IMAGE by: Aesop
ビューティ業界で注目を集めるトップランナーとして走り続ける人たちの、幼少期から現在までをひも解く連載「美を伝える人」。企業編の第3回はAesop創業メンバーで現チーフカスタマーオフィサーのスザーン・サントス氏。幼少期のころから飢餓といった社会問題に関心を寄せ、生物学を学ぶ学生時代を過ごしたという、サントス氏が「イソップ(Aesop)」で伝えたいこととはー。
■スザーン・サントス(Suzanne Santos)
大学で生物学を専攻し、食品流通問題から地域社会における協調的支援のメカニズムに至るまで、多岐にわたって関心を持つ。大学で学び直すことを検討しているころ、「イソップ」の創業者であるデニス・パフィティス(Dennis Paphitis)氏と出会い、1987年のブランド創業に参画。30年以上にわたり、チーフカスタマーオフィサーとして、イソップが率先してきたユニークな顧客体験を維持・向上させる責任を負う。世界中を回って新規市場参入を監督し、コンサルタント(販売スタッフ)に製品および接客を指導し、店舗を訪れてイソップと顧客の緊密な関係を築いている。
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子どものころ見た、エチオピアの飢饉から「人の役に立ちたい」との想いに
ーイソップ創業メンバーでいらっしゃいますが、その経緯を教えてください。
子どものころは看護士や医師になることが夢で、大学では生物学を専攻しました。今思えば、生物学を勉強したことはイソップのような会社でやっていくにあたり、すごくいい背景になったと思いますが、このような形になるとは夢にも思い描いてはいませんでした。創業者のデニスとは、友人を通じて知り合ったのですが、そのころ私はまだ大学に戻ることを検討していて、複雑な仕事でなければ学業と両立できると思い、彼が経営していた美容室でパートタイムで働くことにしたのが始まりです。
ー看護師や医師になるのが夢ということは、小さな頃から人の役に立ちたいという想いがあったのでしょうか?
何か人のためになったり、人の命を救ったりできればいいとは思っていました。そのきっかけとなったのが、子どものころにテレビで見たエチオピアの飢饉です。子どもも大人も困っている姿を見て、何か自分たちにできることはないか家族で話し、実際に支援をしている人たちを目撃したことが、その後のモチベーションになりました。
ー私にも子どもがいるのですが、海の向こうで起きている出来事はどうしても現実味を感じることができず、どのように子どもと話せば良いか戸惑うことも。ご家族で話された際に、心に響いた言葉などはありますか?
私が育ったオーストラリアは移民の国で、さまざま国の人たちがそばにいるため、インクルージョンというか他者を受け入れるということに関しては、とくに努力を必要としない背景があります。そのため、遠い異国の地で起きていることでも「大きくなったら助けたい」と自然に思うことができたように思います。そのエチオピアの飢饉を見たときに、今、自分が住んで知っている範囲だけでなく世界は大きく広がっていて、そこには困っている人がたくさんいるのだと気付き、痛みを感じたことは強烈に覚えています。「他人の存在を意識する」それがとても大切だと思います。
ー日本の子どもたちには、どのように話をすればいいと思いますか?
何かチャリティーに参加してはいかがでしょうか?世界に目を向けるのも、もちろんいいですが、日本にも困っている方がいらっしゃると思うので、その方々をサポートする活動を近くのコミュニティから始めてはどうでしょうか。その経験が、自分をもっと好きになることにも、世界を広げることにもなりますし、将来的には「違いを受け入れる」ことへの理解にもつながると思います。
ー大学では生物学を専攻され、それが今の仕事に役立ったとのことですが、具体的には?
人体だけでなく植物も含めて生きているもの全般を理解したことは大きかったですね。現実的には、肌の構造や機能、何がどのように影響を受けるのか学んだことは、大いに役立ちました。
創業時から変わらない「他に流されない、捉われない」という姿勢
ーイソップの創業はどのようにスタートしたのでしょうか?
可能性やチャンスはたくさんあると思っていましたので、その中のどこに照準を定めるか、ターゲットをどう絞って設定するか、私達が作った製品をどういったコミュニケーションで伝えていくのか、その構築に注力しました。
ースキンケア製品を手掛けることは、創業時から決まっていたのですか?
まずハンドバームとボディオイルの試作品からスタートしましたが、最初に製品化したのはヘアケア製品でした。それらがすごく順調だったので、「次はスキンケア」となったんです。研究を重ねた私達の処方に対するお客さまの反応を見て、どれだけ多くの方がこういう製品に興味を持ち、求めていたのかを知り驚きました。以来、36年を経た今も創業時から基本方針を変えることなく、発展させてきました。
ー具体的に創業時から変わらないところとは何でしょう?
哲学的なところです。昔からイソップが大切にしているのは「他に流されない、捉われない」という姿勢。お客さまは美しい店内で歓迎され、コンサルタント(販売スタッフ)と会話をし、体験し、大切に販売されたものをていねいに使ってくださる。そして、その体験をお客さま自身が誰かに伝えてくださる…その一連の流れは、創業当時から変わっていません。原料についても、植物由来のものを使用しますが、科学に基づいて選んでいるという点はずっと同じです。
ー創業から変わったとこもありますか?
変わったことと言えば、使用する原料が増えたこと、そして、年月を経て賢くなって成熟したところでしょうか。
ーイソップは広告展開をしませんが、パッケージが広告の役割を果たし、そのデザインは男女共に支持されていると思います。こだわりを教えてください。
まず、地球環境のことを考えてブランド創業当初はプラスチックを使わずに全てガラスを採用し、デザインはシンプルに徹し、かなり努力して作り込みました。成分ラベルを貼っていますが、それを貼る法律がなければ省き、もっとシンプルに保ちたかったほどです。将来的には、パッケージを通して、もっと地球環境に貢献していきたいと考えています。現在は、地球環境を考えないパッケージによって温室効果ガスが増え過ぎて、被害が出ている現状があります。全ての会社、全ての国はもっと考え、行動を起こしていくべきではないでしょうか。
感覚にも考えることにも働きかけるブランドでありたい
ーイソップはキャンペーンもユニークですね。どういった考え方で展開しているのですか?
キャンペーンはコミュニケーションの一つの形と捉えています。コンサルタントに対しては、製品のリマインドにもなりますし、お客さまにとっては店舗でもオンラインでも、多くの製品の中から、今注目すべきモノに絞ることができます。さらには、お客さまとのコミュニケーションを深める機会になります。
ー昨年行った、店頭には製品をいっさい陳列せず、LGBTQIA+に関する本のみを並べて持ち帰ってもらうキャンペーンは強い印象を残しました。
クィアの声を発信する「イソップ クィアライブラリー」は確かに重要なキャンペーンでしたが、イソップのこういった取り組みには歴史があり、15、6年前にも「ペンギン・ブックス」とコラボして、製品の代わりに本を置くという試みを世界中で催したことがあります。「イソップ クィアライブラリー」に関して言えば、性的マイノリティの方を私達は受け入れていますよ、というステイトメントになりますし、お店に来て下さった方は本を持ち帰って他の人に伝えたり、その方が性的マイノリティに対して受け入れる姿勢を持ったりすることにつながればと思い開催しました。
(参考)
クィア:もともと英語で性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称である。性自認や性的指向が、その人のいる時代や文化のなかでマイノリティとされるときに使われることが多い。
ペンギン・ブックス(Penguin Books):ロンドンに本拠を置くイギリスの出版社。
製品をバックヤードにしまい、LGBTQIA+の文学作品だけを集積し無料で配布しLGBTQIA+への理解を促すキャンペーンを展開
LGBTQIA+の文学作品を集積、イソップ クィアライブラリーが日本初開催
ー現在開催している、「ルーセント フェイシャル エッセンス」のキャンペーンでは何を伝えたいですか?
ルーセント フェイシャル エッセンスは、今、コミュニケーションをするのにピッタリの製品だと思います。この製品は、コロナ前での発売だったこともあり、すごく大切な製品で、多くのお客さまに知っていただきたいにも関わらず、他の製品に埋もれてしまっていました。日本は今ちょうど真冬で、この製品の良さをとくに実感していただける季節ですから、このタイミングでキャンペーンを実施することにしました。
肌をすこやかに保つナイアシンアミドを豊富に含んだ軽い使い心地のセラム。肌に水分とハリを届けすこやかに保つ成分を配合、肌をうるおいと水分で満たしバランスよく整える。
ルーセント フェイシャル エッセンス(60mL 税込1万2870円)
ーでは最後に、イソップの未来をどのように描いていますか?
まず、化粧品をリードする存在、いつもバスルームにある存在であることと同時に、環境問題にも積極的に取り組む姿勢を持ち続けたいと思います。先ほどお話したパッケージだけでなく、ボトルの中に入れる原料についても常に細心の注意を払っていきます。36年の長きに渡って、われわれが存在していることは、その存在に意義がある証だと思っています。イソップはとても聡明なブランド、心にも肌にも、そして感覚にも考えることにも働きかけるブランドでありたいです。
(文:川原好恵、聞き手・企画編集 福崎明子)
ライター・エディター
文化服装学院卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーやビューティを中心に、雑誌、新聞、ファッションウェブサイトなどで執筆・編集を行う。
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