神奈川県生まれ。和光大学芸術学部卒業。写真=物体や行為の痕跡を残すものととらえ、型紙や写真乳剤を使い、生きることやその中での役割と関係性をテーマに作品の制 作を行う。2021 年に TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD グランプリ、大山光平賞を W 受賞。 近年の個展に「ほしの散らばり」(Totem Pole Photo Gallery、東京、2021)「超不定期訪問/滞在制作 project《Nami Ita に、いた?いる!》Vol.03 前田梨那『去来するイメージ/往還する痕跡』」(ナミイタ-Nami Ita、東京、2022)などがある。
【松井祐生】
「人間のなかにある放射能=コミュニケーション」と仮定し、被曝した記憶の壁をコンセプトにしたCG動画作品を展示。コミュニケーション(理解し合うこと)は自分と相手との壁(細胞壁)を溶かして双方が入れるようにすること。その力が大きくなると修復できない傷が生じてしまう可能性がある。国を人間の拡張と考えれば、戦争にだって広がりうるのである。
ー About
東京出身。駒澤大学を卒業後、2016 年写真新世紀優秀賞受賞を機に、独学で映像/写真/ペインティング制作を始める。「変形・変容」をテーマとし、主作品として自身の精神分析受診の記録映像を渋谷の夜景に暴露する「Comunities influence me」、自然と人間との矛盾する美的関係性を捉えた「Humancity in the nature」など。2021 年に IMA NEXT グランプリや TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 準グランプリなどを受賞。 2021 年『きっと私たちは自然ではない』(アートビートパブリッシャーズ supported by FUJIXEROX)を刊行。
【伊藤颯】
スタンリー・キューブリックによる『2001年宇宙の旅』と、とあるアニメの終わり方が似ていたことをきっかけに制作された、“発掘調査中のモノリスのようなものがある神殿”。暗号のような言語が所々に記され、見るものによって考察され、解読されることを待っている。
ー About
作品とは自己と世界の謎解きのツール、暗号や Black Box であるという独自の考えのもとに制作を行う。 写真を制作の軸としながら、そのアウトプットはインスタレーションや立体作品など多岐にわたる。主な受賞歴に 2021 年 JAPAN PHOTO AWARD Elisa Medde (Foam magazine 編集⻑)賞、PITCH GRANT2021 ファイナリストなど。また 20 代前半の若手アーティストのコレクティブ GC Magazine のリーダーを務め、東京を中心に展覧会の開催や月刊誌の編集/発行を行っている。
その他の出展アーティスト
【富永航】
ー About
武蔵野美術大学を卒業後、文化服装学院服飾研究科を経て 2015 年セントラル・セント・マーチン ズ、BA ファッションプリント 科を卒業。在学中にはジョン ガリアーノ、ブレス、エディピークのアシスタントを経験。 卒業時に発表したコレクションは仏イエール国際モードフェスティバルにてグランプリを受賞。2018 年、Forbes 30 Under 30 Asia – The Arts に選出。2019 年には、ロサンゼルス・カウンティ美術館 (Los Angeles County Museum of Art)に作品が収蔵される。
【Biko and Kenny from TZC】
ー About
Biko と Kenny は 13 歳の頃から東京を中心に若者、道、社会問題に焦点を当てた作品を制作し活動している。社会に対しての怒りや願いが含まれる作品を創作する彼らのインスピレーションとなっているのは彼らが通った道で見たもの、触れたもの、 BLACK LIVES MATTER のデモに参加した時の感覚や、ヒップホップやパンクに影響を受けている。 二人は「ひとつ」の媒体にとどまらず、絵、プレゼンテーション、バンドなどさまざまな形で多種多様なメッセージを届ける少年たちだ。
作・Mx.W.M.
【DIEGO】
ー About
10 代でストリートアートを始めた DIEGO は「東京のストリートを代表するアーティスト」ではないが、「日本のストリートシーンにおいて、最も風変わりなアーティスト」だ。 美術教育は勿論のこと、大学・専門教育は受けていないし、東京の荒々しいストリートシーンに揉まれて育った訳ではない。 その代わり DIEGO は持ち前のオタク的観点によって graffiti やストリートアートに精通し、街の中に独自の視点で表現を仕掛け続け、いつからか「ジワジワと知られる」ストリートアーティストとなった。DIEGO の作品に登場する不恰好で可愛らしいキャラクター達は、彼が街の中を自転車を漕いで探し出したレトロな看板や、古本屋に足蹴に通って昔の印刷物から探し出した「製作者不明のキャラクター」である。また、彼の描く不思議な文字は、ヨーロッパを中心として新しい世代に広がるToy Grffiti(下手グラフィティ)の影響を受け、独自の視点で発展させたスタイルだ。このような DIEGO のもたらす「脱臼したストリート表現」は、絵画や壁画というビジュアルアートから、また街の中の graffiti、そしてコンセプチュアルアートまで、少しづつ活動の幅を広げている。近年では SIDE CORE の一員として展覧会の企画や作品発表に勤め、また自身が主催する壁画プログラムにおいても世界各国のアーティスト達の壁画制作のディレクションをおこなっている。
【羽地優太郎】
ー About
2001 年沖縄県生まれ。多摩美術大学在学中。養生テープなどを用いて都市風景に身体を介入させていくパフォーマティブな写真制作を行っている。2020 年 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD グランプリを受賞。同年に G/P+abp より自身初となる写真集『NEW ORDER』を発表。2021 年にはリコーイメージングスクエア東京で赤々舎ディレクター・姫野希美の推薦により個展「pass(by)」を開催した。
【伊東篤宏】
ー About
1980 年代後半より美術作家として活動を始める。1998 年から展覧会などでサウンド・パフォーマンスを開始し、インスタレーション作品と同素材である蛍光灯を使用した自作音具 「オプトロン」を制作。数々の改良を加えつつ現代美術側からの音あるいは音楽へのアプローチを続けている。 数々の個展やソロ・パフォーマンスのほかに、進揚一郎(ドラムス)との爆音エクストリーム・オプチカル・ノイズコア・バンド 「Optrum」など、いくつかのユニットでも活動中。
【山川冬樹】
ー About
自らの声や身体をプラットフォームに、音楽、美術、舞台芸術の境界線を横断するパフォーマンスを展開。 心臓の鼓動や頭蓋骨の響きといった、身体内部で起きる微細な活動を、テクノロジーによって音と光として空間に還元。 主な作品に、ニュースキャスターであった父親が生前に遺した音声や映像をもとに再構成した、声や記憶をテーマにしたインスタ レーション作品《The Voice-over》(2008)がある。また、南シベリアの伝統歌唱「ホーメイ」の名手としても知られる。
EXHIBITION
「現代写真のアナキズム Ontological Anarchy on Photo」Curated by SHIGEO GOTO
伊藤颯、岡田佑里奈、羽地優太郎、前田梨那、松井祐生(関川卓哉)
伊東篤宏、奥田浩太(KOTA OKUDA)、土居哲也(RequaL≡)、富永航(WATARU TOMINAGA) 福原志保(HUMAN AWESOME ERROR)、山川冬樹、Biko and Kenny from TZC、DIEGO
期間:2022年9月10日 (土) 〜 10月20日 (木)
協賛:アオイネオン株式会社、株式会社 七彩、サントリーホールディングス株式会社、Insideout ltd.、ON
NACC/日本橋アナーキー文化センター
住所:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町 1-6-2 日本橋室町 162 ビル 1F
定休日: 会期中は全日営業
営業時間:平日 10:00〜19:00 / 土日祝 10:00〜20:00
電話番号:03-6262-3862
メール:nacc@sosu.co.jp
HP:http://nac-c.jp/
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