早川千絵監督の最新作「ルノワール」では、監督が構想初期からリリーさんを思い描いていたという主人公フキの父 圭司を演じた。まずは1人の映画好きとして、同作に対する感想から。
「ヨーロッパではままありますが、意外と日本でこういった少女の思春期を描いた映画は少ないというか。家族に対する想いや死生観、性の目覚めといったものがすごく瑞々しく描かれていて。フキ役の鈴木唯さん(撮影当時11歳)も、あの年齢になると“子役”とも少し違って、彼女自身が俳優としての自我をちゃんと持っている。そういう時期の役者が演じることで、大人でもなければ子どもでもなく、男性や女性の境目も曖昧な、“生き物として不安定な時期”の人間の危ういうつろいが映像にすごくよく現れていると思います」。
撮影中、役者としても「いい映画になる」と確信した瞬間があったそう。
「豪華客船に乗っているシーンや、圭司(リリー・フランキー)が道に迷ったフキを迎えに行くシーンなど、フキの中にあるファンタジーの部分と生々しい現実が入り組んでいるところですね。そしてこうした要素には早川さんの原体験が大きく影響している。作り手の私小説的なものってすごく生々しい。父親と2人で手を繋いで土手を歩いている時、自転車に乗った同級生が通りかかった瞬間に手を離して他人のフリをするとか、そういう小さな思春期のディテールに現れていると思います。そして、子どもの「死」に対する感覚というか、自分が不幸な立場になっていることに対するヒロイン願望のような普遍的な感情を描いている。1980年代という少し前の時代を舞台にしたある種“時代劇”的な作品ですが、ご覧になった皆さんがそれに気がつくのには時間がかかるんじゃないでしょうか」。