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パリに拓く「本物の日本料理」 秋吉雄一朗が茶懐石で示す文化の懸け橋

パリに拓く「本物の日本料理」 秋吉雄一朗が茶懐石で示す文化の懸け橋

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ミシュラン一つ星を獲得したパリの茶懐石レストラン「茶懐石 秋吉」。そのオーナーシェフである秋吉雄一朗さんは、日本の伝統料理を携え、異文化の中心地・パリで新たな挑戦を続けている。

茶懐石とは、「茶事」というお茶のおもてなしの中で出される食事を指す。料理、空間、器、所作に至るまで、すべてに茶道の精神が宿るその世界観には、異文化との接点で見出した、新たな日本料理の可能性が息づいている。「本物を伝えたい」という真摯な想いと、文化を繋ぐ“橋”としての覚悟、その軌跡をたどる。

PROFILE|プロフィール

秋吉 雄一朗(あきよし ゆういちろう)

1984年生まれ、福岡県飯塚市出身。京都・瓢亭で10年の修行。その後、在パリOECD大使公邸料理長に就任、3年間パリにて日本料理を振る舞う。帰国後、AIC秋津洲京都にて期間限定で日本料理店を開く。その他、高級料理旅館の期間限定料理長や、出張料理人として日本全国を周る。その間に株式会社わびを設立。福岡に淡麗らぁ麺明鏡志水を創立。コロナ禍を抜け、フランス・パリに「茶懐石 秋吉」をオープン。

伝統と革新の交差点——「茶懐石 秋吉」の出発点

福岡県飯塚市に生まれた秋吉さんは、料理人だった父の影響を受け、自然と料理の世界に惹かれていった。

「私の実家は農業を営んでおり、父は家業を継がずに料理人をしていました。家には野菜がたくさんありましたし、友達にチャーハンやオムライスのような簡単な料理を振る舞うのが好きで、自然と料理人は悪くないなと思っていました。

18歳のとき、父の紹介で京都の老舗料亭『瓢亭』で修業する機会を得ました。それまで茶懐石のことは何も知りませんでしたが、そこで見るもの、触れるもの、経験することすべてが初めての世界で、とても面白く、刺激的でした。器、魚、野菜、建物、人々、すべてが素晴らしいものにあふれていて、多くのことを吸収できたと感じています」

「瓢亭」での10年間の修業を経て秋吉さんは渡仏し、在パリのOECD(経済協力開発機構)日本大使公邸で料理長を3年間務める。その間ヨーロッパ各地のレストランを巡るうちに、ある違和感が芽生えたという。

「本物の懐石料理や日本料理を提供する店がほとんどありませんでした。パリは和食レストランが多い街ですが、そのほとんどは日本人以外が経営しています。ただ、現地の人々はそれを日本料理だと認識し、喜んで食べている状況に日本人として違和感を覚えました。そこで、パリに本物の日本料理を体験できる場所を作り、日本文化や価値を正しく伝えたい、その価値を向上させたいという想いから、この地で店を開くことを決意しました」

パリで再構築する“本物の日本料理”体験

2022年、フランス・パリ15区のル・テリエ通りに「茶懐石 秋吉」を開業した。レストランの内装は日本の職人によって伝統的な茶室を模して作られたといい、外観正面は木材を大胆に使用し、パリの街並みでひときわ異彩を放っている。

「店の前を通る人々は、みなさん『ここはなんだろう?』という表情で見ていかれますね。扉を開けて中に入ると、多くのお客様が『日本に瞬間移動したみたい』とおっしゃいます。この空間は、ただ日本料理を食べる場所ではなく、日本そのものを体験してもらうためのものです。食事への没入感を高める上で、非常に重要な役割を担ってくれています。設計には2年ほどかけ、何度もプランを練り直しました」

また、茶懐石の本質を貫くために、秋吉さんは素材選びにも細心の注意を払う。

「私の料理は、基本的には魚と野菜のみで構成しています。日本は世界でも有数の食材が集まる国であり、特に流通システムは大きな強みです。しかし、特に新鮮な魚に関しては、海外で同じクオリティを求めるのは非常に難しい。

この2年余り、さまざまな食材を試した結果、ようやく良い状態でお客様に届けられるものが絞られてきました。フランスでは活魚がほとんど手に入らないため、昆布締めや酢締めを施します。それに合う白身魚を選んだり、マイナス60℃で急速冷凍された高品質なマグロを使ったりと、工夫を重ねています。調理法も、その魚に合わせて日本とは異なるアプローチが必要になることが多いです。

野菜に関しては、できるだけ現地の野菜で日本料理を表現しようと試みています。フランスの野菜は水分が少なく味が濃く、食感が硬いものが多い。そのため、たとえば白アスパラは、フランス料理のように柔らかく火を入れるのではなく、少し食感を残すように火入れの時間を調整します。それだけで『こんなアスパラは食べたことがない』と驚かれるお客様もいらっしゃいます」

器もまた、メニューに合わせて入れ替え、ガラスの器は現地の蚤の市で見つけたクリスタルの食器を使うなど、パリの地と日本文化の融合が図られている。その美学は、京都での修業時代に学んだ茶道や華道の精神が息づいているという。

「特に茶道は18歳から20年以上続けており、茶懐石の精神を店に落とし込む上で大きく生かされています。店の設えや、道具・器の選び方は、すべて茶道の影響を受けていますね。

派手な演出は避け、地味に、淡々と。質素だけれど豊かさがある、そういう盛り付けや器使いを大切にしています。それが茶道の“わびさび”の精神であり、日本料理の本質だと思っています」

食から始まる文化交流と未来展望

2024年には、「茶懐石 秋吉」はミシュラン一つ星を獲得。この評価は、その後の運営面にも大きな影響をもたらしたという。

「星をいただいたことで、確かにお客様の見る目は変わりました。安心して予約してくださるお客様が増えたことで、知名度向上に大きく繋がったと感じています。

そして何より、お客様が増えたことで食材の回転が良くなり、ロスが減りました。これにより、常にフレッシュな食材を仕入れることが可能になり、結果としてお客様に、より良いものを提供できるという好循環が生まれています。やりたいことが、よりやりやすくなったという感覚ですね」

将来的には、パリ郊外に茶室を建てて、そこで茶事を行うことが、文化交流の理想の形だと話す秋吉さん。最後に、日本の若い料理人たちに向けてメッセージを伺った。

「フランスに来て、改めて日本は素晴らしい国だと感じています。日本が恋しいですし、日本の文化にもっと触れたいと常に思っています。そして、そうした日本の素晴らしい文化に触れたいと願っている外国の方は、とても多い。海外から見れば、日本で生まれ育った私たちは羨ましい存在なのです。

もし海外に挑戦したいという気持ちがあるなら、必ず『準備』と、何よりも『覚悟』を持って挑んでほしい。語学はもちろんですが、自国の文化について語れるように勉強しておくことが大切です。『日本ってどんな国?』と聞かれたときに答えられないと、その場が冷めてしまいますから。そして一番大事なのは、何があってもやり通すという、くじけない強い心を持つことだと思います。

もちろん言葉の壁もありますが、それを乗り越えれば人間として成長できます。そして、海外に出ることで、自分が日本人であるという自覚、アイデンティティをより強く感じられるはずです」

秋吉さんの挑戦は、単なるレストラン経営ではない。それは海外で道を切り拓く者に求められる「覚悟」と「日本人としての自覚」を体現し、異文化の中で日本の本質的な価値を問い続ける、文化的な営みそのものである。

最終更新日:

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