「made and seek」と札幌定点観測を振り返る
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年齢や職業、ジェンダーなど、様々なボーダーを超えて楽しむ体験型のエキシビション「made and seek」。イベント期間中に札幌パルコに訪れる人々を定点観測してみた。
2030年開催予定の冬季五輪招致を見据えた大規模な再開発が続く札幌。長年にわたり街を彩ってきた大型商業施設が昨年から閉店ラッシュで、「4丁目プラザ」(2022年1月)、「パセオ」(2022年9月)、「ピヴォ」(2023年5月)、「エスタ」(2023年8月末)などが相次いでクローズし、建て替えに入った。また、つい先日の7月20日には都市型水族館が入る「モユクサッポロ」がオープンするなど、商業施設の世代交代が進んでいる。
札幌のカルチャーシーンも進化中
北海道ゆかりのアーティストが集結したエキシビション「made and seek」とは?
行政やディベロッパー主導の再開発という大きな物語が展開される裏で、カルチャーの新しい潮流も生まれ始めているようだ。以前取材させていただいた札幌の多目的空間「ie(イエ)」のオーナー・和田典子さん(34)から、「made and seek(メイドアンドシーク)」というアートのイベントを札幌パルコで開催することになったという報せをいただいたのは、3月の楽天ファッションウィークが始まる直前のことだった。
「made and seek」というタイトルは、‟hide and seek(=かくれんぼ)”からの造語だという。北海道出身、あるいは北海道を拠点に活動している23組のアーティストの作品が札幌パルコ館内のいたるところに設置されており、まるでかくれんぼのように、パンフレット片手にそれらを探索するという仕掛けだ。展示される作品は、立体、インスタレーション、写真、映像、サウンド、イラストレーションなど、多岐にわたっている(出展者については公式インスタグラム参照)。
和田さんに話を持ちかけたのは、札幌パルコの営業担当である香坂大悟さん(25)と小林良之介さん(28)だ。
「2020年から渋谷パルコで開催されているアートイベント『P.O.N.D.』に刺激を受け、札幌パルコでもトライしたいと思ったんです。もともと大通や札幌駅周辺でアート作品を展示・発表できる場自体がかなり少ないと感じており、パルコを舞台に情報発信してもらえたらいいなというのがアイディアのきっかけでした」(香坂さん)。
「ie」がオープンして間もない頃から通っていたという香坂さん。当初は館内の6か所で6組程度のアーティストが参加する規模感を想定していたが、「札幌でアートのイベントをやりたい」という彼の情熱に共感した和田さんが、23組のアーティストの展示、さらにはギャラリーショップも設営するなど、さらに大規模な企画にしたいと逆提案したのだという。
「多くのお客さまがパンフレットを片手に館内を巡っていた光景が印象的でした。買い物以外の来店動機を作る施策を打ち出せたことはとてもプラスになったし、若手作家さんの情報発信の一助になっていたら幸いですね。街場からの反響もかなり多くて、若い世代を中心に大きな支持を得られました」(小林さん)。
その言葉のとおり、来場者は取材中も後を絶たず、7階のギャラリーショップに置かれた無料のノベルティは用意した1,000個が期間中にすべてなくなったほど。
「参加作家の1人が、『こういうのをずっとやってほしかった』と言ってくれたのも嬉しかったです。全作品を探しきれなかったからと何度も見に来てくれた人もいましたし、何より札幌パルコにふらっと立ち寄るお客さんの多さに驚きました。あらためて、立地的にもいろいろな方にとって窓口になる場所なんだなと。アートは敷居の高いものと思われがちですが、間口が広がっていく可能性を感じました。アートやもファッションに触れ合う場所や機会が札幌に増えていくことを願っています」(和田さん) 。
定点観測@札幌を実施
東京ブランドの人気は想像以上だった!
そして実は今回の取材にあたり、イベント期間中のパルコを訪れる人にも焦点を当て、札幌のリアルな空気感を知るために「定点観測」を行ないたいと和田さんからご提案いただいた。実施したのは、2023年3月25~26日の2日間。前日までは春らしい気候だった札幌だが、なんと観測日初日には小雪が舞うほどの冷え込みで、到着早々北海道の洗礼を浴びた。寒さのためか地上の通りはやや閑散としていたが、そんなあいにくの気候にもかかわらず、生まれも育ちも札幌という人から札幌市外在住の人、さらに東京からUターンしてきた人や、たまたま当日帰省中だった人など、計11名の多様な人に話を聞くことができた。
インタビューを通して特に印象的だったのは、思っていた以上に日本のデザイナーズブランドが人気だったという点。通常の「定点観測」でも毎月のように街で見られるMaison MIHARA YASUHIRO(メゾンミハラヤスヒロ)やgrounds(グラウンズ)をはじめ、DAIRIKU(ダイリク)やTAAKK(ターク)、SHINYA KOZUKA(シンヤコヅカ)、JieDa(ジエダ)、DISCOVERED(ディスカバード)といったブランドの名が次々と挙がった。男性の方がデザイナーズブランドの着用者が多い傾向は、東京とも共通している。また、北海道内のみに6店舗(系列を含めると8店展舗)を展開しているMELANGE(メラーンジュ)というブランドのジャケットとスカートを着用する女性がいたのも札幌ならではというところ。
札幌のなかでも特に狸小路エリアにはユニークなカルチャーの匂いが感じられる。ZINEや写真集を販売するスタンド「MARFA」が併設された油そば屋&バー「米風亭アマノ」や、日本茶スタンド兼MASU(エムエーエスユー)やSHINYA KOZUKAなどを取り扱うセレクトショップ「蒼氓/SOBO」、CFCL(シーエフシーエル)やdoublet(ダブレット)など国内外のブランドを多数取り扱うセレクトショップ「Modest(モデスト)」、札幌を代表する老舗の古着屋「HIGHPOSITION(ハイポジション)」がインタビューで挙がった。
登山やサーフィン、スノーボードなど、アウトドア系の趣味を持っている人も目立った。夏には庭師・冬には保育士として働くという、雪深い地域ならではのライフスタイルに出会えたのも新鮮だった。
「札幌にはストリートスナップが少なく、5年前、10年前に札幌に住んでいた人がどのような装いをしていたのかを知る術がほとんどないんです。これは札幌に限ったことではないと思うのですが...。いまの札幌の人たちが何を考え、何を着ているのかを残していくことは、札幌の財産になっていくのではないかと思います」という和田さんの言葉に、街と人を定点観測し続けることの価値を再認識させられた。
渋谷や日本橋といったエリアは言わずもがな、中野や十条、そして札幌、仙台、広島といった地方の中核都市など、規模の大小はあれど、あらゆる街に再開発の波は押し寄せている。あっという間に街並みがドラスティックに変容する(してしまう)現代にこそ、あらためて「定点観測」が有効な処方箋となりうるのではないだろうか。
【取材・文:大西智裕(『ACROSS』編集室)/インタビュースナップ撮影:辻悠斗、大西智裕】
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