

■アメリカの郊外をドライブしていると、ひときわ目を引く巨大な丸太づくりの建物に出会うことがある。それが1972年創業のバスプロ・ショップス・アウトドア・ワールド(Bass Pro Shops Outdoor World)だ。
お店に一歩入れば、そこはもはや単なる小売店ではなく「アウトドアのテーマパーク」が広がる大空間となる。
巨大水槽に室内滝、ボート展示場、アーチェリー射撃場、果てはレストランやボーリング場まで備え、来店者は半日かけて家族と過ごせる“目的地”そのものになっているのだ。
売上と店舗ネットワークの最新動向
2025年時点で同社の売上は推定80億ドル超。2016年に同業大手のカベラズ(Cabela’s)を買収して以降、北米全体で約200店舗を展開し、そのネットワークをさらに拡大し続けている。
一方、Eコマース売上は報道によると2024年に約9.5億ドルと、実店舗売上に比べれば小さいものの成長基盤として着実に拡大中となる。
特筆すべきは、年間延べ2億5000万人がバスプロショップスやカベラズを訪れているという事実だ。これはウォルマートやターゲットに匹敵する来客規模であり、「体験型アウトドア専門店」というポジションを確固たるものにしているのだ。
直近の新店では、2025年7月にニューヨーク州クリフトンパークにオープンした70,000平方フィート(約2,100坪)規模の旗艦店が話題だ。館内には地域の自然を描いた壁画やアクアリウム、最新のVRアーチェリー射場などを設置し、従来型の売場を超えた「学び+体験」の要素を強化。オープニングでは売上の20%を地元の自然保護団体に寄付するなど、地域密着型の姿勢も鮮明にしている。
差別化の核心:「ここでしか買えない、ここでしか味わえない」
なぜバスプロショップスに人々が80km以上も車を走らせて来店するのか。その答えは「ここでしか手に入らない商品」と「ここでしか味わえない体験」の両輪にある。
商品の約7割はウォルマートやアマゾンでは扱えない専用アイテム。代表例が銃とボートだ。銃はオンライン販売が規制され、ボートは質感やサイズ確認が必須。さらに釣り具やキャンプ用品も「実際に手に取って比較しなければ分からない」という特性を持っている。
またアパレルは自社PB(プライベートブランド)が中心で、品質とデザインはナショナルブランド級。結果として同社の粗利益率は50%超と、一般の量販店とは一線を画す収益構造を築いているのだ。
デジタル戦略とアプリ活用
店舗が「巨大テーマパーク」だとすれば、その入り口を担うのが公式アプリだ。アプリでは会員証管理やポイントサービス、在庫確認、注文ステータスの追跡などが可能で、店舗の受け取りサービスと連動している。顧客が「行く前から楽しみ、帰ってからも繋がる」仕組みを提供しているのだ。
2024年にはカスタマー・エクスペリエンス担当バイス・プレジデントとしてケヴィン・クレチコ氏が就任。アプリ体験と店舗体験を融合させる戦略が加速している。
専用アプリ「アウトドア・リワード(Outdoor Rewards)」ではデジタル会員証管理や店舗在庫確認、注文状況の追跡などが可能で、顧客の購買体験をシームレスにサポートしている。
例えばイベント予約や釣り具の新商品展示の通知を受け取り、現地でそのまま試せるといった流れのカスタマージャーニーとなる。これは単なるデジタル化ではなく「実店舗来店を促進するためのDX」と位置づけられる点が注目に値する。
日本の小売業が学ぶべきポイント
日本のチェーンストア、とりわけホームセンターやアウトドア専門店にとって、バスプロショップスは「体験を通じて来店動機をつくる」モデルケースだ。
単なる販売空間を超える演出:巨大水槽やアーチェリー場のような施設投資は難しくても、「体験コーナー」や「週末イベント」を通じて来店時間を延ばす工夫は可能だろう。
PBの収益モデル:粗利率を高めるために、独自ブランドをNB並みの品質で展開する戦略は、スケールの小さい国内市場でも参考になる。
DXの位置づけ:アプリをECではなく「店舗送客装置」として設計する点は、特にスマホ普及率の高い日本にフィットするはずだ。
視察研修の際に私が日本の小売業幹部の方々に強調するのは「バスプロ・ショップスはDXもリアルも、全てが“顧客の冒険体験”の一部としてデザインされている」という点だ。これこそが、アメリカ流の“リテール・エンターテインメント”の神髄なのだ。
まとめ
バスプロショップス・アウトドア・ワールドは、売上や店舗数だけでなく「顧客の心をつかむ仕組み」そのものが進化し続けている。オンライン小売が拡大する時代にあっても、実物を体験し、時間をかけて楽しむ場所を提供することで、依然として強固な競争優位を保っています。
アウトドアに限らず、「買い物は体験だ」と改めて気づかせてくれる存在。それがバスプロショップスになる。
トップ画像:ロサンゼルス郊外アーバイン地区に昨年3月にオープンした14万平方フィート(約4,000坪)のバス・プロ・ショップ・アウトドア・ワールド。ディズニーランドから15分のところにあるショッピングセンター「オールトン・マーケットプレイス(Alton Marketplace)」内に家具販売店のリビングスペースと並んでいる。2021年に閉店したウォルマートの跡地にオープンしたバス・プロ・ショップ店はレストランやボーリング場を持たず、通常の5,000坪店より小型店で出店している。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。バスプロ・ショップス・アウトドア・ワールドは店内撮影に関して最も寛大なポリシーを持っている小売企業です。お客やスタッフのプライバシー尊重は必須ですが、店内撮影に比較的寛容なことはよく知られていてYouTubeへの投稿が多数あります。法的にみると店内での撮影は禁止されていませんが、あくまで“お店のポリシー”として撮影を制限しています。店内スタッフに見つかれば撮影中止や退店を求められる可能性があるといった具合です。大規模掲示板では「実際には誰も止めないから撮影してしまう」「立ち止まらなければ問題ない」「ポリシーがあってもほとんど放置されている」といった声が多く、お店側が本気で撮影を阻止するケースは稀という印象ですね。基本的に撮影は制限されていても黙認しているのがウォルマートでしょう。ウォルマート動画は多くのYouTubeにアップされていて、実際には黙認されて厳しく取り締まられていません。あまりに厳格すぎるとSNS時代では逆にネガティブなイメージが拡散されてしまうのです。
食品スーパーでバスプロ・ショップスと同じぐらい店内撮影に寛大なのはアマゾン傘下のホールフーズでしょう。ところでバスプロ・ショップの視察で面白いのが、参加者が壮観さに感動して撮影を忘れることでしょう(笑)
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