Fumitoshi Goto

米ウォルマートがネット通販のジェット・コムを買収か?

激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ

在米28年のアメリカン流通コンサルタント

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■ウォルマートが創業から1年程度のネット通販ジェット・コム(Jet.com)を買収しようとしていると大手メディアが報じている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙やブルームバーグが複数の関係筋からの話として報じたところによると、ウォルマートはジェット・コムを買収する方向で交渉を行なっている。ジェット・コムは昨年7月、会員制通販サイトとして正式にスタートした。同社のビジネスモデルは当初、50ドルの年会費で利益を上げながら、ネット上で最も安い価格を提供し、コストが安くなるものは全て利用者に還元するものだった。ただ昨年10月にはビジネスモデルの根幹となる年会費50ドルを撤廃したことで、アマゾンなどの競合より15%の安さが4%~5%の安さに落ち着いている。会員費に加え注文をまとめることや最寄りの業者から発送することで利益を出す構造だが、大胆なビジネモデルの変更で利益も出にくくなっていた。同社は2020年までにネット販売の総取引額を200億ドルとする計画を明らかにしている。一方のウォルマートは、Eコマースの売上高が140億ドルとなっているものの、ここのところ成長が鈍化している。ウォルマートCEOダグ・マクミラン氏はネット販売を最優先事項としているものの、売上高1,070億ドルのアマゾンの前では手詰まり感が否めないのだ。大手メディアなどはウォルマートによるジェット・コムの買収額は30億ドルと報じているところもある。ウォルマートがジェット・コムを買収すれば、価格設定のソフトウエアや倉庫、顧客データへのアクセスも可能になる。
なお、ジェット・コム創業者のマーク・ロア氏は2005年に定期購入サイトのダイパーズ・コム(diapers.com)などを運営するクィッジー(Quidsi)を創業した。2010年には同社をアマゾンに5.45億ドルで売却している。

トップ画像:ジェット・コム(Jet.com)のマーク・ロア氏。

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。ダグ・マクミラン氏がウォルマートCEOに就任後、役員会でエグゼクティブに配った本があります。役員にだされた課題の一つは、なんとアマゾン創業者ジェフベゾスの伝記を読むことだったのです。その書籍とは、ジャーナリストのブラッド・ストーン氏が書いた「ジェフ・ベゾス 果てなき野望(The Everything Store)」です。ハードカバーの原文は400ページ近くあり、日本語訳では500ページを超える大作となっています。ジェフ・ベゾス氏の生い立ちも含め、アマゾン創業時から今にいたるまで詳細に書かれています。世界一の小売企業であるウォルマートの役員全員が読んでいる本であり、チェーンストアを標榜する日本の経営者や役員、関係者にとっては必読書です。なぜなら、ベゾス氏がウォルマートやチェーンストアを研究しているのがよくわかるからです。逆にいえば研究しているからこそ、チェーンストアの弱点も分かっているということです。
⇒今のウォルマートを知るために真っ先に読んでもらいたい箇所があります。409ページの最後の2行にある「このあと紹介するストーリーは、前述3社(ウォルマート、アマゾン、そしてマーク・ロア氏が立ち上げたクィッジー)の関係者が記憶していたことをもとに再構成したものである。証言はすべて匿名を条件に行われたが、アマゾンもウォルマートも機密保持に厳しく、この件について口外したとばれたら大変なことになると、全員、震えあがりながら話してくれた」の後に展開する5ページにわたるストーリーです。クィッジー(Quidsi)をクイッドシー、ダイパーズ・コム(Diapers.com)をダイアパーズ・コムとローマ字読みになっているのはご愛嬌ですが、当時のウォルマート役員のEコマースに対する「誤った将来価値」がよく表現されていると思います。ウォルマートはリアル店舗で大成功をしていただけにチェーンストアによる成功体験がEコマースに対して価値評価を下げていたことがよくわかるのです。

⇒買収に有利だったものの結局「後手を踏んだ」ウォルマートはクィッジーを買収できなかったのです。後手を踏んだ理由の一つがEコマースへの低評価だけでなく、マーク・ロア氏とその彼が作った物流ノウハウを過小評価していたことです。特に痛かったのは、クィッジーを買収しそこねたことでロボット物流のキバ・システムズも買収できなかったことです。物流は小売りだけでなくEコマースにとってもオペレーションの要なんですね。アマゾンがキバを使うことで地団駄を踏んでいるのはウォルマートです。マクミラン氏がウォルマート役員にこの本を読ませたかった理由は「我々は間違っていた」との過去の反省からなんですね。その証拠にウォルマート前CEOのマイク・デューク氏はクィッジー買収を失敗した後から「IT投資にお金を惜しむな!」と檄を飛ばし、これまでにIT企業15社を買収しています。ウォルマートの50年の歴史の中で2~3年の間に10社以上を買収した例はありません。
410ページからのストーリーはドラマっぽいところもあり、ぜひ、読んでみて下さい。立ち読みで終わらせないことです。情報に対するセコさが、ウォルマートが後手を踏んだことと同じ失敗のモトになります。

後藤文俊

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