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ィスカウントスーパーのアルディに設置されたセルフレジ。上部のモニターには自身の顔と共に「監視中(MONITORING IN PROGRESS)」という赤字の警告が大きく表示され、利用者を常に録画・監視していることがわかる。異常なまでに深刻化する万引き被害に対し、小売業側もAIカメラなどのテクノロジーを駆使して必死の防衛策を講じているが、限界に達した現場の疲弊を背景に、ついに自治体による厳しい運用規制という強硬手段が発動される事態となっている。

セルフレジ終焉の始まり? アメリカで広がるセルフレジ規制条例、万引き急増の果てに大手チェーンが直面する地獄の現実

ィスカウントスーパーのアルディに設置されたセルフレジ。上部のモニターには自身の顔と共に「監視中(MONITORING IN PROGRESS)」という赤字の警告が大きく表示され、利用者を常に録画・監視していることがわかる。異常なまでに深刻化する万引き被害に対し、小売業側もAIカメラなどのテクノロジーを駆使して必死の防衛策を講じているが、限界に達した現場の疲弊を背景に、ついに自治体による厳しい運用規制という強硬手段が発動される事態となっている。

在米28年のアメリカン流通コンサルタント
激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

アメリカの小売業界において、かつて人手不足を救う魔法の杖としてもてはやされたセルフレジが、今やかつてないほどの激しい逆風にさらされている。

カリフォルニア州オレンジ郡に位置するコスタメサ市(Costa Mesa)の市議会は、小売店におけるセルフレジの運用を厳しく規制する条例を賛成多数で可決した。

この条例は、昨年の夏に同州ロングビーチ市(Long Beach)で施行された同様の規制に追随するものであり、アメリカの小売業界に極めて大きな波紋を広げている。

セルフレジの急速な普及がもたらした万引きの劇的な増加と、現場で働く従業員の耐え難い負担増という厳しい現実が、ついに自治体による法的な介入という形で表面化したのである。

安全な店舗はスタッフがいる店舗という新たなルール

コスタメサ市が新たに導入する条例は、「安全な店舗はスタッフがいる店舗(Safe Stores are Staffed Stores)」と名付けられており、4月中旬から下旬にかけて施行される予定である。

対象となるのは、売り場面積が15000平方フィート(420坪)を超える食品スーパーや、セルフレジを設置しているすべてのドラッグストアである。

この条例の核心は、セルフレジ3台につき最低1人の専任従業員を配置することを義務付けている点にある。

さらに、セルフレジで精算できる品数を15点以内に制限することや、セルフレジを稼働させる前に少なくとも1つの有人レジを常に開けておかなければならないという厳しい規定も盛り込まれている。

もしこの人員配置基準を満たせない場合、店舗には不足する従業員1人につき1日100ドル(約15000円)、最大で1日1000ドル(約150000円)の罰金が容赦なく科されることになる。

この動きは先行するロングビーチ市の条例をモデルにしているが、ロングビーチ市ではセルフレジ2台につき1人の従業員配置を求め、さらにアルコールなどの年齢制限がある商品や、防犯のために施錠された商品のセルフレジでの購入を全面的に禁止するなど、より厳格な内容となっている。

コスタメサ市内にある約20のスーパーやドラッグストアがこの新たなルールの影響を受けると見込まれている。

過酷な労働環境に悲鳴を上げる現場の従業員たち

この厳しい規制を強く後押ししたのは、全米食品商業労働組合(United Food and Commercial Workers: UFCW)のローカル324(Local 324)である。

彼らは、小売チェーンが人件費削減を最優先してセルフレジを乱発した結果、現場の従業員の負担が限界をはるかに超えていると切実に訴え続けてきた。

市議会で証言に立ったボンズの従業員であるマリアさんは、1人で同時に多数のセルフレジを監視しながら、鳴り響く電話に応対し、散乱するショッピングカートを整理し、さらには防犯キャビネットから商品を取り出すなど、実に13もの業務を同時にこなさなければならない過酷な現状を涙ながらに語った。

顧客がトラブルで助けを求めてもすぐに対応できない状況は、顧客の不満を増幅させるだけでなく、従業員にとって極めてストレスフルであり、敵対的で危険な労働環境を生み出しているのだ。

労働組合のホセ・ペレス会長は、この条例の可決を労働者と顧客の双方にとっての偉大な勝利であると高く評価し、他の都市でも同様の法案が続くことを期待していると述べている。

業界団体の猛反発とセルフレジ完全閉鎖のドミノ現象

一方で、小売業界側はこの条例に対して激しい怒りとともに対立姿勢を鮮明にしている。カリフォルニア・グローサーズ・アソシエーション(California Grocers Association)は、この規制が万引き防止にはまったく役立たないと強く反論している。

なぜなら、企業のポリシーにより従業員は窃盗事件に直接介入して犯人を捕まえることを固く禁じられているからだ。

彼らは、この条例が安全対策というもっともらしい名目を借りた労働組合の雇用確保策に過ぎず、行政による店舗運営への過剰な介入であると非難している。

結果として店舗の運営コストを著しく押し上げ、最終的には消費者が支払う食料品価格の高騰という形で跳ね返ってくると警告している。

市議会内でも意見は激しく対立した。反対派のマイク・ブーリー市議は、この条例が「問題を探しているような解決策」であり、市がビジネスに対して敵対的であることを世間に宣伝しているようなものだと痛烈に批判した。

また、ジェフ・ペティス市議は、ロングビーチ市で独自に調査した結果、90パーセントの人がこの規制を嫌悪しており、有人レジを維持するためにセルフレジが閉鎖され、顧客が別の街のスーパーに逃げている実態を指摘した。

実際に、先行して規制を導入したロングビーチ市では、アルバートソンズや同社が運営するボンズの複数の店舗で、罰金や厳しい人員配置基準によるコスト増を避けるため、セルフレジそのものを完全に閉鎖するという思い切った事態に発展している。

コスタメサ市においても、規制に従うよりもセルフレジを撤去する道を選ぶ小売業者が続出する可能性は極めて高い。

万引きの日常化と富裕層のモラルハザード

セルフレジに対する規制論争の根底にあるのは、全米で制御不能なレベルにまで深刻化している万引き問題である。

金融情報サービスのレンディングツリー(LendingTree)が発表した最新の調査結果は、アメリカのセルフレジにおける倫理崩壊の恐るべき現状を容赦なく浮き彫りにしている。

驚くべきことに、セルフレジ利用者の27%が、意図的に商品をスキャンせずに持ち去った経験があると明確に回答しているのだ

この数字はわずか2年前の15%から劇的に跳ね上がっており、もはや一部の犯罪者ではなく、一般市民による万引きが日常化していることを示している。

世代別に見ると、ミレニアル世代の41%、Z世代の37%が意図的な万引きを経験しており、男性の万引き率は女性の倍以上となっている。

さらに衝撃的なのは、最も万引きに手を染めているのが生活に困窮している貧困層ではなく、世帯収入10万ドル(約1500万円)以上の富裕層であるという絶望的な事実だ

彼らの実に40%が意図的な万引きを認めている。彼らは「セルフレジは店のために自分が無償で働かされているようなものだ」「巨大なチェーン店にとってこれくらいの損失は微々たるものだ」と自己中心的に正当化し、高価な電子機器ではなく、パンや水、医薬品といった日々の生活必需品を堂々と盗んでいるのだ。

また、うっかりスキャンし忘れたと気付いた人のうち、実に61%がそのまま商品をネコババしたと回答している。

盗んだ経験がある人の55%が「またやる」と答えており、彼らに罪悪感や倫理観は微塵も残っていない。

大手小売業のテクノロジーによる対抗と限界

こうした空前の万引き被害に対し、ウォルマートやターゲットなどの大手小売業もただ黙って見ているわけではない。

ウォルマートは毎年およそ30億ドル(約4500億円)もの巨額の損失を万引きによって被っていると推計されており、レシートチェックの強化や防犯カメラの増設、さらには被害の多い商品をガラスケースに施錠するなどの厳格な防犯対策を次々と導入している。

ターゲットも、セルフレジを10品目以下専用の特急レーンに変更し、全米2000店舗に拡大する措置をとっている。

最近フロリダ州のウォルマートで起きた事件では、テクノロジーを駆使した「フリーズ戦術」が注目を集めた。

セルフレジで一部の商品だけをスキャンして残りをそのまま袋に入れる「スキップスキャン(skip-scan)」と呼ばれる手口を使っていた男に対し、監視していた従業員が遠隔操作でセルフレジの画面を強制的にフリーズ(一時停止)させたのだ。

男は機械の不具合を装ってそのまま店を出ようとしたが、即座に資産保護部門のスタッフに捕まり、警察に引き渡された。

ウォルマートではこうした遠隔操作による介入を意図的に行い、万引き犯をあぶり出しているのだ。

過去には、古い電池のバーコードを貼り付けて高額商品をたった1ドル(約150円)で決済しようとした客や、量り売りのバナナのバーコードを使って80ドル(約12000円)分の食料品を盗もうとした「バナナトリック(banana trick)」など、手口は年々巧妙化している。

しかし、従業員が常に監視の目を光らせ、遠隔操作でレジを止め、さらには逆上するかもしれない客の対応をするという事態そのものが、従業員にさらなる心理的・物理的な重圧を強いているのが現実である。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です!

セルフレジを巡る動向が、ついに行政による運用規制という全く新しいフェーズに突入しました。

カリフォルニア州コスタメサ市で可決された条例は、小売業にとって受け入れがたい非常に厳しい内容です。

セルフレジ3台につき1人の専任スタッフを配置するということは、人件費削減というセルフレジ導入の最大の目的を根底から完全に覆すものです。

すでにロングビーチ市では、アルバートソンズやボンズがコスト増を嫌ってセルフレジの閉鎖に追い込まれていますが、この行政による介入の流れがカリフォルニア州全域、さらには全米の他の都市へとドミノ倒しのように波及していく可能性は極めて高いと言えます。

背景にあるのは、もはや社会問題を超えて「現代アメリカの病理」とも言える万引きの異常な日常化です。

レンディングツリーの調査が残酷なまでに示しているように、アメリカでは4人に1人がセルフレジで万引きをしており、しかも高所得者層ほどその傾向が強いという地獄のような現実が広がっています。

お金持ちは「欲しいけど買えない」から盗むのではなく、「買えるけど払うのが馬鹿らしい」からレジをすり抜けているのです。

彼らは自分の万引きを犯罪ではなく、企業に対する無償労働への当然の対価であると本気で勘違いしています。

ウォルマートなどの巨大企業は、遠隔からレジを止める「フリーズ戦術」やAIを搭載した監視カメラなどで必死に対抗していますが、結局のところ、機械システムの隙間を突こうとする人間の悪意との終わりのないいたちごっこに過ぎません。

現場で働く従業員に「万引き犯を監視し捕まえる警察官」のような危険な役割まで期待するのはどう考えても酷であり、それが労働組合の強い反発を招き、今回の条例可決という実力行使につながったのは必然の流れと言えます。

日本の小売業も、このアメリカの惨状を決して対岸の火事として見過ごすわけにはいきません。

日本でも食品スーパーやコンビニ、ドラッグストアでセルフレジの導入が急速に進んでいますが、物価高による経済的なプレッシャーがさらに高まれば、「少しならバレないだろう」と魔が差す人が増えるリスクは常に潜んでいます。

効率化と人件費削減ばかりを近視眼的に追求し、現場の「人の目」を極端に減らせば、いずれアメリカと同じように深刻なモラルハザードの温床となることは火を見るより明らかです。

アメリカの最新動向は、テクノロジーによる無人化が万能の解決策ではないことを如実に物語っています。

今後の小売業は、デジタルによる効率化と、有人レジを含めたスタッフの適切な人員配置というアナログな安心感のバランスを、店舗の立地や客層に合わせて最適化していく高度で柔軟なマネジメントが強く求められることになります。

行き過ぎた効率化のツケがどのように回ってくるのか、コスタメサ市の決断は、私たちに非常に多くの重い教訓を与えてくれています。

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