Yoshikazu Yamagata

KOCHÉ-とんちゃん通りの親和性-

山縣 良和

writtenafterwardsデザイナー/ここのがっこう主宰

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 ファッションの面白さは常に、意識化されたものに限らず、極めて動物的な"無意識に潜む感情の表層化"として世界にじわじわと現れる所です。

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今回、日本で初めてコーシェのファッションショーを見せて頂きました。コーシェは、今世界で最も注目されているデザイナーの一人です。セントラル・セント・マーチンズ卒業後、多くのメゾンで経験した後、シャネル傘下の羽細工工房ルマリエ(LEMARIÉ)のアーティスティックディレクターとして手腕を奮っています。

コーシェの最大の魅力は、冒頭で述べた、"無意識に潜む感情が表層化"された現代性と社会性を持ったデザインだろうと思います。それは服のデザインに留まらず、モデルのキャスティングやヘア・メイク、ファッションショーの会場から音楽、デザイナーとしての振る舞いを含む全ての要素が織り合わさり、融合されたものがアティチュード(態度)となり、アトモスフィア(空気感)となって現れます。

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そのアティチュード、アトモスフィアは、どのように作られ、現在と融合したのでしょうか。それはデザイナーであるクリステル・コーシェ(Christelle Kocher)の歩んできた歴史そのものをなぞることによって浮かび上がってくるでしょう。コーシェのキーワードは、ストリート、クチュール、そしてコラージュ等ですが、それらを上手くファッションデザインとして消化しています。彼女が語るように、フランス人である彼女のルーツの一つが、ロンドンに留学した際に体現した、ワーキングクラスのエリアと言われるイーストロンドンんであるように、デザインのインスピレーション源の一つが労働着であったりストリートウェア(日常着)であったりします。また子供時代から学生時代にかけて、想像に難しくないのが90s初頭のストリートクチュール、ミックスストリートファッションの流れを自然に体験しており、この時代を見た世代特有の憧れとして、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)等のデザイナーが作り上げた手法や方法論のアップデートを意識的にも無意識的にも試みます。学校卒業後は、アントワープ、ミラノ、パリと移り住み、多くのメゾン(EMPORIO ARMANI、MARTIN STIBON、CHLOÉ、SONIA RYKIEL、BOTTEGA VENETA、DRIES VAN NOTEN)でデザイナーとして多くの経験した後、フランスのモード界の心臓部でもあるクチュール工房、羽細工工房ルマリエでの経験が、伝統工芸や技術を過去から未来へと繋げていく文化的な美意識や誠実性が自然に心に染み付いたのだと思います。そしてこのものづくりにおける誠実性こそが現在において共鳴される重要な要素の一つなのではないかと思います。

生々しいストリートウェアから誠実性を感じられるクチュール技法の要素が匠に混ざり合った服と、様々な要素がミックスされたスタイリング、様々な国籍が混じったキャスティングによって、混沌とした現在のヨーロッパのリアリティを表層化させることに成功しており、同時にデザイナーであるクリスティルの思想が浮き上がってきます。

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日本人には解りづらい感覚なのですが、ヨーロッパは国や民族、宗教の対立の歴史であり、世界で初めての市民革命が起こり、民主主義思想が受け入れられたフランス、パリでさえも、目に見える形で現在も色濃くヒエラルキーが残った社会です。

ファッションデザインをする上でヨーロッパでは特に、デザイナーはその表層化されたヒエラルキーを理解してデザイン出来ることが求められます。

そしてクリステルの歩んだ体験そのものが、複雑なヒエラルキー社会の様々な一面の重層的なコラージュによって成り立っており、そのような背景から生み出された知的で社会的なファッションデザインは、より一層の深みを醸し出すことに成功しているといえるのではないでしょうか。

コーシェは日本にはどのように受け入れられて行くのでしょうか?コーシェの大きな功績として、権威の象徴として成り下がろうとしていたパリコレクションを、もう一度リアリティある"ストリート"に引っ張りだしたことがあげられるでしょう。ですのでコーシェにとって"ストリート"をどこで、どのように表現するかもっとも重要な要素の一つとなります。

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会場は日本のストリートファッションの聖地でもある原宿とんちゃん通りが選ばれました。とんちゃん通りは、アメリカ古着屋が多い場所としても有名ですし、老舗の料理屋やお花屋さんがある事によって独特な情緒ある風景を形成しています。もともと代々木公園に米空軍の兵舎、ワシントンハイツが建設されたことによって、多くの米兵や米国からの渡来品が原宿に集まった事がその後の街の形成に大きな影響を与えました。ですので、街として特に異国からやってきたものを受け入れる土壌が作られている場所です。

そのような意味において、東京で最もふさわしい場所で行われた、とんちゃん通りでのストリートファッションショーは、日本人の遺伝子に刷り込まれているとも言っても良い太鼓の演奏から始まります。またフィナーレに提灯を持って登場した多くの自然体な日本人をベースとしたモデルたちの演出からも、デザイナーの日本文化への敬意を感じることが出来、見ている私たちに心地のよい高揚感を与えてくれました。

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そもそも敗戦後、可視化出来るヒエラルキーのないフラットな社会から生まれた自由なスタイリングを生み出した若者の街は、大きな熱気に包まれ、モデルたちは必然的といえるほど空間と融合していました。

20数年ほど前、同じく権威の象徴として成り下がろうとしていたパリに突然現れた異端と呼ばれたデザイナーたちは、パリ・コレクションをリアリティーあるストリートに引っ張りだすことに成功しました。そして彼らはこの街でも歓迎され、日本にいち早く受け入れられたように、それから20年程たった今、新しい異国のデザイナーであるコーシェは、またこの街に歓迎され、そしてこの国に暮らす人々にごく自然に受け入れられていくのではないでしょうか。

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