アートのあるような非日常の中に日常の服を見せたかったーー。印致聖(イン チソン)が手掛ける「イン(IHNN)」が開催した2021年春夏コレクションのショーはシンプルな構成と演出で全22ルックが披露された。
コレクションではネックデザインが特徴のピンクの細ストライプワンピースに始まり、セットアップやパジャマのような開襟シャツ、シアーな素材のノーカラーシャツ、ホワイトやレッド、オレンジのマルチカラーのファブリックが縫い合わされたスカートと続き、全体的にゆったりめなシルエットとリネンやキュプラなどの高級感のある光沢と軽やかな素材感が際立った。
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椰子の木が描かれたスタンドカラーシャツはショートパンツと合わせてアクティブに、爽やかなオレンジのサマーニットとプリーツスカートは清々しくナチュラルでリラクシングなムード。小物使いは華奢な細い紐ベルトやフィッシュネットのバッグ、大きめのハットなどで、アクセサリーなどの装飾はあえて混ぜず、あくまでもシンプルなスタイリングに仕上げた。どのアイテムも街中で女性が着ている姿が想像できるようなリアルさを感じさせる。
そんなランウェイに置かれた一際存在感を放つ鉱石のような丸や四角のオブジェ。これはロエベクラフトプライズ 2019でファイナリストに残った陶芸作家 橋本知成の作品で、ショーのために工房のある滋賀県から運び込まれたものだという。デザイナーの印は初めて橋本の作品を見た時にその魅力に引きつけられ、ショーへの作品提供を依頼した。
表面に現れるマーブルは、長い時間釜に入れ釉薬が化学反応を起こすことで生まれる模様で、様々なアングルから見ることで神秘的で異なる表情を見せる。印はこの橋本の本質的な色を追求するという創作理念に、立ち上げから5年ほど経つブランドを重ね合わせ、「シンプルでも直球で服を見せたい」との思いから2回目となるショーを開催した。
コロナ禍でデザイナーとしての心境にも若干変化があった。これまでは厳選したショップに商品を卸すことに重きをおいてきたが、これからは服の魅力を伝えてブランド単体としても力をつけていく必要性を感じているという。
雨の中のマーチングバンドの演奏や個性的なスタイリングと演出が印象的だったファーストショーからちょうど2年。その時とは打って変わり、オブジェだけがポツンと置かれたデザイナーの言う非日常的な空間が、服そのもの美しさを引き立てていた。
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