

デザインの方向性を決める際、「シンプル」という言葉がキーワードとして挙がることは少なくない。
一般的に、企画・コンセプトが定まった後、その言語化されたアイディアを可視化する・デザインに落とし込む最初の工程として、方向性を定めるためにムードボードやキーワードを並べていく。その作業の中で、どこか安全な選択肢として「シンプル」という言葉が加えられることは珍しくない。もしくは、クライアントとの打ち合わせやブレストで、よく耳にする——「もっとシンプルにできない?」
この「シンプル」、一体何を指しているのだろう?要素を削ぎ落とすこと?情報を整理すること?それとも、装飾を抑えること?
「シンプル」は単なるデザインのスタイルではなく、目的やコンテキストによって異なるアプローチをとるもの。だからこそ、シンプル=最適解とは限らない。
「シンプル」とは?
「シンプル」という概念には、さまざまな解釈がある。
- 必要最小限の情報設計(Essential Simplicity):伝えたい情報を厳選し、余計なものを削ぎ落とす
- 分かりやすさを優先するシンプルさ(Functional Simplicity):情報量が多くても、整理して構造化することで理解しやすくする
- 視覚的なシンプルさ(Visual Simplicity):装飾を抑え、すっきりとした印象を与えるデザイン
例えば、無印良品のパッケージデザインは、最低限の情報だけを載せることで「必要十分」という哲学を体現している。一方、AmazonのUIは情報量が多いにも関わらず、整理されたレイアウトによってユーザーが迷わない設計になっている。
そして、Appleのデザインは、不要な要素を削ぎ落としながらも、視覚的な洗練さと機能性を兼ね備えている。どれも「シンプル」と言えるが、そのアプローチはまったく異なる。

左:無印良品のパッケージデザイン右:Amazon Japanのユーザーインターフェース
「シンプル」は文化によって異なる
そもそもこの「シンプル」自体が、どの文化にも共通する絶対的な価値観というわけではない。
例えば、日本では、ミニマリストデザインは多くの場合「禅」、「侘び寂び」(不完全さ、質素さや閑寂さなど)、「間」などの哲学、日本ならではの美学に根ざしている。これらの価値観は柔らかさ、非対称性、そして静かな意図性として表れる。中性的なトーン、有機的なテクスチャ、そして余白を感じさせるデザインがその例だ。
一方、西洋のミニマリズムは、20世紀初頭のヨーロッパのデザイン運動から大きな影響を受けている。
モダニズム、バウハウス、デ・スティルといった潮流は、機能性、明快さ、合理性を重視するアプローチを生み出した。これらの原則はグローバルな交流を通じて国境を越え、現在では北米やその他の地域におけるブランディングからデジタルインターフェースまであらゆる場所に見られる。
もちろん、すべてのデザインがこれらのカテゴリーにきれいに収まるわけではない。現代のグローバルなデザイン環境では、これらの影響は絶えず重なり合い、融合している。日本とアメリカの双方に拠点を置くデザイン会社として、私たちはこれらの文化交流が日々起こっているのを目の当たりにしている。
異なる文化は異なる道を通じて「シンプル」に到達する。そして文化的境界を越えて働く際には、これらのニュアンスに敏感であることが重要だ。
「Simple」「Simplistic」「Minimalistic」の違い
アメリカの大学でデザインを学んでいたとき、教授にこんなことを教わった。
- Simple:分かりやすく、使いやすい、無駄がない
- Simplistic:単純化しすぎて、本来の意味や本質を失っている
- Minimalistic:要素を極限まで削ぎ落とし、美しさを追求
「Simplistic」は、余計なものをそぎ落としすぎて、必要な情報まで失ってしまった状態のことを指すため、ネガティブなニュアンスを含む。良いデザインを説明する際には、「Simple」や「Minimalistic」を使うほうが適切だ。機能性を重視するなら「Simple」、デザインの美しさを強調するなら「Minimalistic」を使え、とのこと。
もし読者のみなさんが英語でデザインをプレゼンテーションをする機会があれば、ぜひ意識してみてほしい。
デザインの本質に立ち返る
さて、本題に戻ろう。
デザインの目的は、最適な解決策を導き出すこと。ときには、視覚的に複雑なデザインが最適な場合もある。
例えば、駅の案内サイン。多言語対応や複数の出口、周辺施設の情報を一度に伝えなければならない。情報量は多いが、それでも「迷わず目的地に到達できる」なら、それが最適なデザインなのだ。

シンプルで情報が伝わりやすい駅のサイン
「シンプル」は、確かに強力なデザインの手法のひとつ。しかし、それが唯一の正解とは限らない。大切なのは、プロジェクトの目的を見極め、最適な方法を選ぶこと。
デザインの方向性を決めるとき、「シンプルだから良い」と安易に決めるのではなく、本当にそのアプローチが最適なのか、一度立ち止まって考えてみること。その問いが、より良いデザインにつながるはずだ。
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