街を変える店「ドーバー ストリート マーケット」に何故ブランドは出店したがるのか?

新しくなったドーバー ストリート マーケット ロンドン Photo by: 画像: FASHIONSNAP / 撮影:YUTA NAOUMI

 3月19日、ヘイマーケットの旧バーバリー本社ビルに移転、新装オープンしたドーバー ストリート マーケット ロンドン(以下、DSML)。ヘイマーケットはピカデリーサーカスとトラファルガー広場の中間という、ロンドンの中心部に位置する通りだが、観光客相手の土産物店や大型レストランが目立ち、ファッション好きが集まるような場所ではない。DSMLががつて、アートギャラリーとオフィスしかなかったドーバーストリートがファッションストリートに変わるきっかけを作ったように、今回の移転オープンでヘイマーケットの人の流れが変わるかにも、注目が集まっている。(取材・文:ファッション・ジャーナリスト 正岡雅子)

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 この移転で売り場面積は以前の3倍、約3140平方メートルとなった。1912年建築の建物は歴史的建築物として保存対象となっており、外観や内部の基本的な構造は変えることができない。DSMLはそれを逆手に取って、仮設壁や店内建造物を活用、照明や巨大なオブジェをフロアの中心にしつつ、各ブランドがそれぞれの個性を発揮したスペースを並べて、世界中でここにしかない、「美しいカオス」な空間を作り上げた。

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 3倍になった売り場スペースは、地下1階、地上4階。若手ブランドやストリート系から、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇON)」の各ブランド、「バーバリー(Burberry)」「ディオール(Dior)」「セリーヌ(CÉLINE)」などハイブランド、「J.W. アンダーソン(J.W. ANDERSON)」「ヴェトモン(VETEMENTS)」といった注目ブランドに加え、「モリー・ゴダード(Molly Goddard)」「エッグ(Egg)」「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」などバラエティ豊かなブランドが独自のコーナーを作っている。巨大な鉄の恐竜のオブジェや街灯のような照明など、各ブランドのコーナーをまたぐインテリアにも、フロアごとに工夫が凝らされている。さらに、各フロアに、複数のブランドの商品を並べたセレクトコーナーが設置され、取り扱いブランドを数えるのが困難なほどだ。

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写真左上から時計回りにグッチ、サカイ、ディオール、アンダーカバー

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 それほど多くのブランドが並んでいても、ブランドスペースのほとんどが、ブランド名を表示していない。実際に服を見て、タグを確認しないと、どのブランドの商品かわからない場合がほとんどだ。コム・デ・ギャルソン関連の各ブランドもフロアそれぞれに点在しており、少しでも興味を持ったが最後、ほぼすべてのコーナーで商品を手に取って確認しながら歩くことになる。新人ブランド支援の「ファッション イースト(Fashion East)」創立者で、コラボブランド「ルル&コー(Lulu & Co)」も手掛けるルル・ケネディ(Lulu Kennedy)は、「3時間いても、まだ見るところがあるの。入ったら出られないわね、この店は」と言う。

 しかも、ブランドの多くが、DSMLだけの限定商品を用意している。スティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)に至っては、コーナーにあるすべてが1点もので、DSML以外では手に入らない。

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デザイナーのスティーブン・ジョーンズ

 コム・デ・ギャルソン関連ブランドのスペースとレジ回りや試着室のデザインは川久保玲によるもの。各ブランドのスペースについては、それぞれのブランドが自由にデザインしている。費用も、それぞれのブランドの負担だ。その結果、若手ブランドは、低予算でいかに自分らしいスペースを作るかに知恵を絞ることになる。この移転で地下フロアにスペースを持ったロンドンの若手ブランド「クレイグ・グリーン(CRAIG GREEN)」は、インダストリアルなラックと、これもインダストリアルな屋外用シートを素材とした、黒い魚のオブジェでスペースを作った。「予算と時間、消防法等の規制以外には、制限はなにもなかったから、自分のアイデアを実験することができた」と語る。

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クレイグ・グリーンのスペース

 北アイルランドの実家近くにあった児童公園をイメージして、滑り台やうんていを作ったJ.W.アンダーソンは「デザイナー自身が、商品をどう売るかを考えなければいけないと僕は思う。DSMでは、服やバッグだけではなく、ブランドの世界そのものを表現することができる」と語る。

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J.W.アンダーソンのスペース


 クレイグ・グリーンが「DSMにコーナーを持つのは、若いデザイナーにとっては夢」と語るように、DSMで商品が売られることは、若いブランドにとっては「コム デ ギャルソンに認めてもらえた」という勲章になる。そういった若手が伸びていけば、DSMの眼力が証明される。双方にとって都合のいいシステムを、DSMは過去10年で作り上げた。だが、今回の移転では、「ポール・スミス(Paul Smith)」「マーガレット・ハウエル」「バーバリー」と、英国を代表するブランドも新規にコーナーを設けている。

 建物が元バーバリー本社ビルだということで、「バーバリー」の参加は納得できる。クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey )は「僕にとって大切な、懐かしい場所を、こんな風に素晴らしくリニューアルしてくれたのがとてもうれしい」と語った。かつて建物正面に設置されていたバーバリーのロゴ入りの大きな時計は、DSMから「バーバリー」に寄贈され、バーバリーのアーカイブに加えられたという。なお、「バーバリー」がDSMLで販売しているコートは、全世界から集めたヴィンテージバーバリーを自社工場でリペアした1点ものだ。

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バーバリーのスペース

 しかし、ロンドンにも多数の路面店を持ち、それぞれの店舗で好きなようにやっているように見えるポール・スミスはどうなのか?「このスペースは、僕の最初の店と同じ大きさ。あえて地下の若手ブランドの真ん中に持ってきたのは、僕だってこんなスペースから始めたんだから、君たちも頑張れよ、という若手へのエールでもあるし、僕自身が初心に帰ることでもある。それに、若いブランドの中にあると、僕はまだまだイケてる、って思えるだろ」とポールは言う。

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ポール・スミスのスペース

 川久保玲のイマジネーションと各ブランドのアイデアで作られた独特な空間、DSMが世界各地から選んだ無数のブランド、長時間の滞在が当たり前のディスプレイ方法、ここでしか買えない限定商品の数々。新しいDSMLは、ドーバーストリートでの10年間で作り上げたシステムとDSM自体のブランド力を、3倍の広さの売り場でいっそうパワーアップした、ファッション好きにとって危険なほどに魅力的な場所だ。(取材・文:ファッション・ジャーナリスト 正岡雅子)