ファッションジャーナリスト

モードノオト2017.03.20

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その男の眉毛は非常に薄かった。眼に入る汗を防ぐと云う、眉毛本来の役割など果たせそうもない代物だった。だが、それでもいいのかも知れない。汗をかくような仕事とはまるで無縁の男のようだからだ。いや、この男ならば、所謂仕事とも無縁なのかも知れない。その眉毛が吊り上がった。薄いなりにも、持ち主の気持を雄弁に語っていた。一杯呑むたびごとに、私が千円札を払うからだ。バーテンは、そのたびに、面倒くさそうに、釣りの小銭をカウンターに叩き付けてくる。オーケー、イライラしているのは、なにもあんただけではないさ。帰路のタクシー代を気にして、尚も呑み続ける。ドアの外では雨が降り始めた。私のザマときたら、縫い目が解けそうな雑巾そのもの、ショーが詰まらなかったことを言い訳に、胃袋をジンで満たしていた。頭のなかは幾何学模様が渦巻いていた。

判りやすい作品に判りやすい感情移入をすることで、自分のなかの似た感情が劇化され、ついには安直なカタルシスを得ることが可能となるものだ。目新しさはないが、「グローイング ペインズ(GROWING PAINS)」のショーに、油断していたらノセられている自分がいた。不覚にも...主題に共鳴することはなくて、もっと枝葉末節の、皮膚感覚に近い部分での共鳴である。しかし、主題と枝葉末節は、実は等価であるという事実を改めて実感することにもなったのだが...。赤十字の徽章を思わせるシンボルを繰り返し、従軍に纏わる着想が、アウトドアやスポーツ、フェティシズムやロリータ、全方位に硬軟の対照をなしていて、コスチュームプレーさながらに展開されたものだった。得てしてこのような場合は、服が薄っぺらに見えてしまうものだが、それも杞憂に終わった。気合いもあった。目立たないときには目立たないように。大胆なときは大胆に。細身の諸刃の剣にもなれば武骨な棍棒にもなる。両コーナーをきわどく突くこともあれば、ド真ん中を貫くこともある、と云った有様だった。端より色物と、高を括って会場に向かったものの、気が付けば、その場の空気にドップリ嵌まっていたのである。これは最早、プロのデザイナーも顔負けのパフォーマンスだ。

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蜜蜂は、花から花へと飛び回り、蜜と花粉を集める。雄蕊を擦って花粉を集め、後肢にある花粉籠に蓄える。蜜蜂が別の花に飛べば、花粉の一部は、その花の柱頭に移る。蜜は蜜蜂のエネルギー源、花粉はタンパク源となる。花から花を飛び回る昆虫のなかには、送粉をせず蜜のみを採るものもあると云う。今回のショーを指揮したユリアが、盗蜜者であると云うつもりは毛頭ない。誤解しないで頂きたい。その触覚と嗅覚の鋭さに感服したまでのことである。(文責/麥田俊一)

>>GROWING PAINS 2017秋冬コレクション

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麥田俊一