人気美容師の過去と今をひも解く連載の第15回。今回フォーカスするのは、映画のワンシーンのような写真や動画投稿で注目を集めるCIECA.野元亮太さんにフォーカス。老舗美容室で10年勤務後、CIECA.で再スタートをきった野元さん。「苦労の方が多かった」と語る彼の生き様とは?
#15 野元亮太 のもとりょうた
インスタグラム
1987年1月27日生まれ。鹿児島県出身。山野美容専門学校卒業後、都内1店舗を経てCIECA.オープニングスタッフに参加。現在CIECA.店長。どこから見ても美しく見える骨格に合わせたカットや再現性の高いスタイルに定評がある。サロンワークのほか、コンテストの審査員やセミナー講師などの活動にも積極的に取り組んでいる。ヘア、動画撮影、写真撮影まですべてを1人で行うことができる美容師であり、インスタグラムでは、#CinematicHairのハッシュタグをはじめ、プロレベルの写真や動画コンテンツを発信中。
【店舗プロフィール】
CIECA. シエカ
業界トップクラスの技術力とトレンド発信力を誇るヘアサロン。丁寧なカウンセリングとひとりひとりに似合わせる技術力の高さで、芸能人やモデルも多く通うことでも知られている。現在原宿と渋谷に2店舗を展開中。
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ークオリティの高い写真や動画をインスタグラムにアップされています。本格的な機材を使っての撮影や編集などは元々お好きだったのでしょうか?
実は好きで始めたというわけではなく、最初に働いた美容室がか200人規模の大手だったので、できなくても「できます!」と言っていたんですよね。人が多い分チャンスがあまり降ってこなかったので「できます」と言い続けた結果、だんだんスキルが身についていきました。
ーなかでも、#CinematicHairというハッシュタグで投稿している動画は、まるでショートフィルムのような美しい世界観です。
これはコロナの休業期間中に形になったものなんです。それまではいろんな方向性を探っていたのですが、そろそろ自分の好きな世界観を出していっても良いんじゃないかと思って始めました。
ーコンセプトなどはどのように決めたのですか?
自分の持ち味として、「襟足の斜め後ろから見えるライン」にこだわってカットをしているのですが、これをそのまま言っても漠然としすぎて伝わりづらいと思いました。そう考えたとき、第三者目線でつくられている映画の構造が浮かんだんです。「映画の登場人物を観客が画面越しに観る」という構図を意識して表現すれば、どの角度から見てもきれいなヘアというのが伝わるんじゃないかと。
ー現在の野元さんに至るまでのエピソードを伺っていきたいです。まずは美容師になったきっかけから教えてください。
大学に1年間、通ってから美容師を目指したんです。大学入学当初は何にでもなれるような気がしたのですが、やりたいことが多かったというのもあって、より分からなくなってきちゃって。だったら学費も無駄だし、早めに辞めて専門の職に就いた方が良いだろうなと考えました。建築か美容かで悩み、結局修業年数の短い2年制の美容学校に進学することを決めました。
ー大学を辞めて美容学校進学となると親御さんからの反対もありそうですが...?
大反対されました。母方の親戚はみんな教員だったので、なかなかOKとはならず、1年間説得してようやく美容学校に行けました。
入学後は、まず先生に「ちゃんとした会社に行きたい」という話をしました。福利厚生が充実していて、技術もしっかり教えてくれるところに行きたいと。とにかく、親を安心させたかったので、業界大手の老舗美容室に入ることにしました。そこで丸10年働くことになります。
ー美容師1年目を振り返るといかがでしょうか?
体調もたくさん崩して、ダメダメでしたね(笑)。ある先輩に「不器用だね」と言われたのを機に何もできなくなってしまったことがありました。ひと月、熱がまったく下がらなかったんです。
ーストレスが体に出てしまうタイプだったのですね。
先輩も深い意味で言ったわけではないと思うのですが、僕が完璧主義だったというのもあって「不器用だね」の一言が呪いのように響いてしまったんです。本当に何もできなくなっていったのを覚えています。アシスタント業務のゴミ出しを忘れてしまうほど、気持ちが追いついていかない感覚がありました。会社でも「もうあいつ辞めさせていいぞ」と言われていたようで…。
ーそこからどのように持ち直したのでしょうか?
年の近い先輩方が何も言わずにサポートしてくれていたんです。これは頑張んなきゃなと思い始めていたときに、当時憧れていた2個上の先輩が辞めるという話を聞いて。その先輩は店の中核を担っている方で、1年目の僕にはいなくなることなんて想像できませんでした。だから「あっ、その分自分がやらなきゃ」と反射的に思ったんですよね。次の日からすぐ気持ちを切り替えました。そこからがむしゃらに頑張り、2年目の終わりにはデビューすることになります。
ー2年目でデビューはかなり早いですね!店舗異動はなかったのでしょうか?
入社から6〜7年は吉祥寺の店舗にいたのですが、その後千葉のイオンモール内にある店舗へ異動しました。イオンモールは新規のお客さまに来ていただきやすいという話を聞き、チャンスだと感じて思い切って手を挙げたんです。ありがたいことに、そこでは順調に売上も伸びて、新規指名もたくさんいただくことができて。気づいたら10年目に突入していました。
ーその後、現在のヘアサロンCIECA.のオープニングに参加されます。転職しようと思ったきっかけは?
僕が1年目の頃に見た10年目の先輩は、独立していく方が多かったのですが、時代の変化で長く勤める方が増えてきました。その分チャンスが下に降りてこないと感じたというのがまずあります。老舗の美容室は誰かが辞めたらお客さまを代々引き継いでいくのですが、それもなかなか降りてこなくなったというのもありますね。
また、都心に出ずこのままこの場所に居続けて良いのかという不安もありました。表参道に新しい店舗ができたので異動も考えたのですが、配置の問題などで叶わず、これはもうチャンスがなかったんだなと自分で動こうと思ったんです。
ーどのように転職活動をされたのでしょうか?
それがもう30歳という年齢のせいか、なかなか転職先が見つからなかったんです。アシスタントから頑張るつもりでいたのですが、ある美容室の面接で「30歳じゃどこも無理でしょ」と言われたりもして。
ーそれは辛かったですね...。
でもあのときそう言われて良かったなあと思うんです。「そうか、これが現実か」と分かったので。そんなとき、サロンモデル経由で現CIECA.代表の野口に僕が転職活動をしているという話が伝わったみたいなんです。野口とはイタリアの研修会で知り合い仲良くさせてもらっていました。ちょうど野口がCIECA.を始めるタイミングだったので、「僕も一緒に行きたいです」という話をして、店長として働かせていただくことになりました。
ーCIECA.1年目を振り返ってみるといかがですか?
実はお客さまを連れてこられなくて、僕だけイチからお客さまを集めなくちゃならなかったんですよ。要は、売上がまったくない僕が店長になったんです(笑)。
ーまさにゼロからのスタートだったのですね。
当時のインスタグラムのフォロワー数は5000くらいであまり集客にはつながりませんでした。そこから、ヘアカタログサイトを運営する方にノウハウを教えてもらいながら撮影を続け、2年目くらいにはようやく1万5000人くらいになって。
ツイッターに強い知り合いもいたので、教えてもらいながら試しました。始めてすぐにアレンジ動画がバズり、だんだん集客にもつながっていきました。インスタグラムも軌道に乗り、これから売上も伸びそうだなというときにコロナで休業になってしまったんですよね...。
ーあの時は美容師さん、全く動けなかったですよね。
地獄の日々でしたね。売上も伸び、セミナーの依頼などの話もちょこちょこ入ってきたタイミングだったので...。これからどうなるかというのも読めなかったのですが、その頃に本格的に#CinematicHairも始め、だんだん方向性が定まり今に至ります。
ー現在のナチュラルなテイストは最初からブランディングされていたのでしょうか?
最初はクリエイティブな作品を投稿していたので今の雰囲気とは真逆でした。試行錯誤していくなかで、クリエイティブとナチュラルのちょうど真ん中くらいになっていった感覚があります。ナチュラルの中に少しだけエッジが残ったスタイルが自分らしいと思うし、良い塩梅の味が出せるようになったなと。
ウルフのパーマスタイル。アンダーに重みがある丸みのあるウルフがまだまだ流行りそうな予感。再現性もあり、簡単なスタイリングで決まるのもうれしいところ。
顔周りに自然なレイヤーが入ったナチュラルなスタイル。モデルさんや女優さんの髪を切った際に撮らせてもらうことも多いんだとか。
ー野元さんのように動画を本格的にやっている美容師さんは少ないと思います。動画は今後、美容師にとってどういう存在になっていくでしょうか。
動画もできると武器になるとは思います。それこそ、この前ご依頼いただいた外部のお仕事は、ヘアをつくり、写真を撮り、動画も撮影するという内容でした。大変ではありますが、自分がつくりたい世界観をトータルでやらせてもらえるというのはありがたいです。それに、動画はお客さまにとって安心感につながると思っていて。
ーというと?
動いていることで、ちゃんと切っていることが分かるからごまかせない。それに、切っている僕自身の雰囲気が事前に伝わるのは、お客さまが安心できる要素になると思っています。
ー最後に、今後の目標を教えてください。
ここまで必死に生きてきた実感があります。運もあまりなかったし、美容師になってからは苦労の方が多かったです。その分がむしゃらに身に着けた能力がほとんどなので、今後はそれを人に伝えていきたいです。失敗例をたくさん持っている僕は、少なからず役に立てることがあると思うんです。後輩やセミナーを聞きにきてくださる方々の人生がどうやったらうまくいくのか、どう頑張ったら良いのかということを一緒に考えたいです。こういう話になると、僕にもどこか教員の血が流れているのかなって思ったりしますね(笑)。僕も負けないように頑張っていこう、いつもそういう気持ちです。今年からメイクとしての活動も本格的に始めるので、今後もCIECA.の野元亮太に注目いただけると嬉しいです。
(写真:野元亮太、企画・編集:福崎明子、山本真由香)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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