Amazon FreshとAmazon Goが全店閉鎖 “打倒ウォルマート”本気モードへ

“未来の店舗”と呼ばれたAmazon Go1号店。その象徴的な都市型路面店も、ついに全店閉鎖という判断が下された。

“未来の店舗”と呼ばれたAmazon Go1号店。その象徴的な都市型路面店も、ついに全店閉鎖という判断が下された。

“未来の店舗”と呼ばれたAmazon Go1号店。その象徴的な都市型路面店も、ついに全店閉鎖という判断が下された。

2026年1月27日、アメリカ小売業界に激震が走った。
アマゾンがついに自社ブランドの実店舗事業における事実上の敗北を認め、すべてのAmazon Fresh(アマゾン・フレッシュ)およびAmazon Go(アマゾン・ゴー)の店舗を閉鎖すると発表したのである。
長年にわたり「店舗の未来」として喧伝されてきたキャッシャーレス(レジなし)決済技術「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」を引っ提げ、既存の食品スーパーを駆逐するかのように振る舞ってきた巨大テック企業が、ついに白旗を上げた瞬間だ。
しかし、これはアマゾンが食品小売から撤退することを意味するのではない。
むしろ、より「ウォルマート的」な泥臭い物流と巨大店舗オペレーションへと回帰し、本気でシェアを奪いに来るための戦略的撤退と見るべきだろう。
今回のアマゾンの決定は極めてドラスティックだ。
全米に展開していた57店舗のAmazon Freshと、15店舗まで縮小していたAmazon Goの全店を閉鎖する。
多くの店舗は2月1日までに営業を終了するが、労働法規制のあるカリフォルニア州の店舗のみ45日間の猶予が与えられるという。
アマゾンの公式ブログでの説明は非常に率直かつ残酷なものであった。「大規模な展開に必要な、正しい経済モデルを伴う真に卓越した顧客体験を創造することができなかった」と認めているのだ。
「魔法」の代償は高すぎた:崩壊していたユニットエコノミクス
ここにある「正しい経済モデル」の欠如こそが、今回の撤退劇の核心である。
天井に何百ものカメラとセンサーを設置し、高度なAI(人工知能)とコンピュータビジョンで客の動きを追跡する「ジャスト・ウォーク・アウト」技術は、技術的には素晴らしいものであったかもしれない。
しかし、食品スーパーという利益率が極めて低い業界において、初期投資と維持コストが嵩むハイテク装備は、ユニットエコノミクス(1店舗あたりの採算性)を完全に破壊していたのである。
ある分析によれば、センサー単体のコストは目標額の3.5倍にも達しており、おにぎりやサンドイッチを売るコンビニエンスストア業態でさえ、そのコストを回収することは不可能だったというわけだ。
結局のところ、顧客が求めていたのは「レジに並ばない魔法」ではなく、「安くて新鮮な食品」と「利便性」であり、アマゾンはその基本的な小売の原則を見誤っていたと言わざるをえない。
不採算店を切り捨て、「勝ち馬」ホールフーズへ一点集中
しかし、アマゾンは転んでもただでは起きない。
不採算部門を切り捨てると同時に、彼らは傘下のホールフーズ・マーケットへの投資を劇的に加速させると宣言した。
具体的には、今後数年間で100店舗以上のホールフーズ・マーケットを新規出店する計画だ。
閉鎖されるAmazon FreshやAmazon Goの一部店舗についても、立地が良いものはホールフーズへと転換される。
これは、アマゾンが「自社開発の実験店舗」という幻想を捨て、すでにブランド力と固定客を持つホールフーズという「現実解」に経営資源を集中させることを意味している。
打倒ウォルマートの本丸:シカゴ郊外に出現する「アマゾン版スーパーセンター」
そして、このニュースの裏でさらに注目すべきは、アマゾンがシカゴ郊外で計画している次なる一手だ。
イリノイ州オーランドパーク(Orland Park)において、アマゾンは約23万平方フィート(約6,440坪)という超巨大な新フォーマットの店舗建設を進めている。
この面積は、ターゲットの平均的な店舗の約2倍、ウォルマートのスーパーセンター(約18万平方フィート:約5,000坪)すら上回る規模である。
このオーランドパークの巨大店舗は、単なるスーパーマーケットではない。
生鮮食品や日用品だけでなく、アマゾンのサイトで販売されている一般商品(ジェネラル・マーチャンダイズ)も取り扱う、まさに「アマゾン版スーパーセンター」とも呼ぶべき業態だ。
特筆すべきは、店舗面積の約半分が「バック・オブ・ハウス(Back of House)」と呼ばれる、オンライン注文のフルフィルメント(受注・梱包・発送)エリアに充てられている点である。
ここでは、顧客が店舗で買い物を楽しむ裏側で、従業員やロボットがネット注文の商品をピッキングし、配送ドライバーや店舗受け取りの顧客へと引き渡す。
つまり、ウォルマートが既存店舗をネットスーパーの出荷拠点として活用し成功しているモデルを、アマゾンは最初から設計に組み込んだ専用施設として実現しようとしているのだ。
この動きは、アマゾンが「テック企業」としてのプライドを捨て、徹底的に「小売業者」としてウォルマートに戦いを挑む姿勢の表れである。
レジなし技術というギミックではなく、圧倒的な品揃えと物流効率、そして「店舗とネットの融合」というウォルマートの得意領域で、正面から殴り合いを演じる覚悟を決めたと言えるだろう。
ホールフーズの進化系:店舗裏に隠されたロボット物流「MFC」の衝撃
さらに、アマゾンは既存のホールフーズ・マーケットの進化も止めていない。
ペンシルベニア州のプリマスミーティング(Plymouth Meeting)にあるホールフーズ店舗では、画期的なテストが開始されている。
ここでは店舗内に「マイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)」と呼ばれる小型の自動倉庫システムが導入された。
このシステムには、フルフィル(Fulfil)というロボティクス企業の技術が採用されている。
通常、ホールフーズはオーガニック食品や自然派食品に特化しており、コカ・コーラやタイド(Tide)のような一般的なナショナルブランド商品は扱っていない。
これが顧客にとって「ホールフーズだけでは買い物が完結しない」という不満の種であり、結局は別のスーパーやウォルマートへ足を運ばせる原因となっていた。
しかし、このMFC併設型店舗では、店舗の裏側に設置された自動倉庫内に、ホールフーズでは扱わない数千種類のアマゾンの人気商品や日用品が在庫されている。
顧客は店内でホールフーズの生鮮食品を選びながら、スマホアプリや店内のQRコードを通じて、MFC在庫の洗剤やスナック菓子、電池などを注文できる。
すると、買い物を終えてレジに向かう頃には、裏側のロボットがそれらの商品をピッキングし、レジや受け取りカウンターで「ホールフーズの商品」と「アマゾンの商品」をまとめて受け取ることができるのだ。
これは、顧客の「ワンストップショッピング」のニーズを満たすと同時に、ホールフーズの弱点であった品揃えの限定性を、店舗面積を広げることなくデジタルの力で解決する極めて合理的なソリューションである。
このプリマスミーティングの実験が成功すれば、全米のホールフーズが単なる「高級スーパー」から、アマゾンの膨大な在庫を活用した「地域物流拠点兼スーパー」へと変貌することになる。
これこそが、アマゾンが描く「フィジカル(実店舗)とデジタル(EC)の真の融合」でありAmazon Freshという中途半端な箱を維持するよりも、はるかに脅威となる戦略だ。
技術は捨てず、外販へ:スタジアムと空港に生きる「ジャスト・ウォーク・アウト」
一方で、かつて「未来」ともてはやされた「ジャスト・ウォーク・アウト」技術はどうなるのか。
アマゾンは、この技術を自社の大規模店舗からは撤去するものの、スタジアムや空港、大学のキャンパスといった「特定の閉鎖商圏」や、自社の物流倉庫内の休憩室向けに外販・ライセンス提供するビジネスへとピボット(方向転換)している。
つまり、数百人が同時に動き回る複雑なスーパーマーケット環境では採算が合わないが、限られた品数と動線の場所であれば、まだ活路はあるという判断だ。
技術自体を捨てたわけではないが、もはやそれが小売革命の中心ではないことを認めた形となる。
ハイテク実験の終わり、そして泥臭い総力戦の始まり
今回の全店閉鎖のニュースを見て、「アマゾンのリアル店舗戦略は失敗した」と嘲笑するのは容易だ。
しかし、その背後にある動きを見れば、彼らが失敗から学び、より現実的で、より強力な競合へと脱皮しようとしていることがわかる。
Amazon Freshの閉鎖は敗走ではなく、戦線の整理縮小と、本丸である「打倒ウォルマート」に向けた戦力の再配置なのだ。
ウォルマートやターゲット、そしてクローガーといった既存の大手チェーンにとって、ハイテク装備で武装した「Amazon Go」よりも、オーランドパークに出現するような「物流機能一体型巨大店舗」や、プリマスミーティングのような「品揃え無制限のホールフーズ」の方が、はるかに恐ろしい存在であることは間違いない。
アマゾンは、ようやく小売業の本質が「魔法」ではなく「効率と規模」であることを理解し、その巨大な資本力を正しい方向に向け始めたのである。
アメリカの小売戦争は、ハイテク実験のフェーズを終え、総力戦の第2ラウンドへと突入したと言えるだろう。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。
私はジャスト・ウォークアウトについて、たぶん誰よりも多く書いてきましたし、ニュースサイトに転載された記事も少なくありません。
結論は一貫していて、「技術は面白いが、食品スーパーでは経済合理性が合わない」という見方です。
一方で、「日本のメディアは一括りにして失敗と決めつけ、取材者の主観が誤解を広げている」との反論もあります。
どちらが正しいか。私の答えはシンプルで、現場で何度も買ってみることです。
私は実際にアマゾン・フレッシュやゴーで累計2,000~3,000ドル買い物し、2022年上半期は食料品の大半をそこで調達しました。
机上の空論ではなく、一次情報で判断する。コンサル思考の本を何冊読んでも差別化にはなりません。
戦略で絶対的ポジションを取るなら、他人が面倒でやらないことをやる。視点が変わり、洞察が出るまで通うのです。
ウォーレン・バフェットの言う“Skin in the game”。時間だけでなく、身銭も切る。例えるなら、レシピ本だけ読んで料理評論家になるようなもの。
先日もレジを素通りしてきましたが、財布はしっかり軽くなりました。やっぱり現実は甘くないですね(笑)。
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