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検索型から対話型へ グーグルを脅かす「対話型コマース」の衝撃

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

検索連動から「文脈」連動へ。米小売大手3社が描くAI時代のカスタマージャーニー ターゲット、アルバートソンズ、ウィリアム・ソノマが参加したチャットGPTの広告テスト概要。従来の検索リスト表示ではなく、ユーザーとの対話(コンテキスト)に合わせて、ターゲットはリテールメディア「ラウンデル」による提案、アルバートソンズは「フラッシュ(Flash)」による最短30分の即配、ウィリアム・ソノマは購入前の意思決定支援 と、各社がAIを通じて動的に連携する「エージェンティック・コマース」の流れを可視化した。

生成AI(ジェネレーティブAI)が小売業界に突きつける「対話型コマース」という名の新たな挑戦状に対し、アメリカの小売大手がついに重い腰を上げ、あるいは果敢にその最前線へと飛び込んだ。

この動きは単なる新しい広告枠のテストではない。検索エンジンからチャットボットへと消費者の行動がシフトする中で、顧客との接点をどこに見出すかという、小売業の未来を占う試金石である。

ターゲット、アルバートソンズ、そしてウィリアム・ソノマという、それぞれ異なる強みを持つアメリカの小売大手3社が相次いで、オープンAI(OpenAI)が提供する対話型AI「チャットGPT(ChatGPT)」内での広告表示テストプログラム(パイロットプログラム)への参加を表明した。

これは、これまでグーグルが支配してきた「検索連動型広告」の聖域に対し、対話型AIが「文脈連動型広告」で切り込む歴史的な転換点とも言える動きだ。

小売業界が直面する「検索」から「対話」へのパラダイムシフト

今回の動きの背景には、消費者の情報収集手段が劇的に変化しているという現実がある。

ターゲットが明らかにしたデータによれば、チャットGPTからターゲットの公式サイトへの流入トラフィックは、すでに月平均で40%もの増加を見せているという。

これは、消費者が「何を買うべきか」という問いを、従来の検索ボックスではなく、AIとの対話の中に投げかけ始めている動かぬ証拠だ。

この流れを受け、ターゲット、アルバートソンズ、ウィリアム・ソノマの3社は、オープンAIの広告パイロットプログラムに参加し、それぞれの戦略に応じた広告展開を開始した。

このプログラムは、チャットGPTの無料版ユーザーおよび月額8ドル(約1200円)の低価格プラン「Plus」や「Team」などではない「ChatGPT Plus」ではないユーザー(一部報道では「Go」プランや無料層)を対象としており、ユーザーの入力したプロンプト(指示や質問)の文脈に合わせて、適切な商品やブランドを提案するものである。

ターゲット:リテールメディア「ラウンデル」を武器にしたエコシステムの拡張

ディスカウントストア大手のターゲットの動きは、単なる自社商品の宣伝にとどまらない。彼らの狙いは、自社のリテールメディアネットワークである「ラウンデル(Roundel)」の拡張にある。

ターゲットはこのテストにおいて、自社ブランドの商品だけでなく、ラウンデルを通じて提携しているナショナルブランドの広告も表示させる計画だ。

例えば、ユーザーがチャットGPTに対して「手軽に料理ができるキッチン家電を教えて」と尋ねたとしよう。

従来の検索エンジンであれば、SEO対策された記事やリストが並ぶだけだが、今回のテストでは、その対話の流れ(コンテキスト)を読み取り、ラウンデルに出稿しているメーカーの「エアフライヤー」の広告が、あたかも対話の一部であるかのように、しかし明確に「スポンサー」と明記された形で提示される可能性がある。

ターゲットにとって、これはリテールメディアの価値を飛躍的に高めるチャンスだ。

自社のECサイトやアプリの中(オンサイト)だけでなく、月間数億人のアクティブユーザーを持つチャットGPTという外部プラットフォーム(オフサイト)においても、購買意欲の高い層にピンポイントでリーチできる手段をブランドパートナーに提供できるからだ。

ターゲットは、この広告がチャットボットの回答そのものには影響を与えず、あくまで独立した広告枠として表示されることを強調し、透明性の確保に努めている。

アルバートソンズ:食の提案から即時配送までを繋ぐ「文脈」の支配

スーパーマーケット大手のアルバートソンズは、より生活に密着した具体的なシーンでの活用を模索している。

同社はバレンタインデーに合わせてこのテストを開始し、「バレンタインに最適な花は?」「ギフト用のチョコレート」といった検索クエリやプロンプトに対し、傘下のセーフウェイやボンズ、ジュエル・オスコといった地域密着型スーパーマーケットの広告を表示させる戦略をとった。

ここでのポイントは、単に商品を見せるだけではないという点だ。

ユーザーが広告をクリックすると、その地域の店舗で取り扱っている特売品やレシピ、ギフトのアイデアが掲載されたランディングページへと誘導される。

さらに、そこから同社の急送サービス「フラッシュ(Flash)」を利用すれば、最短30分で商品が届くという、検索から購買、配送までの一気通貫した体験を設計している。

アルバートソンズのチーフ・コマーシャル・オフィサーであるジェニファー・サエンツ氏が「顧客のデジタル体験を邪魔するのではなく、強化する広告を目指す」と述べているように、彼らはAIとの対話の中に自然な形で「近所のスーパー」の存在を滑り込ませようとしている。

これは、レシピ検索から食材購入へと至るカスタマージャーニーにおいて、AIがいかに強力な「客引き」になり得るかを実証する実験でもある。

同社のリテールメディア部門である「アルバートソンズ・メディア・コレクティブ(Albertsons Media Collective)」もまた、将来的にはブランドパートナーがこの枠を活用できるようにすることを見据えている。

ウィリアム・ソノマ:高額商品の意思決定を支える「信頼」の構築

キッチン用品や高級家具を扱うウィリアム・ソノマの参入は、AI広告が日用品だけでなく、比較検討を要する高額商品にも有効かどうかの試金石となる。

同社のCEOであるローラ・アルバー氏は、「AIは製品発見を急速に強化しており、消費者が情報に基づいた購入決定を行う上で不可欠な要素になりつつある」と語る。

家具やインテリアは、サイズ、スタイル、素材など検討要素が多く、消費者は購入前に多くの「悩み」を抱える。

チャットGPTのような対話型AIは、こうした悩みに対する相談相手として機能しており、その「意思決定の瞬間(Decision-making moments)」に、信頼できるブランドとしてウィリアム・ソノマやポッタリー・バーン、ウエスト・エルムの商品を提示できることは極めて大きな意味を持つ。

ウィリアム・ソノマは、セールスフォースの「エージェントフォース(Agentforce)」を活用したAIエージェントの導入など、社内業務や顧客対応の効率化でもAI活用を積極的に進めており、今回の広告テストもその延長線上にある「デジタル・イノベーション」の一環と位置付けている。

彼らは、AIが提示する情報に対してユーザーが抱く「信頼」を損なわないよう、広告が文脈に沿った有益なものであることを重視している。

オープンAIの広告戦略とプライバシーへの配慮

一方、プラットフォームを提供するオープンAIにとっても、このパイロットプログラムは収益化に向けた極めて重要なステップである。

これまでサブスクリプション収入に依存してきた同社にとって、広告モデルの導入は新たな収益の柱となり得るからだ。

しかし、そこには常に「信頼」と「プライバシー」という課題がつきまとう。

 オープンAIは、この点に関して慎重な姿勢を崩していない。

表示される広告は、ユーザーのプロンプトの内容に基づいて選定されるが、ユーザーとの対話データ自体が広告主に共有されることはないと明言している。

広告主が得られるのは、インプレッション数やクリック数といった集計データのみであり、個人の会話履歴がターゲティングに利用されるわけではないという。

また、広告は「スポンサード(Sponsored)」と明確にラベル付けされ、AIが生成する回答(オーガニックな応答)とは視覚的に区別される。

さらに、ヘルスケアや政治といったセンシティブなトピックでは広告を表示しないというガードレールも設けられている。

エージェンティック・コマース時代の幕開け

今回の3社の動きは、単に「新しい広告媒体が増えた」という話では終わらない。

これは「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」、つまりAIエージェントが消費者の代理として商品を検索し、比較し、場合によっては購入まで行う時代の幕開けを示唆している。

これまでのeコマースは、消費者が自ら検索し、商品を比較するという能動的な行動を前提としていた。

しかし、AIの進化により、消費者は「来週のキャンプに必要なものをリストアップして、一番安く買える店で注文しておいて」とAIに指示するだけで済むようになるかもしれない。

その時、AIがどの商品を「推奨」するか、どの店のリンクを提示するかは、小売業者にとって死活問題となる。

今回のテストは、AIが「推奨」する商品リストの中に、いかにして自社商品を食い込ませるかという、近未来の棚割り競争の前哨戦でもあるのだ。

検索連動型広告(SEM)やSEO対策が過去のものとなり、「AEO(Answer Engine Optimization:回答エンジン最適化)」や対話型広告がマーケティングの中心になる日が近づいている。

小売業者が今すぐ取るべきアクション

ターゲット、アルバートソンズ、ウィリアム・ソノマの取り組みは、まだ初期段階のテストに過ぎない。

しかし、チャットGPTの週間アクティブユーザー数が数億人規模に達している現在、このプラットフォームを無視することは、巨大なショッピングモールの前で店を閉めているに等しい。

特に注目すべきは、ターゲットやアルバートソンズが、自社のリテールメディアネットワーク(RMN)のアセットとしてこの広告枠を活用しようとしている点だ。

これは、小売業が単なる「商品を売る場所」から、「顧客データとメディア機能を持つプラットフォーム」へと進化していることを象徴している。

メーカーやブランドにとっても、リテールメディアへの出稿が、店舗の棚だけでなく、AIのチャット画面という「デジタルの棚」をも確保することに繋がるという意味で、その重要性は増すばかりだ。

日本の小売業界において、ここまで大胆に生成AIプラットフォームと連携できるプレイヤーはまだ現れていないかもしれない。

しかし、消費者の行動変化は国境を越えて波及する。アメリカで起きている「対話型コマース」への地殻変動は、遠からず日本にも押し寄せるだろう。

その時、既存の検索広告やSNS広告にしがみついているだけでは、AIネイティブな新しい消費者層を取りこぼすことになる。

ウォルマートやアマゾンだけでなく、ターゲットや各カテゴリーのスペシャリティストアまでもがAIの領域に踏み込んだ今、小売業者はテクノロジー企業との連携を恐れず、新たな顧客接点の開拓に挑まなければならない。

これは「あちら側の話」ではなく、小売業の明日を左右する現実の脅威であり、好機なのだ。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

今回のアルバートソンズの事例で特筆すべきは、チャットGPT上での対話から「最短30分で商品が届く」という一気通貫の体験です。

これは、AIが単独で実現した魔法ではありません。すでに自社アプリや「Flash」のような即配サービスという強固な「手足」が整備されているからこそ、AIという優秀な「脳」が指令を出せるのです。

逆に言えば、ネットスーパーやアプリによるオンライン注文の仕組みを持たない小売業者が、流行りだけでAIを導入しても意味がありません。

それはまるで、電話線が繋がっていないのに最新の高性能電話機を置くようなもの、あるいはエンジンのない車に最新のカーナビを取り付けるようなものです。

目的地(買いたい物)は分かっても、車体(物流)がなければ一歩も進めません。

AIはあくまで、既存の商売を円滑にするためのインターフェースです。

もし土台となる配送網も作らずにAIを導入すれば、消費者が「今夜のカレーの材料をお願い」と頼んでも、AIは澄ました顔でこう答えるでしょう。

「素晴らしいレシピを見つけました!では、今すぐ、よそゆきに着替えて、靴を履いて、お店へ買いに行ってくださいね」と(笑)。

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