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ターゲットが過去10年間で最大規模のリストラを実施 従業員数の約8パーセントに相当

ターゲットが過去10年間で最大規模のリストラを実施 従業員数の約8パーセントに相当

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

ターゲット社、大規模リストラに踏み切る:売上停滞と組織複雑性を打破できるか

■アメリカ小売大手のターゲット社は、2025年10月23日、企業全体で1,800の職務を削減すると発表した。

これは本社や管理部門を中心とした従業員数の約8パーセントに相当し、過去10年間で最大規模のリストラである。

長引く売上低迷と複雑化した組織を立て直し、再び成長軌道に乗せることを狙った構造改革の一環と位置づけられている。

リストラの規模と背景にある停滞

ターゲット社の本拠はミネソタ州ミネアポリスにあり、全米で2,000店舗以上を展開する小売チェーンとして知られる。

今回の削減内容は、約1,000人の既存従業員の解雇と、約800の空席ポストの廃止という組み合わせである。本社スタッフの8パーセントにあたる規模で、組織の中核を担う人材への影響も避けられない。

背景にあるのは、11四半期連続で売上成長が横ばい、あるいは落ち込みを見せている厳しい業績である。

ターゲット社は2010年代後半に大きく成長したが、近年はウォルマートやアマゾン、コストコといった競合に押され、成長の勢いを失っている。

特に2021年後半の株価のピークから現在にかけて、株価は約65パーセント下落しており、投資家からの圧力も強まっている。

リーダー交代と新たな体制づくり

今回の発表は、リーダーシップ移行期に合わせたものでもある。長年CEOを務めてきたブライアン・コーネル氏に代わり、現COOであり元CFOのマイケル・フィデルケ氏が2026年2月1日付でCEOに就任する予定だ。

フィデルケ氏は、社内メモを通じて今回の人員削減を発表し、「私たちが時間をかけて作り上げてきた複雑さが、私たちを妨げてきた」と述べ、組織再編の必要性を強調した。

ターゲット社は今年春、フィデルケ氏の指揮の下で「エンタープライズ・アクセラレーション・オフィス」を設立している。

ここでは企業運営の簡素化、新しいテクノロジーの導入、成長加速のための方法を模索してきた。今回の削減はその一環であり、より機動的な意思決定プロセスを構築するための大きな一歩とされている。

削減の影響と従業員への対応

対象となるのは本社の管理部門やマネージャーレベルの職務が中心であり、店舗スタッフやサプライチェーン従業員には直接的な影響は及ばない。

削減される従業員には解雇手当が支給されるほか、2026年1月上旬まで給与と福利厚生が継続して提供される見通しだ。

一方で、組織変更に伴い本社チーム全体に在宅勤務を求めるなど、現場の混乱を抑えるための配慮も見られる。だが、この規模の人員削減は社内文化に大きな衝撃を与えることは避けられず、従業員の士気低下や離職リスクの高まりも懸念される。

「スタイルとデザイン」を軸にした戦略再構築

フィデルケ氏は改革の方向性として三つの柱を掲げている。

第一に、商品構成(マーチャンダイジング)でのリーダーシップを強化すること。第二に、顧客とのあらゆる接点で「ゲストエクスペリエンス」を向上させること。第三に、チームを支えるテクノロジーを加速させることである。

特に「スタイルとデザイン」を戦略の北極星と位置づけ、ターゲット社の独自性を再強調している点が注目される。安さや利便性ではウォルマートやアマゾンに及ばない同社にとって、ファッション性やデザイン性を軸に差別化を図ることは長年の強みでもある。

フィデルケ氏は「ターゲットが最もターゲットらしくあるのは、スタイルとデザインを中心に据えた時である」と明言しており、この方向性に基づいた戦略再構築が進められることになる。

複雑性が生み出した組織の壁

今回のリストラは単なるコスト削減策ではない。多層的な組織構造と重複する業務が意思決定を遅らせ、競争力をそいでいるとの認識が背景にある。

これは、スピードと柔軟性が重視されるデジタル時代において、企業の致命的な弱点となり得る。

フィデルケ氏は「新しい行動様式」と「鋭い優先順位付け」が不可欠だとし、行動変革と文化改革の必要性を訴えている。

業界全体に広がる構造改革の波

ターゲット社の動きは、同業他社のリストラの流れと歩調を合わせている。今年5月にはウォルマートがグローバルテクノロジーチームから約1,500人を削減した。

スターバックスは売上低迷を受け、10億ドル(約1,500億円)規模のリストラ計画の一環として900人を解雇している。

さらにベスト・バイも直近の四半期で1億1,400万ドル(約171億円)をリストラ費用に投じ、傘下のギーク・スクワッドを含む複数のチームで解雇を実施した。

こうした動きは小売業にとどまらず、ゼネラル・ミルズやカーギルといった食品大手にも広がっている。経済の不確実性と消費者行動の変化が重なり、あらゆる業界で構造的な再編が求められているのが現状である。

過去との比較と今回の意味

ターゲット社が最後に大規模なリストラを実施したのは2015年だった。

当時はカナダ市場への進出失敗や2013年の大規模なデータ侵害を受け、5億ドル(約750億円)のコスト削減を目的に1,700人を解雇し、1,400の空席ポストを廃止した。

今回の1,800人削減は、それ以来二番目に大きな本社スタッフのダウンサイジングとなる。

この歴史を踏まえると、今回の削減はターゲット社が単なる短期的なコスト調整ではなく、中長期的な事業基盤再構築を目的にしている点で異なる。

フィデルケ氏は「私たちが行うすべては顧客への奉仕でなければならない」と強調し、リソースと人材を戦略に沿って再配置する姿勢を鮮明にしている。

今後の展望と課題

ターゲット社の再成長には多くのハードルがある。株価の大幅下落により投資家からのプレッシャーは強まっており、競合との価格・利便性競争では勝ち目が薄い。

プライド月間商品に対する反発や、DEI施策を巡る批判が客足減少につながったことも事実だ。こうした課題にどう向き合うかは、単なる組織改革以上に難しい問題となる。

一方で、デザインやスタイルを前面に押し出し、テクノロジーを駆使して顧客体験を磨くという方向性は、差別化の余地が大きい。

スマホを起点にした購買体験、パーソナライズされたプロモーション、そしてアプリ主導のロイヤルティ戦略は、同社が強化すべき分野である。

これらを現場オペレーションにどう落とし込むかが、今後の成否を分けるだろう。

総括

ターゲット社が断行した1,800人削減は、同社の複雑な組織構造を打破し、成長停滞から脱却するための苦渋の決断である。

新CEOとなるマイケル・フィデルケ氏の下、スタイルとデザインを軸に据えた戦略がどこまで成果を上げられるかが注目される。

経済の不透明感が増す中で、リストラは単なるコスト削減ではなく、競争力を取り戻すための「加速化」の起点となる。

再成長への道のりは容易ではないが、今回の構造改革はターゲット社にとって新たな挑戦の幕開けであり、アメリカ小売業界全体の再編を象徴する動きといえる。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

ターゲット社が発表した1,800人規模の大規模リストラは、単なるコスト削減ではなく、複雑化した組織を打破し、成長停滞を脱するための「加速化」の一手です。

新CEOとなるマイケル・フィデルケ氏は、スタイルとデザインを北極星に据え、テクノロジーと顧客体験を掛け合わせた再構築を打ち出しました。

これは、米小売チェーンの事例を数多く手がけ、日本の流通業界向けにスマホファーストやアプリファースト、フィンテック導入を提案している私のようなコンサルタントにとって大きな示唆を与える動きです。

特に「組織の複雑性が意思決定を遅らせる」という課題は、日本企業でも決して他人事ではありません。DX推進を阻害する中央集権的な承認プロセスや“フォーマット重視”の文化を見直さなければ、本当の意味での変革は進みません。

現場負担を極力減らしながら顧客体験を磨くという方向性は、日本の小売・サービス業が学ぶべき重要なポイントです。

結局のところ、リストラは痛みを伴いますが、「現状維持こそ最大のリスク」であることをターゲット社の決断は教えてくれます。

最終更新日:

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