「TA」という言葉をご存じだろうか。TAとは、Talent Aquisitionの略で人材獲得を意味する。外資系企業では一般的に使われ、主に組織が新しい才能を採用するための手法やプロセスを指す。そんなTAを10年以上にわたって外資系アパレル業界で経験したのが、株式会社seaside hubの代表取締役・佐藤雅博さんだ。彼は2022年に東京から兵庫県淡路島へ移住し、現在は淡路島産の規格外野菜を扱う通販サイト「seaside grocery(シーサイドグロサリー)」を運営している。今回の取材には、NESTBOWLと縁が深いトップエージェントの五十野正人さんが同行。以前、2人が協力して行った採用活動のエピソード、TAのやりがい、規格外野菜ビジネスを始めた理由に迫る。
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佐藤 雅博さん/株式会社seaside hub 代表取締役
兵庫県姫路市出身。10年以上外資系ファッション、金融、コンサルティング、IT業界で人事・TAの経験を積む。2022年に東京から兵庫県淡路島へ移住し、株式会社seaside hubを創業。現在、規格外野菜(傷がついていたり形が個性的だったりするため市場に出回らない野菜)を軸にした通販ビジネス「seaside grocery」を展開している。
五十野 正人さん/株式会社エーバルーンコンサルティング シニアヴァイスプレジデント
外資系ラグジュアリーブランドにてマネジメント職を経験。2011年にエーバルーンコンサルティングに入社。大阪オフィスに在籍し、自らのネットワークを活かし、全国のショップ系求人を担当する。
当時の採用活動と強力なチームプレイを振り返る
― おふたりが知り合ってから約10年だそうですが、最初の接点は何だったのでしょうか。
五十野さん(以下、五十野):約10年前、私は関西エリアを拠点に、アパレル業界の人材エージェントとして活動していました。その時、Inditexグループの一員である「ZARA」の採用活動を支援する中で、関西の「ZARA」の人事担当である佐藤さんと一緒に仕事をする機会がありました。特に、「ZARA HOME」や「BERSHKA」など新ブランドの新店舗オープンに向けた人材確保のプロジェクトでは、佐藤さんと協力して取り組みました。
― その採用活動は大変だったそうですが。
佐藤さん(以下、佐藤):Inditexグループは急成長期の企業であり、その時期の採用活動は本当に大変でしたね。特に「ZARA」では新店舗が次々とオープンし、その度に100人近くのスタッフを採用する必要がありました。また、「BERSHKA」も20〜30人程度の採用があり、継続的に多くの人材を採用するために日々取り組んでいました。
五十野:当時は「OLD NAVY」や「H&M」などの他社の競合ブランドも同時期に出店していたため、競争に負けない採用活動が求められていました。人材の確保は非常に困難でしたが、佐藤さんは採用のクオリティを下げるわけにはいかない立場でした。そこで工夫が必要だと考えて、ヘッドハンティングを行い、他ブランドの店舗へ実際に赴き、優秀なスタッフを発掘することにしました。
― 一緒にショップラウンドをしていたんですね。
佐藤:ショップで「いいな」と思った店員がいたら、五十野さんが後日ヘッドハンティングをして興味を示した候補者に対しては、「BERSHKA」や「ZARA HOME」を紹介。そして私が面接を行う流れで動いたんですよね。結果的に一番採用をできたし、一番お世話になったのは五十野さんでした。
ブランドのトップと連携できるのが、TAのやりがいのひとつ
― 佐藤さんが、10年近く続けてこられたTAについて教えて下さい。
佐藤:TAは日系企業ではまだ一般的ではありませんが、外資系企業では一般的な採用活動です。ブランドによって異なる部分もありますが、主に新卒採用と中途採用が中心です。具体的には、母集団形成から始まり、スカウト、面接を経て、空いているポジションを埋めていくという流れです。
― 母集団に興味を持ってもらうために、ブランドや会社をアピールすることがTAの重要な役割ですよね。
佐藤:もちろん必要ですね。いわゆるキャンディデートマネージメントのような興味を引く活動が求められますし、候補者が離脱しないようにすることも重要です。また、最も大切なのはサインをもらえるかどうか、つまり候補者が入社してくれるかどうかです。最後のクロージングまでやり切るのがTAの役割ですね。
― TAの仕事において大変だったことは何かありますか。
佐藤:TAの仕事はブランドによって異なり、それが大変さのひとつです。例えば、私がインディテックス社の次に転職した「Richemont Japan」でのエピソードを事例に挙げると、一番大きなブランドである「Cartier」は知名度が高いこともあって、比較的容易に候補者を集められましたが、採用基準の高さが難点でした。一方、認知度が低い小さな時計ブランドは母集団形成自体が難しい。こうした点が、ブランドごとの大きな違いです。
― TAのやりがいはどのような点でしょうか。
佐藤:ブランドのトップからニーズをヒアリングし、直接コミュニケーションを取りながら仕事を進めていくことは、個人的にとても楽しかったです。それに、トップレベルの方々と連携して仕事をすることで、自分自身の成長や達成感を感じることができました。
― 五十野さんから見た、佐藤さんのご活躍ぶりはどんな印象でしたか。
五十野:基本的に「ハードワーカー」という印象でした(笑)。1日に5〜6件の採用面談を行うと、一日中人と話したような感覚になるものですが、佐藤さんは時に12件もの面接を行っていました。しかも、その正社員やマネジメント層だけでなく、アルバイトに至るまで幅広い範囲で採用活動をしてらっしゃったので相当な負担だったと思います。
佐藤:確かに大変でしたね。うまくタイムマネジメントをして面接は就業時間中に行い、就業時間後にパソコン作業などのスケジュールを組み立てるなどして工夫していましたね。
ご近所付き合いから、規格外野菜のビジネスに繋がった
― 佐藤さんは、1年半前に淡路島に移住して来られましたが、ここに行き着いた経緯について教えて下さい。
佐藤:やっぱり、コロナがひとつのきっかけとなりました。それまで、フルリモートでのTAの仕事はほとんど市場にはなかったと思うのですが、コロナの影響で新しい働き方が生まれると感じたのが大きな転機でした。もともと東京に長く留まるつもりはなく、田舎で暮らしてみたいという想いは以前からあって。海が近い場所という条件を考えて、思い切って淡路島を訪れて家を見に行ったのが始まりでした。
― そこから規格外野菜の通販事業「seaside grocery」を始めたのには、どんなきっかけがあったんですか。
佐藤:淡路島で暮らし始めてご近所の方から野菜をいただいたことが、今のseaside hubの仕事につながりました。東京から引っ越してきた私にご近所の方々が「野菜を食べなさい」と言って頻繁に野菜を持ってきてくれたのです。そのことにまずとても驚きました。ただ、持ってきてくれる野菜たちはほとんど「実はもうそもそも売れへんから」、「これはもう捨てたり、畑に埋めたりする野菜」と聞きました。そのときに「この野菜を売りませんか」と話をしたのがスタートです。
― 工夫して販売されているようですが、具体的にはどのようなことをしていますか?
佐藤:工夫していることのひとつは、規格外の野菜を低価格で売るのではなく、同じ価格で販売することです。また、フードロスや農家の支援に貢献できるサービスとしての側面も強調しています。
たとえば、ある品種の野菜が大量に出た場合、兵庫県の「子供食堂のネットワーク」と連携して、余った野菜を子供食堂に提供する取り組みをしています。野菜の配送や仕入れにはコストがかかるため、オンライン購入者からチップを受け取ることでそれらの費用を賄っています。チップは購入者の約7割から支援を受けており、そのおかげで子供食堂に野菜を送ったり、野菜を仕入れる費用に充てたりしています。
自分にしかできないことで、淡路島の方々に貢献したい
― フルリモートでTAの仕事ができる安心感があるからこそ、淡路島に定住し、挑戦できている面もあるのでしょうか?
佐藤:確かにその安心感はありますね。TAの仕事はフルリモートが可能ですので、淡路島にいながら働けます。最近ではフルリモートOKの会社や採用のポジションが増え続けているので、安心感があります。TAの仕事がリモートでもできると考えたことが移住のきっかけとなり、新しい事業に挑戦し、定住することができたと感じています。
― 今後の事業展開もお伺いしたいです。
佐藤:今後はペット用の乾燥野菜を使った事業展開を検討しています。私自身、犬を飼っていることもあり、規格外の野菜を有効活用する方法を模索しています。その一環として、犬用のおやつとして野菜を乾燥させた商品も展開する予定です。
また、今年の夏頃には無人店舗をオープンする予定です。規格外野菜を並べ、観光客が多い場所で直接見て買ってもらえるような環境を提供したいと考えています。これらの新しい事業展開を通じて、淡路島でのビジネスをさらに拡大していく計画です。
― 最後に、seaside hubの事業で、大切にしていることを教えてください。
佐藤:淡路島で高齢の農家の方々と触れ合う機会は、私にとって新しい経験です。そのような方々との交流を通じて、私にしかできないことがあると感じています。淡路島ならではの環境を最大限活かしながら、規格外野菜のビジネスを通じて地元の方々への貢献を続けていきたいと考えています。高齢者の知識や技術が次の世代に引き継がれにくい現状があるため、それを守り、発展させていくことが私の使命だと感じています。
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