アイロン一筋50年、三陽商会で"ケア"に従事するプロに聞くアイロンがけ術

樋代廣人 Photo by: FASHIONSNAP

 「仕上がった服をアイロンでケアすること」。その道に50年近く従事しているのが、アパレルメーカー・三陽商会 樋代廣人さんです。15歳から修行を始め、アイロンでのケア技術を買われ1970年(22歳の時)に三陽商会に入社後、流通センターにおいて出荷前の服のお色直しに従事(当時は自社で行うブランドは稀だったそう)。その後、現在に至るまで「技術指導」職として、自社や協力各社の工場における指導を行っていて、タイ、イタリア、アメリカ、中国など海外工場での現場指導の実績も豊富です。今回は自宅用のアイロンで応用出来る、アイロンがけのテクニックを樋代さんに教えてもらいました。(取材・文:市來孝人)


動画で見る樋代廣人さんのアイロンテクニック

■家庭でも出来るアイロンがけのポイント

今回、シャツとスーツ(パンツ・ジャケット)を題材に、家庭用アイロンでも応用出来るアイロンがけのポイントをいくつか伝授して頂きました。まず、アイロンがけを始める前に意識すべき点は、まるで「煮物などでお肉をやわらかくするように」霧吹きで生地をやわらかくすること。つまり水分を含ませて生地を「座らせる」ことです。

・シャツ「襟とカフスをしっかりと決める」

-襟はどのようにアイロンをかけると良いですか?

半乾きで水分が少し残っている状態で、まずは温度を強めにしたアイロンを体重で押さえながらぎゅっとかけるのがいいですね。襟は芯が入っていますから。

-カフスはいかがでしょう?

対照的に、アイロンの先をカフスの裏に入れて転がす感じでかけるといいですね。襟とカフス、ここが決まっていると気持ちいいですね。

・パンツ:お尻の布が余らないように、布を「下げて、上げる」

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-パンツのポイントは?

小股の下で少し布を下げて、追い込んで上に上げることで、お尻のところの布が余らず、シルエットを綺麗に見せることが出来ます。

-布を下げて、上げる、なかなか感覚を身につけるのが難しそうですが、何センチ程度を意識すればいいですか?

生地によって違います。例えばウールだと3cmくらいだったり。生地に応じて、余っていると感じる部分を下げて、上げることです。

・ジャケット:面積の大きい「ポケット」にひと工夫(コートにも応用可)

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-ポケットへのアイロンの掛け方が特徴的ですね

そうですね、どこにでもあるような紙を「当たり」で入れてアイロンをかけます。はがきでも、段ボールでも、コピー用紙を2枚重ねても、どんな紙でも良いです。ポケットの部分は生地が二重・三重になっていますから、「当たり」を入れないと傷になってしまいます。ポケットがビシっと決まっているとひき締まって見えるので大事ですよ。

-シャツ、パンツ、ジャケットいずれも共通しているのは、全体をかける時に裏地からかけていることですよね。

シャツの場合は、裏地からかけることがシルエットの立体感に繋がります。パンツやジャケットは裏地がしわだとよじれてしまいますから。特に袖あたりは裏地にゆとりがすごく多いんです。ゆとりがあるからしわが出来ても、伸ばしてやるとまた元の丈に戻るようになっています。だからこそ、まず裏地を綺麗に伸ばすことが大事です。

■アイロン一筋50年の樋口さんの仕事道とは?

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樋代さんに、アイロンがけへのこだわり・想いについて伺いました。


-日頃の仕事に対するこだわりはありますか?

服というのは一枚一枚が一人の子どもさんのように可愛いもので、「この子を綺麗にしよう、カッコ良くしよう」という気持ちで仕上げています。毎日が勉強ですね。生地は生き物ですから生地と喧嘩しないようにアイロンで伸ばしたりひっぱったり、それが面白いところでもありますね。

-毎日が勉強とのことですが、具体的にはどのように学んでいくのでしょうか?

新しい素材がどんどん入ってきますから。いつも初めての素材をかける時は、一枚一枚の違いをしっかり踏まえてアイロンをかけるようにしていますね。新しい素材の服のラックが入ってくると、その日のうちにパッと見て、翌日の朝に電車の中で「この素材はこう」「この素材はちょっと難しそうだな」とシミュレーションしています。デザイナーさんが持ってきた服をどこまで「良くしたい」と思えるか。そして「綺麗になったね」と言われることが日々の楽しみです。

-参考にしていることはありますか?

ラーメンの作り方やお好み焼きの焼き方も全て繋がりますね。いくらマニュアルがあっても、こだわりを持って自分でやってみないと上達はしません。マニュアルは最低条件で、その先が大事。そんなところが自分の仕事に近いのです。

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最後に次世代の技術者や若いユーザーに伝えたい事について樋代さんは「『良い型紙を使っているな』、『いいくせ取りしてあるな』など、服の良さは着てみて初めて分かります。若い方たちには色々な服を日頃から着てほしいですね」と語ってくれました。様々な服に触れ、どういった作りになっているかを吟味しながら、服を大切にケアしていきましょう。

(取材・文:市來孝人)