マノロやルブタン、ジミー チュウ...高級ブランド靴にまつわる"お宝"ストーリー

 2017年春夏シーズンはグラマラス感やポジティブさがおしゃれを盛り上げる。服やアクセサリーでも華やぎが増すが、デザイン性が高い、憧れブランドの靴は格上の装いに導く。デコラティブなビジュー使いやかかとが太めのチャンキーヒール、メタリックな装飾なども足元を華やがせる。ヨーロッパブランドのラグジュアリーシューズは足元から気品やリュクスを薫らせてくれるから、それぞれのヒストリーや特徴を知って、もっと上手に履きこなしたくなる。今回は有名ブランド靴にまつわるストーリーをまとめてみた。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江

JIMMY CHOO(ジミー チュウ)

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ROMY 100


 レッドカーペットの「常連」となっている有力ブランドのうち、創業時期が最も若いブランドのひとつは、意外にも「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」だ。英国版「ヴォーグ」誌の元編集者が1996年、マレーシア出身の靴職人ジミー・チュウ氏と共同でブランドを立ち上げた。 

 創業からわずか20年余りのブランドがセレブリティーの愛用シューズになったきっかけは、映画界最大の祭典、アメリカのアカデミー賞授賞式。創業からわずか3年だった99年の授賞式で「ジミー チュウ」は60足もの真っ白い靴をハリウッドに持ち込んで、レッドカーペットに臨む女優たちに届けた。靴をプレゼントするブランドは珍しくないが、「ジミー チュウ」は女優が着るドレスにマッチする色に染めるというサービスを提供。ドレスに似合う色の靴が手に入るとあって、この大胆なマーケティングは成功。用意した靴はすべて受け取ってもらえたという。大女優のケイト・ブランシェットもこの際に「ジミー チュウ」を履いている。

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LOLITA 100 / KELLY 120

 ダイアナ元英国皇太子妃が愛用したことでも知られる「ジミー チュウ」。ファッション界を舞台にした映画「プラダを着た悪魔」では、ファッションにうとかった主人公アンドレア(アン・ハサウェイ)が「ジミー チュウ」の靴に足を通したことをきっかけに、ファッションの楽しさに目覚めていく。「最もファッショナブルなテレビドラマ」と評された「セックス&ザ・シティ(SATC)」では靴マニアの主人公、キャリーが「私のCHOOがなくなった」と騒ぐ場面がある。

 「ジミー チュウ」は魔法のようなフィット感、抜群の安定感にファンが多い。足が痛くならない点にも定評がある。「ピンヒールは痛い」という常識を打ち破った、素肌に吸いつくような足なじみのよさが持ち味。重心がしっかりしていて、足がスイスイ前に出る。

MANOLO BLAHNIK(マノロ ブラニク)

MANOLO-20140901_002.jpgHANGISI

 「SATC」で知名度を上げたシューズブランドには「マノロ ブラニク(MANOLO BLAHNIK)」もある。「走れるピンヒール」「靴のロールスロイス」とも呼ばれ、「SATC」ではキャリーが「マノロ ブラニク」を買いすぎて破産しそうになる。恋人ビッグがキャリーにプロポーズしたのは、ロイヤルブルーのパンプス「ハンギシ(HANGISI)」を履かせながらだった。足の甲にスクエア型のビジューをあしらったノーブルなデザインには日本でもファンが多い。

 創業デザイナーのマノロ・ブラニク氏は、大西洋に浮かぶスペイン領のカナリア諸島で生まれた。パリへ移住した後、舞台デザイナーとなったが、当時のアメリカ版「ヴォーグ」編集長だった伝説的ファッションエディター、ダイアナ・ヴリーランドに靴のデザインを認められたのをきっかけに、靴職人へと転身した。靴作りを学び直して、ロンドンに移り、70年代初めにブランドを立ち上げたという。

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BB

 デザイン上の特徴は華奢なヒールが生み出す、繊細なバランス。カラフルなサテン生地を使うのもあでやかな履き姿に仕上がる理由だ。リボンやジュエリーを組み込んだデザインが得意で、足元から装いを格上げしてくれる。重心を取りやすいポジションにヒールが取り付けてあるので、履いたときにグラグラしない安定感の高さも頼もしい。小悪魔的な魅力で1950年代のアイコンとなった人気女優、ブリジッド・バルドーからインスパイアされた「BB」は、バルドーの愛称にちなんで名付けられた。ブラニク氏は「靴は女性の変身を助ける」と語る。

Salvatore Ferragamo(サルヴァトーレ フェラガモ)

shoes08-01.jpgパンプス


 映画スターに愛された靴ブランドでは、イタリアの「サルヴァトーレ フェラガモ(Salvatore Ferragamo)」が名高い。創業者のサルヴァトーレ ・フェラガモ(1898~1960年)はイタリア南部で生まれ、10歳代半ばでアメリカに渡り、靴職人となった。映画産業がハリウッドへ移る時期に立ち会い、マリリン・モンロー、オードリー・ヘプバーンなどの人気女優を顧客に迎えた。モンローはヒップを通常よりも大きく左右に振って歩く「モンローウォーク」で知られるが、彼女はわざと片方のヒールを短くして、左右の高さをアンバランスにして、この歩き方を強調していたといわれる。

shoes01-01.jpgウェッジサンダル

 今では当たり前の存在となったウエッジヒールも「サルヴァトーレ フェラガモ」が生み出したとされる。オードリーのために作ったバレエシューズも時代を先取りしていた。78年に発表した、足の甲に上品なリボンを配した「ヴァラ」はブランドの代名詞的存在。土踏まずを支える縦長のプレート「シャンク」を入れる製法を確立したのも「サルヴァトーレ フェラガモ」の功績だという。

Christian Louboutin(クリスチャン ルブタン)

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 背中側からの視線を引き込む深紅の靴底「レッドソール」で有名なのは、パリの「クリスチャン ルブタン(Christian Louboutin)」。デザイナーのクリスチャン・ルブタン氏は1964年にパリで生まれ、92年に路面店1号店をオープンしたのも、パリの歴史的なパサージュ(昔ながらのアーケード)だった。今もこの地で仕事をしていて、何度かランチ時に見かけたことがある。

 フェティッシュで挑発的なデザインが異彩を放つ。スタッズ(鋲)を多用するのも際立った特徴で、パンキッシュなトゲトゲがびっしりあしらわれたシューズは人気が高い。官能的なデザインを得意とし、パリの老舗ナイトクラブ「クレイジーホース」を舞台に、「クリスチャン ルブタン」の靴を履いた踊り手たちの艶美なパフォーマンスを収めた映画「ファイアbyルブタン」も演出している。映画の中でルブタン氏は「服をまとわせる靴と、服を脱がせる靴があり、私が追い求めるのは"露出させる靴"だ」と語っている。

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GUNI PUMP 100 / EXPLOTEK

 商標登録までしているレッドソールの由来は偶然の出来事からだったと、「THE NEW YORKER」誌のインタビューで明かしている。93年にアンディ・ウォーホルの作品「フラワーズ」に着想を得た靴をデザインしていたとき、出来上がりに納得できなかったルブタン氏はたまたま近くで爪の手入れをしていたアシスタン女性が手にしていた赤いマニキュアを目に留め、それを靴底に塗ってみた。すると、思い描いていた「ポップ」の色味に仕上がったという。もともと赤には特別な思い入れがあったようで、幼い頃、アフリカンアートの美術館で、来館者に注意を促すために描かれたあるサインに心を奪われた。そのサインはとがったヒールに鮮やかな赤の斜線が引かれていた。美術館の床を傷つけないようにという意味のメッセージだったが、そんな鋭角的なヒールを見たことのなかった彼はこのサインのイメージを心に刻みつけたという。

Sergio Rossi(セルジオ ロッシ)

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GODIVA

 「セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)」はイタリア流の靴作りの伝統を重んじるクラフトマンシップに支えられている。創業者であるセルジオ・ロッシ氏は生家が靴店で、父も腕利き職人だったことから、幼いうちから職人魂を吸い込んで育ったという。自身の名前を冠したブランドを立ち上げたのは1960年代に入ってから。セクシーでシックなデザインが評価を高めた。

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MADAME / sr 1

 70年代にはミラノブランド「ヴェルサーチ(VERSACE)」の創業デザイナー、ジャンニ・ヴェルサーチとのパートナーシップに基づいてミラノモードを盛り上げた。その後、「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」や「アズディン アライア(Azzedine Alaia)」などにもコレクション用シューズを制作している。人魚のうろこを思わせる「マーメイド」は精緻な手仕事の美を象徴する。パンプス「ゴディバ」と「マダム」もアイコン的シューズ。100%イタリアメイドの工房を支える職人たちの熟練技が長い時間履き続けても疲れにくいという評価を裏打ちしている。

Giuseppe Zanotti(ジュゼッペ ザノッティ)

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 同じくイタリア発の「ジュゼッペ ザノッティ(Giuseppe Zanotti)」の靴は、セックスアピールと洗練が同居する独自の美学を表現している。靴作りの伝統を持つ街、リミニの近くで育ったジュゼッペ・ザノッティ氏はコンサルタントとラジオDJを掛け持ちする経験を経て、80年代に靴工場を買い取ってシューズ制作をスタート。1994年にニューヨークのプラザ・ホテルで初のコレクションを発表した。ロックスピリットを宿すクリエーションに魅せられ、最初の著名な顧客となったのは歌手のマドンナ。エンターテインメント業界でファンが増え、ジェニファー・ロペスやシャリーズ・セロンも顧客に加わった。

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PYRAMID / TIANA (いずれも日本未発売)

 官能美を帯びた建築的なシルエットが装いを彩る。宝石をちりばめたゴージャス感もアイコニックなイメージ。ピラミッド型のゴールドの装飾を施したサンダル「ピラミッド」はビヨンセのために作られた。メタリックジッパー、バックル、チェーンをあしらうデザインで知られる。まるで蛇がしなやかに足首に巻き付いたかのような「ヴェネーレ」サンダルはスリリングな雰囲気をまとわせる。レディー・ガガは香水「フェイム」を披露するパーティーでこのサンダルを履いた。

Roger Vivier(ロジェ ヴィヴィエ)

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Belle Vivier

 英国ロイヤルファミリーとのつながりが深いのは、パリの「ロジェ ヴィヴィエ(Roger Vivier)」。1937年にパリで最初のブティックを開いたロジェ・ヴィヴィエは53年、英国のエリザベス2世女王が戴冠式で履いた靴を用意した。映画界での伝説も多い。女優マレーネ・ディートリッヒのためにデザインした、ヒールの下部に球体のスフィアデコレーションを施した靴はブランドのシグネチャーになっている。シルバーバックルが目を惹くパンプス「ベル ヴィヴィエ」は女優カトリーヌ・ドヌーヴが映画「昼顔」(67年)で履いている。

vivie_20170411_03.jpgVirgule / Ballerina Flowers Strass

 ヒールが優美な曲線を描き、まるでコンマ(読点)のように見えるところから、フランス語でコンマを意味する名前が付いているのは、63年に発表した「ヴィルギュル」。力強く上品なフェミニンを印象付ける歴史的なデザインだ。ブランドのアンバサダーは、パリシックを体現する女性として知られ、「シャネル(CHANEL)」のアイコニックモデルだったイネス・ド・ラ・フレサンジュ氏が務めている。

PIERRE HARDY(ピエール アルディ)


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CALAMITY PUMP

 「ピエール アルディ(PIERRE HARDY)」はデザイナーのピエール・アルディ氏が自らのブランドを持つかたわら、「エルメス(HERMES)」のシューズデザインを手がけていることでも有名だ。人気を博した「エルメス」のスニーカーも彼が生み出した。87~90年には「クリスチャン ディオール(CHRISTIAN DIOR)」のウイメンズ用シューズも担当していた。2001年からは「エルメス」のファインジュエリーも任されている。

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MEMPHIS / KURT

 哲学者のサルトルも学んだフランスの名門校、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)で美術を修めたが、その一方でダンスも研究。ダンスカンパニーにも加わっている。身体を通して表現するダンスに造詣が深いことは彼のクリエーションにもプラスに働いているようだ。アートのようでもあり、時に幾何学的、時にグラマラスなデザインは新時代のシューズとして高い評価を得ている。  

 今回取り上げたエピソードの一部はフジテレビ系情報番組「ノンストップ!」に出演した際に紹介したものだが、こういうブランドの成り立ちやエピソードは靴を買い求める際にも役立つ。デザインや履き心地で選ぶのは当然だが、各ブランドやデザイナーの持ち味、イメージなどを知っておけば、自分好みの靴を見付けやすくなるし、ショッピングするときの楽しみも増す。コーディネートするときも靴のイメージからスタイリングが浮かびやすくなる。納得感や愛着を増す効果もあり、「シューズストーリー」はおしゃれとのつきあい方にも深みを加えてくれるはずだ。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江