2020年上半期に出版されたファッション・アパレルにまつわる新刊60冊を、「ビジネス編」「エッセイ・ファッションブック編」「批評・研究編」「テキスタイル編」「着物編」の5つのテーマに分けて紹介する。
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本記事では「批評・研究編」と題して、10冊の新刊をピックアップ。
販売サイトのリンクも掲載しているので、気になる本があればぜひ購入して読んでみてほしい。
「アイデア No.390 2020年7月号──writtenafterwards 装綴 ファッションデザインの生態学」
(アイデア編集部・編、誠文堂新光社、2829円)
「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」デザイナー山縣良和が監修したグラフィックデザイン誌「アイデア」初のファッション特集号。断片的なヴィジュアルともに、ファッションデザインの歴史と「writtenafterwards」の創作と思考を紹介していく。グラフィックの中に度々現れる蚕の姿が象徴的。民俗学者、フォトグラファー、教育者、キュレーターなど幅広いジャンルで活躍する専門家らによる寄稿文やここのがっこうに所縁のある研究者やクリエイターらによるファッションの世界を目指す若者に向けたメッセージ、山縣デザイナーと解剖学者の養老孟司との対談などテキストも充実した内容になっている。
【販売サイト】
https://www.seibundo-shinkosha.net/magazine/art/43335/
「AFFECTUS vol.7」
(新井茂晃、AFFECTUS、600円)
"ファッションを読む"をコンセプトに、オンラインで連載されているファッションエッセイ「AFFECTUS(アフェクトゥス)」の書籍版最新作。アントワープ王立芸術アカデミーの独自性について語った書き下ろし「“Antwerpen & Identity” 心のうちを余すところなく晒すアントワープ」を含む、全15編をまとめた。ほかにも「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」のメンズ アーティスティック・ディレクターに就任したヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)について書いた「ヴァージル・アブロー、ルイ ヴィトンへ」をはじめ、「ニューヨークの服が教えてくれること」「現代と戯れる山本耀司のY-3」など、2018年5〜9月に公開された魅力的なタイトルが並ぶ。エモーショナルなテキストが、ファッションの新しい楽しみ方を教えてくれる。
【販売サイト】
https://affectus.stores.jp/
「Fashion Talks… VOL.11 SPRING2020 特集:スポーツ① on sports」
(石関亮・小形道正・松坂雅子・編、京都服飾文化研究財団、700円)
京都服飾文化研究財団(KCI)が年2回出版する硏究誌。最新号はスポーツをテーマに、オリンピック日本代表選手団の開会式用ユニフォームの歴史に迫った論文などを掲載した。ほかにも、東京オペラシティアートギャラリーにて巡回展も開催されたKCI主催の「ドレス・コード?──着る人たちのゲーム」展、東京都現代美術館で開催された「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展などファッション関連展覧会の展評や、KCI新収集品の紹介なども掲載している。ファッション研究領域外の人が読んでも面白い内容なので、気になるテーマがあればぜひ。
【販売サイト】
https://www.kci.or.jp/publication/purchase.html#main
「人を着るということ Mind That Clothes the Body」
(小野原教子、晃洋書房、2800円)
"(人間は)人(という衣服)を着ている(動物)とは言えないだろうか"──パジャマで幼稚園に行きたいと駄々をこねる子供、ゴスロリ、詩人の北園克衛、漫画、作家の林芙美子、着物、袈裟…多様な切り口から、衣服をめぐるアイデンティティ、社会性、文化、価値観、そして人間が衣服を着る意味という根源的な問いに向き合ったファッション論考集。時折見せるポエティックな表現が考察に華を添える。日本語論考8本にあわせて、英字論考5本を掲載した両開きの構成が特徴。
【販売サイト】
http://www.koyoshobo.co.jp/book/b505603.html
「装いの心理学: 整え飾るこころと行動」
(鈴木公啓・編著、北大路書房、2700円)
心理学の視座から人類普遍の行為「装い」を考える。本書では、メイクアップやスキンケア、下着、ピアッシング、イレズミ、美容整形、毛髪・体毛、言動、コスプレ、化粧療法、装いの低年齢化や起因障害など16のテーマから、その社会的機能や心理的機能などを紹介していく。章末に挿入されるコラムが読む人の興味関心を広げてくれるはず。人は生まれてから死ぬまでのあいだ、絶えず装うことで自他のまなざしに晒される自己像を操作していく。人間の根幹に関わるその行為と向き合うきっかけに。
【販売サイト】
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784762831034
「化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか? (新装版)」
(平松隆円、水曜社、2700円)
2009年出版の同名書籍を装い新たに刊行。本書は、化粧という言葉の語源や意味を整理するところから始まり、日本における化粧の歴史的・文化的変遷を基礎化粧時代、伝統化粧時代、モダン化粧時代の3つの区分に再構築して辿った後、統計学的手法を用いて若者の化粧への関心と行動の相関や意識の実態を分析していく。化粧とは本来、女性に限られた行為ではない。化粧という行為を多面的に捉え直すため、化粧の文化的、心理的価値への認識を深めるためにぜひ。
【販売サイト】
http://suiyosha.hondana.jp/book/b488447.html
「美容資本──なぜ人は見た目に投資するのか(シリーズ 数理・計量社会学の応用1)」
(小林盾、勁草書房、2700円)
人は本当に見た目で得をしているのか。本書では、美容を株式のような投資可能な資本に見立てて、社会的経済地位や幸福意識などとの因果関係を導き出す。アンケートによる定量調査をベースに、美容師や皮膚科医らへのインタビューなどの質的調査を組み込むことで成果に厚みを持たせた。分析結果によると見た目の美しさは、生まれついたもの以上に努力の結果であるという。諦めなければ美容は作れるという本書の結論は、読む人に希望を与えるだろう。
【販売サイト】
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b505955.html
「現代中国服飾とイデオロギー 翻弄された120年」
(山内智恵美、白帝社、6909円)
近現代における中国の服飾文化の変動は他に類を見ない。著者は、その変化の根本に中国国内の主流イデオロギーの影響を見出す。本書には、新中装、華服、漢服、新唐服、中山服、旗袍に見られる地域性・民族性の問題や伝統史観、身体観の変化や西洋文化の合流など、中国独自の現象とその内実の解明に踏み込んだ7本の書き下ろし論文を収録した。近現代の中国服飾文化には政治的な思惑が見え隠れしている。本書で取り上げられる事例から、ファッションを取り巻く複雑な力学が見えてくる。
【販売サイト】
http://www.hakuteisha.co.jp/book/b505640.html
「チャイナドレス大全 文化・歴史・思想」
(謝黎、青弓社、2400円)
中国の伝統衣装=チャイナドレスと想像する人が多いかもしれないが、そう単純な話ではないらしい。チャイナドレス=旗袍(チーパオ)は、女性の社会進出と中国社会の歴史と共にあった。身体性、ジェンダー、民族性、アイディンティティーなど多様な切り口から、その複雑な歩みを追う。中華民国期における女性の身体観改革と纏足・束胸からの開放、モダンガールの登場と消費される女性性、文化大革命期の衰退と軍服ファッションの普及、香港・台湾・マレーシアなどの海外における展開、唐装や漢服との伝統服論争…その受容形態の変遷は、長い歴史を持ち多民族で形成される中国ならではの現象だろう。
【販売サイト】
https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787234704/
「衣装と生きる女性たち──ミャオ族の物質文化と母娘関係(地域研究叢書40)」
(佐藤若菜、京都大学学術出版会、3800円)
中国貴州省の少数民族であるミャオ族の民族衣装のありかたを通して、ミャオ族女性を取り巻く社会環境、母と娘の関係の変化を読み解く。1990年代以降の女性の社会進出、婚姻慣習・過程の変化、民族衣装の経済的評価の向上など…衣装とミャオ族女性をめぐる環境の変遷に伴い、ミャオ族伝統衣装の製作・所有・保管の主体は再定義されていく。挿絵として、ミャオ族女性の中で継承されてきた刺繍デザインを多数掲載。ユニークな表情が可愛らしい。物質文化研究と地域文化研究を結び合わせた本書の研究成果から、人の思いを託しえる衣装というモノの価値、それを介して生まれるつながりの価値が見えてくる。衣服の存在意義をあらため考える契機としてもぜひ。
【販売サイト】
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814002610.html
text:秋吉成紀(READY TO FASHION MAG 編集部)
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