ADVERTISING

AI導入による大規模人員削減「AI-washing」とどう向き合う

「1.4万人をレイオフした巨人の温室」──シアトルのアマゾン本社の「スフィアズ(Spheres)」。緑に満ちたガラスの楽園も実際の職場はホワイトカラーをさらに白くする“AI-washing(AI漂白)”の真っただ中だ。AIの熱気に包まれるオフィスは、いま冷たい現実も映し出しているという皮肉だ。

「1.4万人をレイオフした巨人の温室」──シアトルのアマゾン本社の「スフィアズ(Spheres)」。緑に満ちたガラスの楽園も実際の職場はホワイトカラーをさらに白くする“AI-washing(AI漂白)”の真っただ中だ。AIの熱気に包まれるオフィスは、いま冷たい現実も映し出しているという皮肉だ。

AI導入による大規模人員削減「AI-washing」とどう向き合う

「1.4万人をレイオフした巨人の温室」──シアトルのアマゾン本社の「スフィアズ(Spheres)」。緑に満ちたガラスの楽園も実際の職場はホワイトカラーをさらに白くする“AI-washing(AI漂白)”の真っただ中だ。AIの熱気に包まれるオフィスは、いま冷たい現実も映し出しているという皮肉だ。

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

レイオフの嵐が吹き荒れるアメリカ企業

アメリカでは今、AI導入の波に押されるようにして大規模な人員削減が相次いでいる。

直近ではアマゾンが約1万4千人のレイオフを発表した。対象は主にコーポレート部門やテック系職種であり、AIや自動化によって効率化された業務の余波を受ける形だ。

物流大手のUPSも同様にホワイトカラーを中心に人員削減を進め、ターゲットも過去10年で最大規模のレイオフを実施している。

米調査会社チャレンジャー・グレイ&クリスマスのデータによると、2025年9月までに企業が表明した人員削減数は約95万人に達し、前年同期比でおよそ5割増となった。

かつて景気循環や経営不振に起因したリストラとは異なり、今回はAIの急速な普及とそれに伴う「業務再設計」が背景にある点が特徴である。

この流れを象徴するキーワードが「AI-washing」だ。

いまや“AI-washing(AI漂白)”という言葉が象徴するように、企業はAIを導入しているように見せかけながら、実際にはホワイトカラーのリストラやコスト削減を正当化している。

つまり、AIを「未来の象徴」として使いつつ、裏ではホワイトカラーの仕事を“漂白”しているのだ。AIがホワイトカラーの漂白剤となる。

これは、AIを活用しているように見せかけながら実際は人件費削減を正当化する手法や、AI導入を口実に構造改革を進める動きを指す。

いまや「AIで効率化」という言葉の裏には、“AIを盾に人を減らす”という現実が潜んでいる。

AI-washingがもたらすホワイトカラーの危機

特に影響が大きいのがホワイトカラー層だ。事務職、アナリスト、経理、人事、広報など、知的労働とされてきた分野でAIによる自動化が急速に進んでいる。

かつては製造業や物流現場が自動化の対象だったが、今では会議資料の作成、データ分析、顧客対応など「頭脳労働」までもがAIによって代替可能になりつつある。

企業側の論理は明快だ。生成AIや自動化ツールを導入すれば、同じ業務をより少ない人員で、しかも24時間途切れずにこなせる。

結果として、数百人規模の部門が数十人で運営可能になる。こうした合理化を「AI活用による生産性向上」と言い換えることで、企業は株主や市場への説明責任を果たしている。

AI-washingは、単なるコスト削減の手段としてではなく、企業イメージの刷新や投資家へのアピールにも利用されている。

だがその陰で、ホワイトカラーの中間層が大量に職を失い、キャリア再構築を迫られているのが現実だ。

「AIが職を奪う」のではなく「AIを使えない人が職を失う」

皮肉なことに、AIによって最も不安定になるのは、AIを使いこなせない人たちである。

すでに多くの企業では、AIを前提とした働き方が常識になりつつある。ChatGPTを活用してレポートを作成する、データ分析を自動で行う、AIサマリーで会議を短縮する――これらはもはや「特別なスキル」ではなく、「仕事の基礎体力」となりつつある。

つまり、AIを恐れて距離を取る人は、次第に職場での存在意義を失っていく。

AI-washingの本質は、技術そのものではなく「AIを使える人」と「使えない人」を線引きし、労働市場を再構成していく動きにある。AI導入のスピードが速いほど、その分断も急速に広がるのだ。

それでもAIを“人の味方”に変える企業がある

こうした中で、AI導入を「人の排除」ではなく「人の成長」に転換しようとしている企業もある。その筆頭がチェーンストア最大手のウォルマートである。

世界最大の小売企業であるウォルマートは、AIを「攻勢の武器」として活用する一方、210万人の従業員全員が変化に適応できるよう支援する取り組みを進めている。

CEOのダグ・マクミロン氏は直近で「我々の持つすべての仕事は何らかの形で変わる」と語り、AIがもたらす変化を脅威ではなく進化の契機と捉えている。

マクミロン氏が示すのは、AIによって職務内容が再構築されても、従業員を「再教育し、新しい役割を担わせる」方向に舵を切るという姿勢だ。単なる効率化ではなく、人を育て直すためのAI投資という点に特徴がある。

ウォルマートのAI戦略:攻勢の構造

ウォルマートは、AIを使った顧客体験の刷新と、全従業員のスキルアップを同時に進めている。

オープンAIとの提携により、ChatGPTを介して顧客が献立を相談し、日用品を自動補充し、決済まで完結できる仕組みを導入した。

AIが顧客の意図を先読みし、会話的に提案する「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」だ。

この仕組みの背後では、AIによる分析とパーソナライズが進み、買い物行動そのものを再定義している。

ウォルマートは単に効率的な販売を目指すのではなく、「顧客の生活に寄り添うAIパートナー」へと進化している。

同時に社内では、従業員がAIを活用できる環境を整備している。ウォルマート・アカデミーズという教育プログラムを通じて、現場スタッフから管理職までがAIスキルを学び、実際の業務で試すことを奨励している。

マクミロン氏はこの仕組みを「学びと実験を繰り返す文化」と表現し、AI変革の中心に“人材育成”を据えている。

「AI開発」ではなく「AI応用」で世界一を目指す

興味深いのは、ウォルマートがAIそのものの開発企業になることを目指していない点だ。

マクミロン氏は「我々がすべての計算資源を自前で構築する必要はない。重要なのは応用で世界一になることだ」と語る。

つまり、同社はオープンAIなど外部パートナーの技術を活用しつつ、AIを現場オペレーションに組み込み、世界最大規模の小売ネットワークに最適化している。

AIは、店舗在庫の最適化や物流効率化、さらにはレジ待ち時間の削減にも応用されている。だがウォルマートの真の狙いは、AIによって人間の仕事を奪うことではなく、「人がAIを使ってより良い意思決定を行う」環境をつくることにある。

AI時代の雇用哲学:「人のためのAI」であること

マクミロンCEOは、「我々がヒューマノイドロボットに奉仕し、彼らが買い物をするようになるまでは、人々に奉仕し続ける」と語った。

この一言は、ウォルマートのAI戦略の根幹を示している。AIを全面的に導入しても、最終的にサービスを支えるのは“人”であるという信念だ。

この姿勢は、AI-washingが横行する中で極めて異質なものである。

AI導入が即リストラにつながる企業が多い中、ウォルマートは「AIによる置き換え」と「AIによる創出」のバランスを取り、雇用を守りながら事業を拡張している。

マクミロン氏は「数年後も依然として非常に大きな雇用主であり続ける」と明言しており、AIを通じて“人を減らさずに進化する”ことを企業の使命として掲げている。

終わりに:AI-washingを超えて

AIはもはや一過性のトレンドではなく、働き方そのものを再設計するテクノロジーである。だが、その使い方を誤れば、AI-washingによって人を消費するだけの冷たい経済構造を生み出す。

その中で、ウォルマートのように「人の成長を支援するAI」を実装しようとする企業は、AI時代の倫理と現実の狭間で希望を示している。

いま問われているのは、AIが人を代替するか否かではない。AIをどう使えば、人をより“人間らしく”働かせられるのか。その答えを出すのは、AIではなく、私たち自身である。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

アメリカではAI導入の荒波の中、アマゾンが14,000人をリストラし、UPSやターゲットもレイオフを進め、9月までの人員削減は95万人と前年同期比5割増に達しました。

いまや“AI-washing(AI漂白)”という言葉が象徴するように、「AIで効率化」を掲げながら、実際にはホワイトカラーを削る企業が増えています。

その一方で、ウォルマートはAIを「人を減らす道具」ではなく「人を育てる武器」として捉え、210万人全員のスキル再構築に挑んでいます。

要は、AIに置き換えられるかではなく、AIを味方につけられるか、でしょう。

ところが日本では、「自分には関係ない」と言いながら、いまだに紙の申請書をハンコで回し、会議で“FAXが届いたか確認した?”と聞く人がいます。

まさに「働かないおじさん問題」のトリセツに出てきそうな典型例。

強力な洗濯洗剤が汚れを浮かび上がらせるように、“AI-washing”が始まれば、働かないおじさんたちも白シャツのシミみたいに次々と浮き出てくる——そう考えると、AI時代の職場は、いよいよ「漂白」されていくのかもしれません。

最終更新日:

ADVERTISING

TAGS

記事のタグ

「1.4万人をレイオフした巨人の温室」──シアトルのアマゾン本社の「スフィアズ(Spheres)」。緑に満ちたガラスの楽園も実際の職場はホワイトカラーをさらに白くする“AI-washing(AI漂白)”の真っただ中だ。AIの熱気に包まれるオフィスは、いま冷たい現実も映し出しているという皮肉だ。

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント