健やかで美しい皮膚を保つためのライフスタイルをデザインするスキンケアブランド「オサジ(OSAJI)」。敏感肌でも使えるスキンケアとメイクアップアイテムのほか、ネイルやボディ&ヘアケア、フレグランスなど、ラインナップは多岐にわたる。コロナ禍、そしてコロナを経ても継続的な成長を見せるオサジはこのほど、丸紅を引受先とした第三者割当増資を実施。ユーザーの声を即座に吸収し、創意工夫で人気商品を生み出してきたオサジが、なぜ丸紅となぜタッグを組み、どんなシナジーがあるのか。国内市場の拡大および海外進出といったビジネス目線での加速はもちろん、OSAJI代表取締役社長の茂田正和氏が目指すのは「オサジをオーセンティックなブランドとして確立すること」。そこには、視覚障害者との売り場の架け橋となる化粧指導員の輩出や、自国の化粧品原料の自給率向上など、ブランドビジネスに留まらない、ブランド価値の創出といった熱い思いが秘められていた。
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「たかが肌、されど肌」で健やかな肌を保つことがQOL向上につながる
ーオサジが2017年に誕生してから6年が経ちました。改めて、ブランドの成り立ちを教えてください。
一番最初に僕が化粧品に興味を持つようになったのは母の影響です。交通事故に遭い、その精神的なストレスによって皮膚疾患を発症してしまったんです。元々化粧品が大好きで、加えて自然志向が強かったので、「食べても大丈夫」と謳われているような無添加の化粧品を厳選して使っていましたが、どうしても肌荒れが起きてしまう。“安心・安全”と思っていた自然派の化粧品でも、ダメージを受けた状態の肌には合わないこともあるという事象に、純粋に疑問を抱いて…。それで皮膚科学やスキンケアのことを勉強するようになったのです。大体それが2001年ごろの話で、最初はキッチンで化粧品を自作するところから試してみました。
皮膚科学とスキンケア作りにのめり込んでいく中で、世の中に必要な化粧品って「肌を本来の健やかな状態に導く」ものなんじゃないかと考えるようになりました。同時に、敏感肌やダメージを受けた肌の方々で、「肌に合う化粧品が見つからず、何を使ったら良いか分からない」という声が予想よりもはるかに多いことを知りました。そうしていくうちに、徐々にオサジのフィロソフィーというか、今も変わらないコアの部分が明確になっていって、2017年にブランドという形で世に出すことになったんです。
ー肌荒れやダメージがある時は、気分も落ち込んでしまいますよね...。
初めは全くスキンケアについて知らなかった僕のような男性からすると、「たかが肌」と思うかもしれません。でも、「されど肌」ですし、普段からスキンケアやメイクを楽しんでいればいるほど、いつも通りにできなくなることは、大きなストレスになってしまう。健やかな肌を保つことが精神的な充足感やQOLの向上につながるっていうのは、まったく大げさなことではないし、オサジはそこに寄り添えるブランドでありたいと思っています。そういう意味で、私たちは「敏感肌向け」ではなく「敏感肌でも使える」ことを重要視しています。
ー化粧品市場には「敏感肌向けブランド」は多数ありますが、その中でオサジの特徴をどう捉えていますか?
ありきたりかもしれませんが、「お客さまに寄り添う力」だと思います。肌悩みにピンポイントでアプローチする商品はたくさんある中で、僕らのようなブランドはセミセルフやドラッグストアのような業態では少し分かりにくい部分もあるかもしれません。でも、そこを店頭のスタッフたちが本当にていねいに伝えてくれている。ブランド顧客のピラミッドを作るとしたら、トップにいるのがスタッフ。入社前からオサジを知っていて、今度は私が伝えたいって熱意のある子ばかりなので、店頭でお客さまから「こういう悩みがあって」と聞くととことん付き合う。売り場からの声で、「こういう商品って作れないですか?」「こんなトラブルを抱えている方が多いです」っていう意見もたくさん上がってくる。お客さまとの距離が近いことは、スタッフたちと共に築き上げてきたブランドの価値だと思います。
ーブランドが軌道に乗ったターニングポイントは何でしょうか。
いくつかありますが、まずはヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんとのコラボや、「ほぼ日」さんでの販売ですね。少しずつ、そういった方々からお声がけをいただいたことで、多くのお客さまと出会う機会になりました。草場さんとのコラボは、昔一緒にお仕事をさせていただいた縁から実現したのですが、どんなものを作ったら良いか、リアルに欲しいものは何かを熱心に相談してくださいました。そういう熱量が、お客さまにも少しずつ伝わったのだと思います。その後は、コロナで化粧品業界の潮流に変化があったり、お客さまとの近い距離感で生まれた商品がヒットしたりというのがターニングポイントだったかなと。
コロナ以後も好調を維持 大事なのは「ちゃんと良いものを作ってるかどうか」
ーコロナで化粧品業界は大きなダメージを受けましたが、どうやって乗り切ったのですか?
コロナが始まった頃、アルコール消毒の習慣が一気に広まリましたよね。店頭スタッフから2020年2月ごろに手荒れや指先の乾燥を感じるようになったお客さまが増えてますって話を聞いて、4月には保湿が叶うようなリフレッシュナーを出したんです。かなりスピーディーに動きましたが、これは僕らの規模感と日頃から工夫してものづくりをする精神があったからこそできた身軽さだと思います。商品は発売するたびに完売するほどの人気でしたが、全国的にアルコールの供給が追いつかない状況にも見舞われました。でもどうにか必要としているお客さまに届けなければという思いで、全国各地で原料調達をして、販売を続けました。当時は店舗が休業中だったので、店頭スタッフが倉庫に集まって発送作業を手伝ったり、本当に目まぐるしい状況でした。今振り返ってみると、その商品がSNSなどで広まったことが、オサジを知っていただくきっかけになり、営業を再開したら倍近くの多くの方が来てくださいました。
ーコロナ明け直後は“特需的”な売上があったと思いますが、その後も好調を維持できたのでしょうか。
もちろん、半年くらい経った後は勢いは落ち着きました。それでも、マスクの着用などもあって肌荒れなどトラブルを抱える方が増え、敏感肌も使えるならということでオサジを選んでくださる方が顕著になった印象があります。でもその時期に僕らを知ってくださったお客さまが今でもユーザーでいてくれたりするので、毎年前年売上は超えている状況です。
ーそれはなぜでしょうか?
大きな要因は、化粧品ユーザーのパラダイムシフトが起こったことじゃないでしょうか。大手一強だった時代から、SNSや動画・ウェブコンテンツで情報を得ることがより主流になり、単純に僕らのようなニッチなブランドを“発見する”お客さまが増えた。僕らだけではなくて、「SNSなどで知って、使ってみたら良かった」という潮流を近年は感じています。モデルやインフルエンサーの方々が、自然発生的に紹介してくださったり、口コミで広まっていった感覚です。でもつまるところは、実は必要だったもの、ちゃんと良いものを作ってるかどうかなんだと思います。
ーメイク製品やフレグランスも展開していますが、反響はいかがですか?
メイクアップコレクションはビューティライターのAYANAさんがディレクションしてくださっています。彼女が作る世界観は、単純な美しさかわいさだけではない、共感や憧れを生む力があって毎回素晴らしいものばかりなので、ファンが多いです。フレグランスはコロナ禍でのローンチでしたが、タイミングよくフレグランス需要が高まっていたので、良いスタートを切ることができました。
丸紅との資本提携で目指す未来
ー今回丸紅との資本提携に至った理由は?
今だから言えますが、最初は断ったんですよ(笑)。僕らの機動性や創造性が思い描いた通りに叶えられるのって大体30億円規模までじゃないだろうかと概算していて。単純に大きな資本が入ったからといって、譲れないことを保ちながらやりたい放題できるわけではないですから。とはいえ、僕らが本当に将来のためにやり続けたいこと、ステークホルダーを含めた理想の未来像を考えた時に、さまざまなアセットとノウハウを持っている丸紅さんと協力すれば、駆け上がることができるっていうのも理解していました。
改めて目指す未来を考えていた時に、僕が若い頃を過ごした90年代を思い出しました。あまり懐古的になりたくはないのですが、裏原カルチャーの全盛期で育ったので、大手一強じゃない独立したブランドに熱狂的なファンがいたり、個性的な物や人であふれていたあの状況を、これからの世代の子たちにも楽しんでもらえないだろうかと思ったんですよね。あの頃は良かったってことではなくて、そういう土壌を僕らが作っていけたらと。また、視覚障害者と売り場の架け橋となる化粧指導員を輩出し、より多くの⼈にメイクをする楽しさを伝えていく活動を行なっていることなど、丸紅の次世代事業開発本部の方々は熱心に聞いてくださいましたし、彼らのヴィジョンに嘘がないと感じて、タッグを組もうと決意しました。
ー化粧品会社であるオサジが目指すカルチャーとはどういうものになりそうでしょうか。
今の流行りの言葉で言うと「多様性」。美に対する多様性ってまだまだ道半ばですよね。人との比較ではなく個性を尊重するっていうのを、もっと提示していけると思うんです。誤解を恐れずに言うと、僕は個人的に「ありのまま」とか「あなたらしく」みたいに、持っているものそれだけで終わりっていうのではなくて、スキンケアやメイクの力で、今自分の中にある制限や、コンプレックスに捉えられるものさえ、美しさに昇華するような、美容の楽しさの幅を広げたいし、そういう考えをもっと社会全体にも広めたいんです。
こういう話、短いスパンで収益を回収したい企業には、きっと響きませんよね(笑)。でも次世代事業開発本部では「未来の世代が評価する事業を創る」をスローガンのひとつに掲げていて、まさに未来のためのオサジのヴィジョンを評価してくださり、じゃあ一緒に何ができるでしょうって考えていただけたから、今は僕もワクワクしています。
2023年に発売したブランド初のヘアスタイリングシリーズ
Image by OSAJI
ー丸紅との資本提携で、どういったシナジーがあるのでしょうか?
ちょうどいろんなことを相談し始めたところだったので、具体的に形になっているものはまだないのですが、かなりの可能性があるというのは分かりました。
例えば構想ベースですが、僕は日本の化粧品の原料自給率の低さに危機感を覚えています。丸紅さんのパートナー企業の農業法人と協力して化粧品の原料を作ってもらい、僕らがそれを使って化粧品を作ることができるかもしれない。原料はほかの企業やブランドさんに販売することもできるでしょうし。日本の農家さんは厳しい状況のところも多くて、使っていない農地が余っているというのも聞きますから、新たに化粧品原料の事業が軌道に乗れば農家さんにとってもいいことだと思います。
僕らが関わっている企業と丸紅さんをつなげて、もっと大きな、持続性のある取り組みにできる可能性だってあります。数年前から、アートを中心にした創作活動をしている障害者就労支援B型事業所の「PICFA」さんと、プロダクトのパッケージデザインなどをお願いしているのですが、丸紅さんのアセットを活かしてもっと大きな取り組みができるかもしれません。
丸紅さんも、僕らの取引先にも興味を示してくださって、お互いに、「あんなことも、こんなこともできそうですね」とまずは広い視野と心で、可能性を探っているところです。それでもすでに互いと、周辺のステークホルダーの皆さまを巻き込んだシナジー効果が見込めるだろうと思います。
ー資本提携後の事業計画はいかがですか?
もちろん、いわゆる事業計画書というのは作成したのですが、丸紅さんはそこもかなり柔軟に対応してくださいました。分かりやすく何年後に売上何倍みたいに無理に大きくするよりかは、じっくりこういうことを目指していきましょうっていうのを支持してくださったというのがまず前提にあります。
その上で、国内はもちろんですが、東南アジアにも目を向けて動いていきます。アジアはまだまだ可能性があるし、これから僕らがカルチャーを作っていける余地があると思うんです。単純に僕らだけ売上を伸ばすのではなく、現地の化粧品市場がもっと盛り上がって、そこからさらに海外に進出するような勢いのあるブランドが生まれるようになったら面白そうじゃないですか。もし欧米を目指す場合も、日本のブランドが単独でポンっと欧米に進出するより、アジア市場面白いぞって盛り上がって、評価されてから行った方が絶対いいと思うんです。これからの時代、「量より質」の思想で、東洋的な美的感覚は一層受け入れられていくんじゃないでしょうか。海外事業はまずは卸で始めますが、ゆくゆくは直営で動かせたらいいなとは考えています。
ー国内事業と、売上面の計画はどうでしょうか。
2024年は路面も含めて4店舗くらい出店する計画です。そのほか、都内に外部の方も来られるような社員食堂も検討中です。売上は年商ベースで+20〜30%を目指しています。
ーそれでは、最後にオサジの将来像を教えてください。
大きな目標を言うと、オサジを「100年続くようなオーセンティックなブランド」に育てたいと思っています。ライフスタイルを創造して提案する企業としてのオーセンティックとでもいいますか。敏感肌も使えるスキンケアから始まりましたが、その根底には健やかな肌でいることが精神的にな安定にもつながるとの考えですから、最終目標は健やかな気持ちでの暮らしではないでしょうか。たまたま化粧品から始めましたけど、もう少し内面的な感性とも結びつくフレグランスや、現在は“内側から整える”飲食事業も展開しています。すべて共通するのは暮らしなんですよね。
今後は、オサジをテーマパークや複合施設みたいな箱だとして、総合的に商品やコンテンツを配置していくイメージです。ただ、闇雲に商品数を増やすことはお客さまに親切じゃないのでしたくない。化粧水だけで20種類とかあったら何使ったらいいか分からないじゃないですか。例えばですが、ニューヨークのソーホーのライフスタイルショップ「アパートメント・バイ・ザ・ライン(THE APARTMENT by The Line)」のように、誰かの家のような内装で、インテリアがすべて売り物になっている。オサジもそういうふうに、美容にとって一番いいのは心が健やかなことなので、化粧品も含めて、「ライフスタイル」としてそのサポートとなるようなものを生み出していきたいですね。
(聞き手 福崎明子、書き手 平原麻菜実)
■オサジ:公式サイト
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