【コラム】「ヴィンテージ」と「古着」ってどう違う?

 時をまとうヴィンテージファッションが日本でも市民権を得つつある。「クラシック」が主題のこの秋冬は、ヴィンテージデビューの絶好のチャンス。本格的な秋の到来を前に、「ヴィンテージ」にまつわる言葉の意味や、ショップでの選び方、着方などをまとめて整理してみよう。


(写真)ヴィンテージ・古着を用いたストリートの着こなし


 「vintage」という英語は一般に「かなり昔の良質な物」という意味で使われるが、最も有名なのは、ワイン用語としてだろう。ただ、ワインの世界では、単に「年代物」という意味で用いられてはいない。ブドウは収穫年ごとに出来が異なり、当たり年もはずれ年もある。ヴィンテージと呼ばれるのは、良質のブドウが収穫された、特別な当たり年。その年のブドウで造られた極上物が「ヴィンテージワイン」となる。

 しかし、ファッションの世界で言う「ヴィンテージ」には、特定の当たり年はない。当時の創り手が生み出した、優れたファッション遺産を指す言葉だ。ただ、もっと広い意味の言葉「古着」との違いが分かりにくく、「ヴィンテージ古着」という言葉まである。
column_vintage_03.jpg


 はっきりした定義のようなものはないが、「古着」は「used(ユーズド)」と言い換えれば分かる通り、一度でも誰かが身に着けた衣類を指し、中古衣料全般を指す言葉。一方、「ヴィンテージ」とは、古着のうち、一定の古さと質を兼ね備えた逸品を意味する。デザイナーズブランド、1点物などの要素もヴィンテージにまつわるイメージだが、必ずしも絶対条件ではない。保存状態が良好であることもヴィンテージに望まれる(ジーンズやアロハシャツなどには独特の位置づけがあるので、ここでは省く)。

 どれだけの時を経てきたのかは、古着とヴィンテージを分ける重要なポイント。古着は近年発売されたアイテムでもあり得るが、ヴィンテージと呼ばれるには、それなりの歳月が必要となる。大まかに言えば、30年間程度は経ているイメージ。つまり、現時点でヴィンテージという名前に値するのは、1970年代以前に発売された品ということ。やがて80年代以降の品もヴィンテージになっていくが、現時点ではまだ新しい感じがする。


column_vintage_02.jpg
 似たような言葉に「デッドストック」がある。こちらは昔の商品が未使用のまま保存されていたものを指す。保管状態を意味する言葉だから、デッドストックのヴィンテージもあり得る。米国で「リセールショップ」と呼ばれる店で扱う品には、あまり袖を通さず、新品に近い状態で保管されていた物が少なくない。パーティーで1回着たら、もう着ないといった富裕層がワードローブ整理を兼ねて売りに出す場合が多いという。

 「アンティーク」には「家具、骨董」というイメージが強く、衣類にはあまり使われない。ただ、アクセサリー、宝飾品に関しては「アンティークジュエリー」というジャンルが存在する。保存性の高い貴金属は100年以上の歴史に耐えるだけに、骨董的な価値も生まれる。「セカンドハンド」は広い意味で「中古」を示す。かつては「セコハン」と略すことも多かったが、近頃は「ユーズド」のほうが一般的のようだ。


 愛着を受け継いだアイテムを扱うだけに、ショップ側は「古着」という言葉を避けて、「ヴィンテージ」と呼びたがる傾向がある。しかし、看板は「ヴィンテージショップ」でも、品ぞろえは割と近年のユーズド主体というところもざらにあるので、買う側からはショップを見極めにくい。

 古ければ古いほど良いという訳ではなく、価値のあるデザイン、素材、ムードなどが求められ、現代ではもう再現の難しい仕立てや技法、布地などが備わっていれば、ヴィンテージの価値は上がる。こういった逸品に出会えるのは、ヴィンテージショップ巡りの醍醐味と言える。


 それぞれの時代感をまとえるのも、ヴィンテージのいいところ。形や、生地、ディテールなどに、当時のおしゃれ感覚が落とし込まれているから、コーディネートに1枚加えるだけで、装いに深みが加わる。新品ばかりで固めた装いには出せない風格やノスタルジック感が寄り添うのは、ヴィンテージならではだ。衣類以外にバッグやアクセサリー、アイウエア、腕時計のヴィンテージ人気も高い。
column_vintage_05.jpg


 ただ、取り扱いが難しいのは、ヴィンテージゆえの宿命。年相応のダメージを受けているのは当たり前。布地がほつれやすくなっていたり、色落ちしやすい状態になっていたりするので、クリーニングさえも難しい場合がある。それだけに購入時には保存状態とコンディション、衛生度のチェックが欠かせない。

 ヴィンテージは数が限られていて、入手が難しく、その地域で30年を超えるモード消費の歴史がないと、上物が供給されにくい。最近はヴィンテージ人気の高まりを受けて、ニューヨークやロンドン、パリなどのファッションエリート都市でも商品が不足しがち。眠れる名品を求めて、欧米以外の国や、首都以外の周辺都市にまで宝探しが広がりつつある。欧米にはチャリティーバザーの習慣が根付いていて、富裕層が着なくなった服や小物を寄贈するケースが多く、遺産相続や引っ越し、住居改築などをきっかけにヴィンテージが市場に現れるチャンスもある。


 納得できる品を手に入れるには、手間が掛かる。ヴィンテージショップを足繁く回り、フリーマーケット(蚤の市)を訪ねるのが一般的な入手法。ネットショップやオークションも使えるが、コンディション確認の面では実際に手で触れて買い求めたいところ。あえて自分の足で探すというアナログ的ショッピングはヴィンテージという存在にふさわしい上、宝探し気分で逸品に巡り会えたときの感激はひとしお。苦労して手に入れたという記憶が、自分だけの1点物という愛着をさらに深める。

 現代のファッションとは別のムードを持つヴィンテージは、ほかの服の持ち味を引き立ててくれる点でも、スタイリング上の妙味がある。だから、購入に当たっては、手持ちワードローブとのなじみ具合を意識したい。1点だけヴィンテージを差し込むと、いつものコーデに深みが加わる。クラシックな装いが大きな一大ムーブメントとなるこの秋冬にヴィンテージを迎え入れれば、そのタイムレスな魅力の虜になってしまうことだろう。


(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江