人気美容師の過去と今をひも解く連載の第17回。今回は、一昨年銀座にオープンしたCOA GINZAの代表、細田真吾さんにフォーカス。大手サロンに在籍中にコロナ禍で考えたこれからのこと、そして新境地COAに身を置いた今考えること。細田さんが撮り下ろしたインスタントカメラの写真とともに、美容半生を巡っていきます。
#17 細田真吾 ほそだしんご
インスタグラム
1989年11月16日生まれ。埼玉県出身。資生堂美容技術専門学校卒業後、新卒でGARDENに入社。リードデザイナーなどを歴任後、2021年度にCOAのオープニングメンバーとして参加。現在COA GINZA代表。日常の中に溶け込む洗練されたシンプルなヘアスタイルが人気。
【店舗プロフィール】
COA コア
銀座の一等地に位置する業界注目のサロン。広々とした開放的な空間に、圧倒的な技術力とホスピタリティを持つ実力派の美容師が揃う。白を基調とした店内は全席パーテーションつきで、顧客同士のプライベート空間が保たれていることも特徴。特に20~30代からの支持が厚いが、10代からその親世代にわたるまで幅広い顧客が日々集っている。
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ー今回、お話を聞きたいと思ったのは、細田さんのインスタグラムを拝見したことがきっかけでした。現在の美しいシンプルなトーンの投稿にはどのようにたどり着いたのでしょう?
ありがとうございます。25歳でデビューしたのですが、2年ほどお客さまが全然つかずに苦しんでいて。あるとき、当時の流行とは真逆の「切りっぱなしのヘアスタイル」をインスタに載せたことがあって。
切りっぱなしは、少しモードな要素もあるし、おしゃれ感度の高い人が求めるシンプルなデザイン。当時集客するには、コンサバやひし型の黄金シルエットをなぞったスタイルを載せることが主流だったのですが、徐々に反応があり、そのタイミングからいわゆる一般受けではなく、おしゃれ受けの方向にしてもいいのかもしれないと思い始めました。模索しながら僕の年齢も上がり、だんだんいろんなものが削ぎ落とされて、今のシンプルなスタイルにつながっていったんだと思います。
ー流行と真逆のスタイルを載せるのって、かなり勇気がいることでは…?
当時の先輩が「センスあるんだから好きなものをインスタに載せたら」と言ってくれたことがあって。その一言に大きく背中を押されましたね。
ー投稿にルールなど設けていますか?
「おしゃれな髪型を出す」という感覚ではなく、今来ていただいているお客さまへ「秋冬にこういう髪型どうですか?」という”提案”の意味合いが大きいです。それをやりたいと思ってくださる常連のお客さまもいれば、「こういう私になってみたい」という新規の方もいます。
ー撮影はカメラで?
FUJIFILM X-T2で撮影しています。自然光マストで撮影していますが、実はライティングのことがよく分からなくて、いつも奇跡的な光を探しているんです(笑)。
ー撮影はサロンでされるのですか?
はい、実はみんなが撮影しやすいようにサロンが作られているんです。リラックス目的だったら暖色系の照明になると思うのですが、COA店内はすべて昼白色の電球。セット面の側面にも光が入るようになっていて、どこで撮影してもきれいに写真が撮れるようになっています。
ー細田さんはメイクもやられるようですが、こだわっているポイントはありますか?
配色のバランスは気をつけているところかもしれないです。例えば髪色が決まっていて、肌の色が決まって、さらに衣装の色があったときに、目元や口元で使える色味は限られてくる。そのバランス感を探るので、あんまり冒険はしすぎないかもしれないですね。
僕のメイクは、1つの女性像を作るために足し算引き算をするシンプルなメイク。赤リップのほうが強く芯があるように見えるかな、テラコッタの ほうが洗練された感じでカジュアルに見えるかな、などと考えて”バランス”を大事にしています(細田)
ー現在は、どんなお客さまが多いでしょうか?
感覚が似ているお客さまが多いかもしれないです。すごく尖ったファッション感度じゃないけど、おしゃれなものには興味がある。いいなと思うものにはお金を惜しまないけれど、「これはユニクロでいいや」とたまにプチプラで済ましちゃう。そういうバランス感が似ている気がします。
ーCOAのオープニングメンバーに参加されたのは何年前になりますか?
2021年の10月ですね。実は、オープンする4年前くらいから現CEOの青木(大地)に「新しく美容室をつくるんだけど一緒にやらないか」と誘われていたんです。
ーでもそのときはお断りをしたと。
ありがたかったんですけど、当時はちょうど新店舗をオープンさせるタイミングだったんです。僕がそのプロジェクトの筆頭としてやらせていただいていましたし、今いなくなるのも違うなと。でも、ものすごい熱意でした。
COAの内見時の様子。「青木、小西、高 橋(英昇さん)、僕の4人が最初のメン バー。内見にいったときはまだ店内はス ケルトン状態でした」(細田)
COAの由来は「小西・青木」のアルファベットから。最初聞いたときは「えー!」と言ったのですが、『ま、いっか』となって(笑)。文字列の中で丸が多いほうがいいよねというのはあったので(細田)
ーその後、COAへの参加の決め手となったのは?
当時在籍していた店舗がいわゆるインフルエンサーのスタッフを集めたサロンで、常に予約がいっぱいな状況でした。でも、コロナ禍になって急に予約がなくなってしまって。そのあたりから、それぞれ働き方を改めて考えるタイミングがあったんですよね。もっと自由な時間を使いながらやってみたいという人がいたり、地元に帰って親御さんの近くで働きたいという人がいたり…。
ー細田さんはどんなことを考えましたか?
僕の場合、コロナ禍でも常連のお客さまだけは変わらず来てくださっていたんです。そのお客さま方に還元できるものって何だろう?と考えたときに、「やっぱり技術を提供させていただきたい」という気持ちが強くなった。
この先どうなるか分からないコロナ禍で、今の状態より、自分よりも結果を出している小西(恭平さん/現CEO)だったり、青木だったり、自分の持っていないものを持っている人と一緒にやったほうが自分の糧になるんじゃないか。最終的にお客さまのためになるんじゃないかという思いがまずありました。
ーご自身のより大きなスキルアップという意味でも、場所を変えるという選択は必要だったんですね。
そうですね。あとは、アシスタントの未来を考えたとき、「この子をもっと成長させたい」という思いがあっても、ただの一社員の自分ではなかなかできることが限られていて。でも、COAに来て、仲間と一緒に成長していく自分を見せ、そういう環境に身をおいたほうがアシスタントの次のステージもつくってあげやすいのではないかという気持ちもありました。
ー細田さんが、そもそも美容師になろうと思ったきっかけを教えてください。
高校生から美容師になろうと決めていました。今で言う、SNS発信者に該当する流行のアイコンが美容師さんだった時代なので、純粋にそこへの憧れが強かったんです。
あとは身近な美容師さんにラフでおしゃれな人が多く、大人になって制約が増えることを考えるとその自由さに憧れを感じました。縮毛矯正が全盛期だったので、その技術に感動したというのもあります。
ー進学は美容学校へ?
実は親に美容師になることを反対されていて。当時の資生堂の美容学校に、ヘアメイクの特待生としての進路が用意されているコースがあったので、「就職先はこれで安定だから!」と親を説得しました。
ーどんな学生生活でしたか?
周りがファッションに興味のある人たちばかりだったので、共に過ごす時間は楽しかったです。一緒に買い物に行くだけでも刺激的でした。授業には真剣に取り組む一方で、学校内での技術にはあまり興味がなく、コンテストなどには参加しませんでした。学校行事には積極的に取り組んでいたんですけど、技術にはあんまり興味がなかったんですよね。
ーで、卒業後はその資生堂へ就職...
…は、しなかったんです。
ーえーっ!
いろんな事情でその就職先自体がなくなっちゃったんですよね…。どうしようかと悩んで、じゃあ雑誌媒体をたくさんやっている美容室に行きたいと思って、GARDENに新卒で入社しました。
ーGARDENでの10年。挫折などは特にありませんでしたか?
実はスタイリストデビューが同期の中で一番遅かったんです。学生時代から変わらず、練習嫌いだったんですよね(笑)。練習が何のためになるのか分かっていなかったんです。
アシスタントの5年間、サボっていたわけではなく、モデルハントに一生懸命取り組んでいました。当時の撮影モデルは、全員僕が捕まえてきたってくらいストイックに。”かわいい”を作る撮影現場に同行して、センスを磨いていればお客さまは来ると思っていたんです。
ー実際は…?
いざデビューしたら全然お客さまが来なくて...。「あ、ダメなんだ、ちゃんと技術やらなきゃ」って、デビュー後に気付いてすごく練習するようになりましたね。おそらくデビュー後は僕が一番練習したんじゃないかな。挫折はそこでしたね。
ー今年でCOAは2年目。前職の美容室と比べていかがですか?
まず、自分たちが先頭に立ち、全ての責任のもとやらなければならない環境になりました。先のことを考えるのが得意な人がいて、現場でしっかりクオリティを提供する人がいて、幹部各々が自分の得意分野に注力しているので、思っているよりも早く自分たちが目指している場所がつくれているなと感じています。
ー働き方で変わったところは?
「お客さまを第一に」という考え方は変わらないのですが、一番変わったことはやっぱり環境。自分のお客さまに施術をしつつ、例えば隣で切っている小西のカットを見て技術を盗むなど、常に技術を見合うような環境をつくれたと思います。
ー最後に今後の目標を教えてください。
美容師は、好きなものを追求したほうが、お客さまにもゆくゆくは還元できるようになるし、自分も楽しめるようになると思っています。その”好きなもの”を、発揮できる環境づくりをしていきたい。ひとりひとりのかわいいが世に出せて、そのかわいいがたくさん認められるような美容業界になっていけばいいなと思っています。
細田さんの家のプライベート写真。「ヴィンテージや少し特徴あるものが好き。リラックスする空間だからこそ、好 きなものに囲まれたい思いがあって、感覚的にかわいいなと思うものを並べています。観葉植物も好きです」(細田)
(写真:朝菜、企画・編集:福崎明子、山本真由香)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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