ファッションジャーナリスト

「モードノオト」水曜日

「モードノオト」水曜日の画像

 これは、どうでとんでもねぇモノを見ちまったなぁ。ショーの毒気にあてられ既に酩酊気味のふらつく足で、雲霞の如く押し寄せるひとの波を掻き分けた。舞台裏、其処此処に山縣良和の姿を探すが見当たらない。野暮な囲み取材が終わるのを待つなぞ、無駄にときを浪費したくなかったので、そそくさと会場を後にしてホームグラウンドの酒場に向かった。身体がいまは、ジンではなく清酒を欲している。石油ストーブにかけた薬缶で湯煎した一升瓶から頂戴する燗酒にトロリとしながら、先程の「リトゥンアフターワーズ」のショーを、老牛のようにグズグズと反芻する。(この場合、使い方が間違っているが)どうやら、迎え酒を求めていたようである。勿論、ショーが面白かったのは今更贅言を要しないだろう。しかし、諸手を挙げてただ雀躍してはいられぬ、正直複雑な思いが脳裡を掠めてもいた。

 廃材や芥、工事現場のビニールシートなぞが、いつしかビンテージの着物生地やベルベット、マルチカラーのハンドニットやスパングルやフェザーの総刺繍に取って代わり、デロリと眼前に放り出された下手物のような往時の服(=メッセージ)が、いまや歴とした服(=商品)に格上げされている。あまつさえ、表参道を会場に定め、世界的なラグジュアリーブランドのメッカである表参道の臍にあたる地の利も効いている。デビュー当時の、塵芥の如く扱われた破天荒なストーリーテラーは、ブランド確立への道程を急速に駆け上がり始めたのである。次なる里程標をパリコレクションに定めてからは、そのピッチに加速度がついた。判官贔屓を気取り、その実、如何物好きの質に出来ている私には、この山縣の短兵急な変貌が(どうにも情けないことだが)羨ましく、少しく嫉ましく映った。(常々認してきたにも拘らず)本来エールをおくるべき立場なのに、バクテリアみたく矮小で全く思慮を欠いた我が身を猛省しつつ、酒で解毒したかったのである。

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 服で極上のファンタジーを物語るところが山縣のお値打ちであり、自らの出自である鳥取県や山陰地方の風土と、昨年物故した水木しげる(大阪府生まれ鳥取県育ち)の作『ゲゲゲの鬼太郎』にイマジネーションを服らませた今回の作品は、オートクチュールを眇で睨んだ手仕事とワンオフピースに照準を合わせたものだった。目玉おやじや猫娘、樹脂やフェザーで造形したエイリアンや隻眼の化け物マスク、烏の飾り、ネズミの装飾、巨大な唐傘、経文刺繍、一本歯の高下駄...。黄×黒の縞模様の鬼太郎のちゃんちゃんこを引用したニットを着た、ぬりかべ然とした巨人は、緋色の着物の少女を従えている。同じ長さに切り取った無数のビデオテープの束が天井から吊るされていて、空調にゆらゆら揺れる様子は、風になびくススキのようで、魔界妖怪魑魅魍魎を物語るには格好の演出である。妖怪ワールドに、拝金趣味ギラギラのヒップホップカルチャーを交配するあたりが、山縣流儀の<照れ隠し>で、この勘所を心得た仕事ぶりがなければ、只の見世物に堕してしまうところだった。デッドストックの着物生地で仕立てたコート、手編みで拵えた極太ニットのドレス、ニードルパンチでモコモコを纏った格子柄のコート(白色は山陰の吹雪を、駱駝色は鳥取砂丘の砂嵐をイメージしたのだろう)、ビーズの総刺繍で造形したボレロ、フロックプリントで杉綾模様を載せたスエードのコート...。いずれもラックに掛けても違和感のない<服>に仕上がっていて、何より男女兼帯のデザインからウィメンズ仕様の服に舵を切ったところに、山縣の決意の程が伺えるのだ。往時の彼の作風には、いわば横紙を破る強気が感じられた。そこが魅力でもあった。しかし、この強気の故に、しばしの間沈黙を守らねばならぬ破目になっていた。さて、ここからは是非とも一気呵成に攻めてもらいたいものである。(文責/麥田俊一) 

>>writtenafterwardsの2016-17年秋冬コレクション

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