買い物の主役は棚からアプリへ 変容する小売の競争軸

売り場の前でスマホを開く──買い物の主役が棚からアプリへ移りつつあることを象徴する一枚。フィジカルな売り場に立ちながら、最終的な意思決定はモバイルが担う時代に、小売の競争軸は静かに変わり始めている。

売り場の前でスマホを開く──買い物の主役が棚からアプリへ移りつつあることを象徴する一枚。フィジカルな売り場に立ちながら、最終的な意思決定はモバイルが担う時代に、小売の競争軸は静かに変わり始めている。

売り場の前でスマホを開く──買い物の主役が棚からアプリへ移りつつあることを象徴する一枚。フィジカルな売り場に立ちながら、最終的な意思決定はモバイルが担う時代に、小売の競争軸は静かに変わり始めている。

なぜ今、現地体験が経営判断の前提条件になったのか
米国小売の競争軸は、もはや店舗面積や価格政策ではない。アプリを起点に、顧客の行動、判断、購買そのものをどこまで個人化できるかという領域へと完全に移行している。
この変化は資料やレポートでは把握できない。なぜなら、その本質は数字ではなく体験にあるからだ。
ウォルマートやアマゾンのアプリは、日本にいながらではダウンロードすらできず、ログインもできない。
ランディングページを眺めただけで理解した気になるのは、店の外からショーウインドウを見て経営を語るようなものだ。
そのアプリの中では、AIによる提案、購買履歴を前提とした自動化、受け取り方の柔軟な選択など、売り場中心の発想では説明できない仕組みが、すでに日常として動いている。
今、日本の経営層に求められているのは「海外事例を知ること」ではない。現地で実際に触れ、体験することである。
体験を欠いた経営判断は、いずれ過去の成功体験に引きずられる。だからこそ今、現地体験は視察ではなく、経営判断の前提条件になりつつある。
変化は起こせない。しかし、変化についていくことはできる
レコードが音楽市場を支配していた時代、音楽を楽しむという行為はレコードという形に縛られていた。しかし人々が欲しかったのはレコードではない。音楽そのものだった。
カセットテープが登場し、CDが生まれ、やがて音楽はインターネットを経由して、個人の嗜好に合わせて聞き方を最適化する方向へと進化した。
誰もが同じアルバムを同じ順番で聴く時代は終わり、音楽は時間帯や気分、行動履歴に応じて自動的に選ばれる存在になった。音楽の価値は一度も揺らいでいない。
しかし、音楽を届ける手段と体験の設計は劇的に変わった。この変化を表層で捉えた企業は衰退し、体験の本質を捉えた企業だけが生き残った。
小売業も、まったく同じ進化の途上にある。
小売の本質は売り場ではない。個人に最適化された購買体験である
日本の小売業は長らく「良い売り場をつくること」が競争力だと信じてきた。商品、陳列、棚割り、動線、接客、業態(フォーマット)。
それらは確かに重要である。しかし、それらはあくまで、かつて最適だった手段に過ぎない。
消費者が本当に求めているのは、店舗で商品を選ぶ行為そのものではない。自分に必要な食品や欲しい商品を、生活リズムに合った形で手に入れることである。
この本質は、音楽と同じく、何十年も変わっていない。
変わったのは、その実現方法だ。買い物はもはやフィジカルな売り場に縛られる必要がなくなった。
スマホ1つで、いつでもどこでも注文でき、受け取り方も来店、自宅配送、置き配など、個人のライフスタイルに合わせて選ばれるようになっている。
これは利便性向上ではなく、購買体験そのものの再設計である。
売り場は主役の座を降りた
この変化を理解すると、売り場の位置づけは根本から変わる。売り場はもはや小売の主役ではない。数ある購買手段の一つに過ぎない。
ウォルマートやアマゾンが力を注いでいるのは、棚づくりではなく、検索、履歴、嗜好データを活用した探させない買い物の設計である。
顧客は商品を探したいのではない。自分に合った答えを、できるだけ早く得たいだけだ。
小売の敵は競合店ではない
小売業が本当に向き合うべき敵は明確である。それは競合店ではない。顧客の面倒くささ、迷い、考える負担そのものである。
音楽が選ばなくていい体験へ進化したように、買い物もまた考えなくていい方向へ進んでいる。この流れを止めることはできない。しかし、乗ることはできる。
変化は起こせない。しかし、変化についていくことはできる。
売り場を守るのか、顧客の時間と頭脳を守るのか。
その選択が、日本の小売業の未来を決める。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!
日本の流通誌を読んでいて、いつも違和感を覚えます。ウォルマートやアマゾン、ターゲットといった米国大手チェーンのアプリ体験についての記事が、ほとんど見当たらないのです。
理由は単純で、日本にいてはログインどころか、アプリ自体をダウンロードできず、ランディングページすら十分に閲覧できないからです。
つまり、現地で実際に触らなければ、書きようがない領域なのです。
さらに問題なのは、日本の流通専門家の高齢化です。
彼らの多くは、そもそもスマートフォンを自在に操ること自体が得意ではありません。
その結果、米国で急速に進むモバイルとAIによる流通の深化が、議論の俎上にすら上がらないまま時間だけが過ぎていきます。
現場ではすでに、アプリを起点に買い物が個人化され、意思決定そのものがAIに委ねられ始めています。
それを知らずに業態論だけを語るのは、地図アプリ全盛の時代に紙の地図を自慢しているようなものです。
もっとも、その紙の地図が折り畳めなくなってきていること自体が、すでに時代のサインなのかもしれません。
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