京都、アメリカ、エジプト…部屋に居ながらにして世界中の風景を映像で堪能できる窓型スマートディスプレイ「Atmoph Window(アトモフウィンドウ)」。家の壁にかけた瞬間ディスプレイが窓となり、動画やサウンドを通じて世界中と繋がることができる。そんな画期的商品が生まれたきっかけは、世界中の旅の中で各国の絶景に感動して…ではなく、研究者を志していた創業者の“挫折の日々”だった。アメリカ留学中の挫折、そして窓から見える景色によるストレスに悩まされた開発者が商品に込めた想いとは?アトモフ創業者の一人で商品を開発した姜京日(かん きょうひ)氏に、商品とこれからの展望について聞いた。
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姜 京日さん/アトモフ株式会社 共同創業者・代表取締役
1980年・東京都生まれ。幼少期よりガンダムやドラえもんに親しみ、自身もロボット研究者への道を志すように。南カリフォルニア大学でロボット工学を専攻。留学時、周りの研究者としてのレベルの高さに自信を喪失し、幼少期からの夢をあきらめ帰国する。帰国後はエンジニア職に就き、任天堂などでゲーム機器のオンライン関連UIの開発に携わる。その後、挫折に打ち拉がれる日々の中で思いついたアイディアを具現化するために任天堂を退職し、京都で起業。現在はアトモフ共同創業者・代表取締役。
少年時代からの夢が破れた過去…打ちひしがれた日々から新たなアイディアが誕生!!
― まずは「Atmoph Window」が生まれるまでの経緯を教えていただけますか?
昔からガンダムやドラえもんが好きでロボット研究者になりたいと思っていたのと、アメリカへの憧れもあったので、南カリフォルニア大学に留学してロボット工学を学んでいました。研究者になるために必死に勉強していたのですが、周りには天才的な人がたくさんいて…永遠に追いつけないほどの差を目の当たりにしたことで「僕なんかがこの世界でやっていけるのか」と不安になって、修士課程を卒業して夢はあきらめてしまったんです。完全に挫折でした。今振り返っても人生で一番辛かったと思うほど勉強していたのですが…自分で敷いたはずの夢のレールを走らされていた。研究者に「なりたい」のか「ならなきゃいけない」のか…葛藤していましたね。
― その挫折がプロダクトを生むきっかけに?
私は図書館では勉強ができないタイプで、いつも家でやっていたんです。当時住んでいた自宅アパートの窓からは隣のビルしか見えなくて、その景色が嫌でブラインドを常に閉じていました。でもそれがいつしか、研究や勉強、慣れない英語での生活すべてがストレスになってしまって…。景色が見えないこと自体もストレスになっていった。そしてあるとき、夢が挫折してしまったのは「この窓が原因なのかもしれない」と思うようになったんです。ともすれば、他の人も同じことで悩んでいるかもしれないと思ったのがアイディアのきっかけでした。
当時は元々窓を開けられず景色が見えないことが問題だったので、プロジェクターに沖縄やハワイのDVD映像を流していました(笑)。でも結局は何を試しても納得できず、閉塞感を解決してくれませんでした。
日本に帰国して企業に属していた中でも、いつも片隅にはこのモヤモヤ感はあって。でもこの10年くらいでディスプレイの薄型化、4Kの登場など技術的にもアイディアを形にするための技術が発達してきました。それでアイディアを具体的に動かす決意をしたんです。
もし今やらなくておじいちゃんになったときにこの分野が育っていたら…「あのアイディアはワシのものじゃ」と言い訳する年寄りになってしまうと思ったので、2014年に任天堂を離れて独立しました。
ハード、ソフト、コンテンツの三位一体こそ「Atmoph Window」の強み
― 起業するにはさまざまな壁があったと思いますが、創業時の壁は?
アイディアの初期段階でプロジェクターやPCモニターなど試したのですが、どれもうまくいかず…「窓」自体に注目して、窓を作ろうという発想の転換があった。ハードウェアとしての窓で壁にピッタリ密着して、脳が「あっち(ディスプレイ型の窓の向こう側)に世界が広がっているのかな?」と空想できるようにしたんです。
プロトタイプは一人で作ったのですが、中身のソフトウェアや風景を配信するためのネットワークなどの開発が必要になって。一人ではとてもできなくて、共同創業者に声をかけたんです。
― 初期の資本金はどのように調達していましたか?
創業メンバーそれぞれの持ち出しでなんとか資金を貯めて試作を作ったのですが、製品を1000台単位で作って行くには億単位の資金が必要でした。ベンチャーキャピタルに相談しても「そんな窓を欲しがるのは君しかいないよ」なんて言われたり(笑)。だからまずは欲しいと思う人を見つけようと、アメリカのクラウドファンディングで投資を募りました。
そこでは2000万円近く集まって、そのあと日本のクラウドファンディングでも募って3000万円まで増資されました。試算では3000万で十分なはずだったのですが全然足りなくて(笑)。製造の経験者がいなかったので、少量ロットでは部品が割高になってしまったり、金型などにもお金が掛かることがわからなくて。そこでもう一度、ベンチャーキャピタルで増資をお願いしたんです。
― 現在の日本と海外の顧客の割合はどのくらいですか?
現在は日本7割、海外が3割。創業8年で累計15,000台を達成しています。ここから数年で10倍の10万台を目指して事業を展開していきます。創業時から現在までで10倍にはなったので、もう10倍はいけると自負がありますね。
― 他社との類似商品との違いはありますか?
類似商品ってありそうで、実はあまりないんです。近しいのはデジタルアートフレームでしょうか。世界に5社~10社ほどはあるのですが、アートのデジタル化というのは難しいんです。例えばモナ・リザの絵をダウンロードして使用しても、著作者へコンテンツ対価が払われない。今でこそNFTが台頭してはいますが、その部分をクリアするのは難しい。
その点「Atmoph Window」一番の特徴は、「絵」ではなく「風景」であること。フレームや窓枠などハード面にもこだわっているんです。木材を使ったり、突起を出して細いベゼルなどにしたり。窓というのは建築的に壁にピッタリハマっているので、脳に「これは窓じゃない」と思わせないよう工夫しています。スピーカーも3つ搭載していて音が出るんですね。振動スピーカーもあって、画面自体をゆらして臨場感を提供できる。デジタルアートではできない、あらゆる要素が詰め込まれています。
創業時の一番の課題はコンテンツでした。製品というハードが作れても風景の動画を集められないと製品を作る意味がない。だから自分たちで実際に世界中の風景を現地に撮影に行って、現在は約3,000本ほど撮影できています。僕らはこのプロダクトを通じて自宅に閉じ込めたいのではなく、いつか実際に行ってみて世界の広さの開放感を感じて欲しいと思っているんです。そのためにこれからはソフトウェアの開発を強化したいですね。
ハード、ソフト、コンテンツの三位一体でこの三つが軸にあることが僕らの強みです。
窓からさまざまな世界に拡張!目指すはSF映画のような世界!?
― 世界的に人気なディズニーやスター・ウォーズとのライセンス商品も発売しているのですよね?
5年ほど前から、ファンタジーの世界を僕らの窓で映したら面白いんじゃないかってなって。自分自身、起業家としてのウォルト・ディズニーが好きだったこともあり是非実現させたいと思って、チャレンジしました。
映画で見たシーンをCGで作ってそれを日常的に映し出せたらユーザーにも喜んで貰えると思いCG試作を作ってみたら、そのクオリティーが評価されたんです。今、弊社ではCGクリエーターが育っています。正直まだまだ映画のスケールには追いついてはいない部分もありつつ「映画「スター・ウォーズ」の世界観を感じていただける商品化」などを通じて、試行錯誤を経てレベルが上がってきたのだと思います。
― 京都にあるお香の老舗ともコラボしていますが、他にコラボを狙っている業界は?
最近では「孤独」が社会問題になっている中で、家にいながら隣の部屋に誰かがいる感覚を味わえるコンセプトの『ネクストルーム』という商品を企画しています。京都をはじめ、さまざまな場所の室内の景色を撮らせていただく機会を探って松栄堂さんとの企画に繋がりました。開放感とはまた違うベクトルなのですが、となりの部屋で誰かがずっと仕事をしている映像を流す…などのラインナップを揃えていきたいと思っています。ほかにもバーや茶道、ホテルの部屋の中、プールサイドなど世界の「外」の風景から「中」の風景までさまざまなコラボレーションをしていきたい。
現在はディズニー、スター・ウォーズのほかもう一つゲームの世界とも繋がりました。コジマプロダクションの「DEATH STRANDING」というゲームと繋げられるもので、日本だけでなく欧米でもファンがたくさんいます。最近だとメタバースも話題になっていますが、VRって結局頭に乗せなければいけないなど弊害が多い。そんなメタバースやゲームの世界とも窓を通して繋がれるようにいろんな風景を実現していきたいですね。
― まだここは通過点だと思いますが、今後の展望は?
現状の商品では「風景を見ている」という受動的な動きだけなのですが、もっと拡張してSFの世界に出てくるような仕様にしたいと思っています。例えばワイナリーの風景を流しているとしたら、そこで取れたワインが実際に購入できたり。宇宙空間や別惑星の風景を流しているときはその星についての情報が取得できたり。そして別のユーザーと風景を交換など、さまざまなことをこの窓を通して体験ができるようにすることが目標です。
― 商品を中心にコミュニティがあって、それがユーザーとのコミュニケーションにもなっていますよね。
自社サイトを中心に各種SNSで、毎日ユーザーがさまざまなアイディアを書き込んでくれているのですが、その声を実際に取り入れています。最近は猫が大好きなユーザーから室内で猫を見たいという要望があり、それを実際に撮ってみました。
ユーザーが増えるにつれて、もっとコンテンツを拡充していきたいと考えています。今は月に一度大きなアップデートをしていて、今年中にはもっと大きな体験ができるようになる予定です。将来的にはレゴのように壁全体に商品を繋げていって、もっと拡張した体験が提供できるように中身も充実させていきたいですね。
― 最後に、挫折して夢を諦めていた20年前の自分に言いたいことはありますか?
夢は挫折で終わってしまいましたが、その挫折が基になってアイディアを思いついたので…イーブンと思うようにしています(笑)。だから、「そのままで頑張れ」と伝えてあげたいですね。
Atmophではビジネスパートナーを募集しています!
ブランドのファンが最も訪れたいブランドの聖地や、モノ作りの裏側を撮影し、Atmoph Windowの風景コンテンツにして、お客さまへメッセージを届けてみませんか。
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Brand Information
Atmoph
Atmoph(アトモフ)が京都で設立され、
世界初のスマートなデジタル窓、Atmoph Windowが誕生しました。
私たちは、家で過ごす時間の質をより良くするために、
「自然」と「テクノロジー」への新しいつながり方を考えています。
撮影:WACOH
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