ゴールドラッシュはスマホの中に 超繁盛店の売場を素通りする流通視察の盲点

即日配送を前面に打ち出すウォルマート。店舗網を拠点に“同日・玄関先まで”を実現するこの仕組みこそ、2桁成長を続けるデジタル・ゴールドラッシュの現場である。

即日配送を前面に打ち出すウォルマート。店舗網を拠点に“同日・玄関先まで”を実現するこの仕組みこそ、2桁成長を続けるデジタル・ゴールドラッシュの現場である。

即日配送を前面に打ち出すウォルマート。店舗網を拠点に“同日・玄関先まで”を実現するこの仕組みこそ、2桁成長を続けるデジタル・ゴールドラッシュの現場である。

ゴールドラッシュの本質は金ではない
カリフォルニアのゴールドラッシュは1848年1月24日、北部のコロマ(Coloma)にあるサッターズミル(Sutter's Mill)で始まった。
水路を点検していたジェームズ・ウィルソン・マーシャル(James Wilson Marshall)が川底の金を見つけたことで、人々は一攫千金を夢見て殺到した。
しかし歴史が示す「勝者」は、必ずしも金鉱の採掘者ではない。採掘者にツルハシやスコップ、作業着、生活必需品を売った側が、安定して大きく儲けた。
丈夫な作業着を求める需要からデニムを売り、象徴になったのがリーバイス(Levi's)である。
要するに、金が見つかったときに狙うべきは金そのものではなく、金脈の周辺でスケールする「道具」と「仕組み」である。
いま起きている新しいゴールドラッシュはウォルマートのデジタルである
いま、同じ構図のゴールドラッシュが起きている。舞台はウォルマートのEコマースである。最新の決算(2026年1月31日通期)で、ウォルマートの総売上高は7,131.63億ドル(約110.1兆円)に達した。
前年から4.7%伸び、四半期(11月~1月)だけでも総売上高は1,906.56億ドル(約29.4兆円)である。
そして決定的なのは、デジタルが「売上の脇役」ではなく、全社の売上構成でEコマース比率が23%に達した点だ。
単純計算でもEコマースは1,640.27億ドル(約25.3兆円)規模へ拡大したことになる。
ウォルマートUSでは四半期のEコマース売上が前年同期比27%増と加速し、ピックアップと宅配、広告、マーケットプレイスが伸びを牽引している。
ウォルマートが盤面の四隅を取った理由は食品と店舗網である
アマゾンとウォルマートのネット事業は同じ「通販」でも重心が違う。
ウォルマートは日々の買い物の中心である食品、とりわけ生鮮を含む食の購買頻度を握っている。しかも4,000店超の店舗網が、そのまま配送拠点として機能する。
その結果、店舗起点の即日配送は米国家庭の93%まで到達した。さらに「3時間以内」を95%へ広げる野心的な目標も掲げている。
この状態は、Eコマース競争をオセロに例えれば、ウォルマートが最初から盤面の四隅を押さえたようなものだ。
家電やアパレルはネットで売れる。だが「毎日必要な食品」を、しかも速さと確実性で押さえられると、顧客の生活動線そのものが固定される。
金鉱の採掘ではなくツルハシを売る場所がマーケットプレイスと広告である
ここで重要なのは、ウォルマートが「採掘会社」で終わっていない点である。
ゴールドラッシュの勝ち筋は、サプライヤーに回ることだ。いまのウォルマートで言えば、マーケットプレイスと広告がそれに当たる。
四半期のハイライトとして、ウォルマートUSの広告事業であるウォルマート・コネクト(Walmart Connect)が、VIZIOを除いて41%増と強烈に伸びた。
つまりウォルマートは、Eコマースの伸びそのものに加え、出品者やブランドが「露出」を買うことで収益を積み上げる構造を完成させつつある。
採掘者が増えるほど、ツルハシが売れる。これがデジタルの飛車角である。
新CEO体制はデジタルの収穫期を加速させる
2026年2月1日から、ウォルマートはジョン・ファーナー(John Furner)新CEO体制に入った。
直近決算でも、ウォルマートUSの既存店売上は4.6%増、オンライン売上は27%増と、デジタルが成長の中心に座っている。
さらにウォルマートはAIを、実験ではなく売上拡大の道具として使い始めている。
アプリ内のAIチャットボットであるスパーキー(Sparky)は、利用者の注文金額が平均より35%大きいとされ、顧客の探索行動そのものを変えつつある。
そしてオープンAIやグーグルとの連携も進め、検索や発見の入口を広げる構えだ。
日本でこの熱狂が見えにくい「構造的な盲点」
興味深いのは、ウォルマートのデジタルがここまでゴールドラッシュ化しているにもかかわらず、日本では体感ベースで語れる人が極端に少ないことだ。理由は単なる情報不足ではない。
第一に、アプリ体験の「継続」が困難である。短期滞在者は登録・決済・住所の壁にぶつかりサインアップができない。サインインできたとしても一度きりになりがちだ。
ウォルマートの強みは、買い物回数が増えるほど精度が上がるパーソナライズと、配送体験の反復にある。
単発の体験では金脈の深さが見えない。
第二に、視察の設計そのものが旧来型である。参加人数が20人以上と多いほどスマホ体験は皆無で、結果として「店を見た」で終わる。
だが、いま伸びているのは店舗の裏にあるアプリと配送網と広告の回転である。これを触れない視察は、金鉱を遠目に眺めて帰るのと同じだ。
当社ワークショップが狙うのは採掘ではなく周辺ビジネスの発想である
当社の米国流通DXワークショップは、ウォルマートのゴールドラッシュを「採掘者として参加する」ためではなく、ツルハシを売る側、すなわち周辺ビジネスの発想を獲得するために設計している。
Eコマース比率が20%以上へ到達し、広告が40%超で伸び、即日配送が93%まで広がる世界では、伸びるのは小売だけではない。
物流、決済、広告運用、商品開発、データ活用、店舗オペレーションの自動化など、金脈の周辺に無数の「儲かる仕事」が生まれる。
ウォルマートのデジタルを体感し、どこにツルハシが必要になるかを先回りして考えることが、次の事業機会を最短距離で引き寄せる。
愚か者にならないために
ゴールドラッシュの時代から変わらない教訓がある。金の話に熱狂している間に、誰かが黙ってショベルとテントを売っている。いまのウォルマートのデジタルでも同じである。
採掘者の物語に酔うな。金鉱を支配するのは、採掘の周辺を仕組みに変え、繰り返し収益が入る場所を握った者である。
当ブログの読者には、金を掘る夢だけを見て、ツルハシを売る現実を見落としてほしくないのである。

ウォルマートUSのEコマースは2023年度以降、各四半期で2桁成長を維持し、2026年度には最大28%増を記録。店舗網を活用した即日配送とネットスーパーが、持続的なデジタル成長を牽引している。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!
上のグラフをご覧ください。ウォルマートUSのEコマースは、2年どころか複数年にわたって20%以上の成長を続けています。
これをリアル店舗に喩えるなら、既存店で2年連続20%増収を叩き出している“超・繁盛店”です。もし日本にそんな店があれば、流通視察に行って売場を素通りする人はいないはずです。
バックヤードを見て、オペレーションを観察し、レジの回転率までチェックするでしょう。
ところがアメリカ視察では、ウォルマートの「もう一つの売場」であるアプリ上のネットスーパーを体験せずに帰国するケースがほとんどです。
リアルの陳列や棚割り、価格表示を見て満足し、最も成長している“バーチャル売場”には一切触れない。これは、繁盛店に行って厨房にも入らず、看板だけ見て帰るのと同じです。
いま売上を押し上げているのは、スマホの中にある売場です。それを体験しない視察は、金鉱の前でスコップを買わずに帰るようなもの。
視察というより、ただの観光になっていませんか?
……大人気のカレー屋に行って、白米だけ食べて帰る人はいませんよね?でもなぜか、米国流通視察では(カレー屋でカレー食べずに)ご飯だけ食べておいしかったとなるのです...
最終更新日:
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