アパレルの販売員は、店頭でコーディネートのアドバイスや、おすすめ商品を紹介するなど、お客様との密なコミュニケーションによりブランドのファンを獲得します。しかし、時代が進む中でその関係性も多様化。近年では積極的な接客をしないことで、お客様との適切な距離感を保つといった傾向が見受けられます。本記事では時代とともに変化する販売員とお客様の関係について解説します。
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目次
カリスマ販売員が誕生した1990年代
平成初期の日本は、バブル崩壊による経済への打撃がありましたが、アパレル業界は目立って勢いの衰えがなく、依然として売り手側主導でトレンドが牽引されていました。そんな中でひときわ存在感を放っていたのが、ブランド店舗で月に数千万〜億単位という金額を売り上げるカリスマ店員。特に渋谷109を中心とするギャルファッションでは、「EGOIST」の森本容子を筆頭に、多くの店員が注目を集めるようになりました。タレント性も兼ね備えていた彼女たちは、雑誌やテレビなど、さまざまなメディアに登場し、情報を発信。2000年代以降も続くギャル文化の基礎を作ったともいえるでしょう。
「笑顔」は不要?裏原系ブームの2000年代
2000年代初期にはグッドイナフ、ア ベイシング エイプ、ナンバーナインなどのストリートブランドが「裏原系」というジャンルで紹介されるようになり、若者の指示を獲得。渋谷のキャットストリートや原宿にあるブランドショップからは軒並み商品が消えてなくなるほど人気の高まり見せました。裏原系ブランドの販売員は、業態化されたショップの店員というよりも「ストリートカルチャーのメンバーの一人」というスタンスで店頭に立っていることが多く、お客様に対して積極的に接客することがほとんどありません。話かけられることを期待した場合には拍子抜けしてしまいますが、店に通い詰めるうちに気心知れるようになり、仲間意識が芽生えるという、ショップ店員とお客様の新しい関係性を作ったのも裏原系の特徴です。
カリスマ販売員からインフルエンサーへ
インターネットが普及し、FacebookやInstagram、X(旧 Twitter)などSNSが日常生活に深く入り込むようになると、販売員とお客様の関係性に、また新たな変化が訪れます。アパレル業界ではInstagramの利用頻度が高く、視覚にダイレクトに訴えかけることによる宣伝効果は絶大。アパレル業界の広告戦略に大きな変化をもたらし、熟練のマーチャンダイザーが予測できないほど大きな売上をもたらすことも珍しくありません。人気販売員がおすすめ商品を着用した画像をアップすれば、同じ商品を求めるお客様が実店舗やネット店舗に殺到。コーディネートを提案し、モデルも兼ねる販売員は、ネット以前の時代にはカリスマ店員と呼ばれていましたが、現在ではインフルエンサーという肩書きで大きな影響力を持つようになっています。
ラグジュアリーブランドでは引き続き「おもてなし」が主流
ラグジュアリーブランドは、流行や時代の影響を受けにくく、「販売員はお客様に最高のおもてなしを提供する」という考え方が現在も主流です。しかし、このおもてなしの概念は情報化が進む中で変化。幅広く揃えた商品ラインナップを提供するスタイルから、いかに個人の趣味嗜好・感性に沿った提案ができるかという、パーソナライズ化の方向へとシフトしています。それに加え、従来からの必須項目である豊富な商品知識、語学やさまざまなカルチャーに精通する教養などを備えることでブランドの価値を高めます。ラグジュアリーブランドでは世代を越えてお客様との付き合いを継続するケースも多いため、革新性を取り入れる一方、伝統的な接客も常に必要とされます。
カジュアルブランドでは接客しすぎない接客へ
ファストファッションの店舗やカジュアル系のセレクトショップでは自分のペースで服を選びたいお客様が多く、ブランドによっては「声掛け不要」の意志を示すバッグを導入するなど、接客をしない店舗運営が盛んになっています。このスタイルでは必要なときだけ接客してもらうことにより、販売員・お客様が、それぞれストレスフリーな状態でショッピングや作業に集中することができます。電子マネーの普及により、ユニクロなど大規模ブランドでは決済のセルフ化も増加。こういった取り組みにより、カジュアル系ブランドやファストファッションに対するお客様の満足度は飛躍的に向上しています。ただ、このスタイルの場合、接客のタイミングはお客様次第となるため、販売員には、声がかかればすぐ対応できるだけのスキルが求められます。
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