純白のカーペット、整然と並んだ白い椅子、白い薔薇の花。どこまでも清らかなランウェイで、「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」のショーが行われた。生前のオオスミタケシ氏と吉井雄一氏がともにデザインした最後のコレクション。その舞台裏にはどんなドラマがあったのか。ショーのバックステージに密着した。
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オオスミ氏の四十九日を迎えた4日後の2021年3月17日。吉井氏の姿は、渋谷ヒカリエのヒカリエホールにあった。演出を手掛けるVISIONS AND PARADOX代表の籠谷友近氏をはじめとする約150人のスタッフが設営と準備を進める様子を、静かに見守っている。
オオスミ氏が亡くなったのは1月24日の早朝。あまりにも突然で、そして47歳という早すぎる死だった。昨年末から怪我で入院していたというが、吉井氏とコミュニケーションをとりながら病室でミスター・ジェントルマンの制作を進め、1月下旬には2021-22年秋冬コレクションのデザイン出しが完了。サンプルチェックの段階まで進んでいたという。
バックステージに運び込まれた白い薔薇。担当したのはフローリストの越智康貴氏で、数百本はあろうかという薔薇を一本一本、瑞々しい状態を保ちながら丁寧に剪定していく。
起用したモデルは、ブランドとして過去最大の40人。ヘアメイク、フィッティングと、順調に準備が進む。いつも通りの風景ではあるが、人と人との距離を保ったバックステージは、スタッフ同士が時折り談笑しながらも、どこか落ち着いた雰囲気だ。
リハーサルが始まった。吉井氏はモデルのウォーキングを見つめながら、スタイリングをチェックする。いつもオオスミ氏が座っていた場所に、笑顔の写真を置いて。
どんなショーにしたいかを吉井氏に尋ねると、穏やかな表情でこう答えた。
「ショーはあくまでも新作発表の場だから、あまり特別なことはやらないんです。いつも通りやってくれと言われているような気がしているので」
ウォーキングの指導では、中心線からずれてしまうモデルと、それをレクチャーするスタッフに対して、籠谷氏から厳しい注意が飛ぶ場面も。一本のショーという作品を完成させるため、全スタッフの熱意がランウェイに集中し、徐々に緊張感が高まっていった。
ショーのスタート30分前。バックステージで最終調整が進む中、ホール入り口のドアが開いた。招待客が検温や消毒を済ませて続々と来場する。
ドレスコードはブラックカジュアル。ブランドを初期から見ているジャーナリスト、ファッションや音楽を通じた仲間、オオスミ氏と吉井氏の知人など、ブランドと関係の深い200人ほどが集った。
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