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Z世代の胃袋を掴め コーチの「食べるハンドバッグ」戦略

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

【CNBCレポート】Z世代を狙うコーチの「カフェ戦略」: 高額なバッグは買えなくても、ラテや「タビー・ケーキ」なら手が届く。コーヒーショップを“ブランドへの入り口”として活用し、滞在時間を延ばして店舗売上を劇的に向上させるコーチ(Coach)の最新戦略だ。ユニクロやキャピタル・ワンなど米国小売業界で過熱する「ホスピタリティ」トレンドも解説する。

コーチがカフェで「タビー・ケーキ」を売る理由:体験経済とZ世代獲得への執念

アメリカ小売業界において、今まさに新たな「カフェ戦争」とも呼べる現象が勃発している。

かつて書店チェーンのバーンズ&ノーブルがスターバックスと提携し、ターゲットが店内にスタバを設置したように、小売店舗におけるコーヒーショップの併設自体は目新しいものではない。

しかし、昨今の動きは単なる「買い物のついで」の休憩所提供ではない。それは、ブランドの世界観を五感で体験させ、将来の顧客であるZ世代を囲い込み、滞在時間を延ばして客単価を向上させるための極めて戦略的な「投資」なのだ。

最新の動向を見れば、コーチからユニクロ、さらには銀行のキャピタル・ワン(Capital One)に至るまで、あらゆる業種がホスピタリティ産業へと雪崩れ込んでいる現状が浮き彫りになる。

高級バッグの形をしたケーキがZ世代を熱狂させる

このトレンドの最前線を走っているのが、タペストリー(Tapestry)傘下のラグジュアリーブランド、コーチだ。

彼らは現在、年間12~15店舗のペースで「コーチ・コーヒー・ショップ(The Coach Coffee Shop)」の出店を計画している。

その狙いは極めて明確であり、手頃な価格でのブランド体験を通じた若年層の取り込みにある。

象徴的なのが、コーチの人気ハンドバッグ「タビー(Tabby)」を模したスイーツ「タビー・ケーキ」だ。

テキサス州オースティンの店舗では、10代の少女たちがこのケーキを割り、乾杯する様子をTikTok(ティックトック)に投稿しているという。

彼女たちにとって、695ドル(約10万4,250円)のバッグは高嶺の花かもしれないが、9ドル(約1350円)~15ドル(約2,250円)程度のラテやケーキなら、小遣いの範囲で手が届く"attainable luxury(手の届く贅沢)"となる。

コーチのグローバル・フード・ビバレッジ担当副社長であるマーカス・サンダース(Marcus Sanders)氏が指摘するように、顧客はハンドバッグを毎月買うことはできないが、コーヒーなら毎日でも買える

この頻度の高い接点こそが、ブランドへの親近感を醸成し、将来的に高額なレザー製品を購入するロイヤルカスタマーへと育成する入り口となるのだ。

実際、カフェを併設した店舗では、店舗全体の売上が2桁から3桁の伸びを見せているというデータもあり、その相乗効果は凄まじい。

アウトレットモールの「食の砂漠」を逆手に取る戦略

コーチのカフェ戦略で特筆すべきは、その出店立地である。

彼らはニューヨークのきらびやかな路面店だけでなく、郊外のアウトレットモールへの展開に注力している。

北米に約190あるコーチのアウトレット店舗の多くは、魅力的な飲食店が不足しているモールに入居していることが多い。

買い物客は食事のためにモールを出るか、質の低いフードコートで妥協するしかなかった。

コーチの北米プレジデント、リー・マンハイム・レバイン(Leigh Manheim Levine)氏は、ここに勝機を見出した。

カフェを併設することで「顧客の課題」を解決し、店舗への滞在時間(ドゥエルタイム)を強制的に延ばすことに成功したのだ

さらに驚くべきは、このカフェ事業自体が単なるマーケティング費用(赤字垂れ流しの広告塔)ではなく、独立した収益源として成立している点だ。

カフェの売上の約30%は、実はコーヒーやフードではなく、カフェ限定のトートバッグや水筒、ピンバッジなどの「グッズ売上」が占めているという。

95ドル(約1万4250円)の限定トートバッグなどは、希少性を求める客によって飛ぶように売れる。

つまり、コーチはコーヒーの香りで客を誘引し、高利益率の雑貨を売りつつ、本業のバッグ売り場へと回遊させるという、完璧なエコシステムを構築しているのである。

「体験経済」の復活と各社の思惑

この動きはコーチに限ったことではない。『体験経済(The Experience Economy)』の共著者であるジョー・パイン(Joe Pine)氏が指摘するように、コロナ禍で一度は壊滅的な打撃を受けた「体験」への希求が、揺り戻しとして爆発している。

人々は単にモノを買うだけでなく、誰かと時間を共有できる「サードプレイス(第3の場所)」を求めているのだ。

ユニクロもこの波に乗っている。北米初のカフェ併設店となったニューヨーク5番街の旗艦店では、日本のホスピタリティ文化を発信拠点として位置づけている。

ユニクロの北米マーケティング責任者、ニコ・セソ(Nicolas Cessot)氏によれば、ここでの目的は単なるコーヒー販売ではない。

オンライン注文の受け取り、服の修理やカスタマイズといった「サービス」を受けながら、くつろげる空間を提供することで、ブランドへの帰属意識を高めることにある。

一方、金融業界からはキャピタル・ワン(Capital One)が独自のカフェ戦略を展開している。彼らは全米で65店舗以上の「キャピタル・ワン・カフェ」を運営しているが、その運営形態はコーチやユニクロとは異なる。

カフェの実務はヴァーヴ・コーヒー(Verve Coffee)などの専門業者に委託し、自社の行員はセールスを行わない。その代わり、口座保有者にはドリンクを50%オフで提供するという特典を用意している。

銀行口座や金融商品は無形であり、差別化が難しい。しかし「美味しいコーヒーが半額で飲める素敵な場所」という物理的なタッチポイントを持つことで、銀行という冷たい存在を「人格化(personification)」しようとしているのだ。

これは、デジタル化が進む現代だからこそ、逆説的にリアルの価値が高まっていることを証明している。

ラグジュアリーブランドの「ホスピタリティ」への傾倒

ラグジュアリーの分野に目を向ければ、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)系列の動きも活発だ。

ルイ・ヴィトンやディオールはレストランやカフェを展開し、ティファニーは「ブルー・ボックス・カフェ(Blue Box Cafe)」をリニューアルした。

ラルフローレンの「ラルフズ・コーヒー(Ralph’s Coffee)」は、もはや観光名所と化している。

これらのブランドにとって、カフェはもはや付属品ではない。ブランドの世界観を「味わう」ことができる、最も手軽で、かつインスタ映えする最強のコンテンツなのだ。

顧客はコーヒーカップを片手に店内の商品を眺め、友人と写真を撮り、それをSNSで拡散する。これ以上の広告効果があるだろうか。

コモディティ化する「カフェ併設」のリスクと未来

しかし、すべてのブランドがカフェを開けば成功するわけではない。ジョー・パイン氏が警告するように、参入障壁が低い分、このトレンドは急速にコモディティ化(陳腐化)しつつある。

単に店内にエスプレッソマシンを置くだけでは、もはや誰も見向きもしないだろう。

差別化の鍵は、そのカフェがどれだけブランドの核心的価値(コア・バリュー)を体現できているかにかかっている。

コーチのように自社のアイコン商品をケーキ化したり、ユニクロのように「日本品質」を前面に出したり、キャピタル・ワンのように会員特典と直結させたりといった、独自の「ひねり」が必要不可欠だ。

また、オペレーションのリスクも無視できない。コーヒーが不味かったり、提供が遅かったりすれば、それはそのままブランドイメージの毀損に直結する。

小売業のスタッフにバリスタの真似事をさせるのか、それとも外部のプロと組むのか。あるいはコーチのように、ホスピタリティ部門の専門家(元スターバックスやラルフローレンの幹部)を引き抜き、本気で飲食事業に取り組むのか。

その覚悟の差が、数年後の勝敗を分けることになるだろう。

現在、タペストリーの株価は過去5年間で約600%上昇している。親会社の好調な業績を背景に、コーチは100億ドル(約1兆5000億円)ブランドへの成長を目指している。その成長エンジンの燃料として「コーヒー」が選ばれたのは興味深い。

結局のところ、我々は「小売カフェの黄金時代」に突入しているのかもしれない。しかし、消費者の胃袋(Share of Stomach)には限界がある。

財布の紐(Share of Wallet)を緩めるために、まずは胃袋を掴もうとする小売業たちの仁義なき戦いは、まだ始まったばかりだ。次にあなたが服を買いに行くとき、そこで何を食べさせられることになるのか、楽しみでもあり、少し恐ろしくもある。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

コーチのカフェ戦略、実はコーヒー以上に「限定グッズ」が隠れたドル箱です。なんとカフェ売上の約30%を占めるのが、ここでしか買えないマーチャンダイズ。

特に注目なのが、NYのダイナーをイメージした看板娘「リル・ミス・ジョー(Lil Miss Jo)」があしらわれたアイテムです。

かなりお高めですが95ドル(約1万4000円)のトートバッグをはじめ、175ドルのスウェットシャツ、75ドルのTシャツ、ウォーターボトル($35 ~ $45)、マグカップ($35 ~ $60)、ピンバッジなどがラインナップされています。

「タビー・ケーキ」でSNS映えを狙いつつ、帰りには「ここに来た証」として限定トートを買わせる。

数十万円のバッグは無理でも、1万円のトートなら…というZ世代の心理を突いた巧みな「松竹梅」戦略と言えるでしょう。

つい「記念に」と95ドルのトートを買ってしまいそうになりますが、中に入れるのが数百円のコーヒーだと考えると、なんだか袋の方が偉そうに見えてきます。

カフェインで頭が冴えるどころか、レシートの合計額を見て目が飛び出ないようご注意を(笑)。

最終更新日:

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