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【インタビュー】原宿"黒いモンスター"の生みの親、女性ペインターLyが語るオモハラ観

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"オモハラの黒いモンスター"の生みの親

オモハラを歩いているとき、見かけたことがあるのではないだろうか。壁に描かれた黒いモンスター。そのテイストから海外の男性ストリートアーティストを想像する人も少なくないかもしれないが、このモンスターの描き手は女性ペインター・Ly(リー)さん。コム・デ・ギャルソンの黒い衣装に身を包む彼女は「作品とともに表参道・原宿で育ってきた」と語り、この街に黒いモンスターを出現させ続けている。一体どんな想いで? 今回は、そんな彼女の"オモハラ観"を覗かせてもらった。

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《プロフィール》
ペインター。東京生まれ。白と黒とグレーを使い、海外で訪れた街並みや、幼い時から妄想していたランドスケープ(風景)を描く。その風景には自身の気持ちや想いを投影したモンスターが彷徨う。東京を中心に、アメリカ、パリ、バンコク、マレーシアなど国内外でミューラル(壁画)を残している。高校生の時からハーモニー・コリンが神様。

黒いモンスターがオモハラの壁に現れる理由

「SHIT」や「HATE」という負の感情が表現されることの多い彼女のミューラル(壁画)のイメージに反して、本人は明るく、そしてフランクだった。

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2017年に出現したTHE NORTH FACE STANDARD HARAJUKUのミューラル

「表参道・原宿は私が10代から22歳くらいまでずっと遊んでた街だから、歩いててインベーダーの作品とかを見つけると『まだ無事にあるんだ!』って嬉しくなるし、自分も描きたくなっちゃう。実際私に描いてほしがってそうな壁もたくさんある気してて、最近はこの辺来ても壁ばっかり見ちゃってるの(笑)」

感性豊かな彼女は、10代の頃からこのエリアでアート巡りをしていたのだろうか? 聞いてみると、そんなことはないとのこと。

「初めて原宿に来た日? 自分の意思で初めて来たのは中学生のときかな。制服でラフォーレに来たんだけど、昼間だったから警察に補導されちゃった。それからも原宿には目的もなくフラフラ来て、買い物もよくしてたかな。黒が好きだからギャルソンに通ってた。私、18歳からは黒い服しか着てないの」

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10代で出会った映画監督・ハーモニー・コリンの影響でストリートアートに興味を持ったと話すLyさん


今日もLyさんは頭から足元まで"黒"。彼女のペインター人生の中で常にキーとなっている重要なカラーだ。

「実家は建築士の叔父さんが建ててくれたんだけど、なぜか私の部屋は壁が真っ黒だったの。それからお母さんも赤が嫌いって言って、小学生になって買ってもらった筆箱やランドセルも女の子なのに全部黒。私も黒好きだったから良かったんだけどね。その影響もあるのか、小学生の頃から12色のクレヨンで絵を描くのが嫌いで、黒ペンでばかり絵を描いてたの」

そして、当時から頭の中には、彼女の気持ちの化身と言える黒いモンスターが住んでいたのだという。それにしても、なぜ「壁」にそのモンスターを描くのだろうか。

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ネイルは常にグレー。リングはクロムハーツ


「逆に紙に描けと言われると『なんでわざわざ縮小しなきゃいけないの?』って思っちゃう。頭の中にいるモンスターを、なるべくそのまま、大きさも実寸で描きたいの」

リアリティを追求するのは、彼女には本当にモンスターが彷徨う世界が見えているからだろう。自分たちがずっと遊んできた街に、自分だけがずっと見えていた世界を混ぜ込みたい。こんな理由で、Lyさんは今日もオモハラの壁に黒いモンスターを描いているように思えた。

ミューラルは突然更新される

また、彼女のミューラルの描き方として特徴的なのは、「壁の持ち主にちゃんと許可を取る」という点だ。ストリートアートというと無許可で描いてしまう印象があるが、その理由は?

「私はビビリだし描くのも遅いし、丁寧に自分の世界を再現したくて。ちゃんと交渉して許可を取ってる...って言うとカタい印象になっちゃうな。私としては、きちんと話して、壁を手に入れてる!って感じ(笑)」

一体どういうことだろうか。彼女がオモハラで最初に作品を描いた壁は、原宿のアメリカンダイナー「San Francisco Peaks」だということで、その経緯を聞いてみると。

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アメリカンダイナー「San Francisco Peaks」の裏の壁面


「あそこの壁、監視カメラがついてたから、ずっと真っ白で綺麗な状態だったの。通るたびに『私に描いてほしそうだな』って感じてたんだけど、ちょうど近くの『GALLERY TARGET』で個展をすることになったから、そばに大きい絵もあった方がいいなって思って、店に入ってスタッフの女の子に相談してみたんだよね。そしたら『今オーナーいないんですけど、聞いたら絶対いいって言いますよ!』って言ってくれて、そのあと本当に許可がもらえたから、『手に入れた! やっぱりここは私が描くための場所だったんだ!』って思ったの」

慣れ親しんだこの街だからこそ可能なフランクな交渉を行いながら、その後もこのエリアの様々な壁に黒いモンスターを描いていったLyさんは、4年後、「San Francisco Peaks」の壁にもう一体のモンスターを追加した。

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右側のモンスターは4年後に登場


「作品を解説すると、最初に描いた左側のモンスターはHATEくん。この絵を描いたときは挫折している最中だったから、個展のテーマも『I hate everything.』で、そんな気持ちの象徴。うなだれてて手もないの。それで、4年後に描いた右側のモンスターがLUVくん。立ち直って、これからずっと死ぬまでペイントしていくんだろうなーっていう覚悟の象徴で、しっかり前を見据えてる。私の心の浮き沈みが記録されてる壁だね」

時を経てあるとき突然に更新される。これも、ギャラリーのアートにはない、ミューラルならではの魅力だろう。オモハラには、他にも更新されている壁がある。そして、そこにはこれまでとは一線を画す白い生き物が。

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キャットストリートのアパレルショップ「I am I HOLE」の壁面


「キャットストリートのミューラルは数日前に昔のミューラルの上からペイントし直したんだけど、これは私が初めて描いて女の子で。私、新作はギャラリーじゃなくて壁で発表するって決めてるから。ちなみに、左下のLUVくんは、あえてリペイント前のものを残してあって、前の壁を知っててくれる人が楽しめるようにしてるの」

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リペイント前の「I am I HOLE」。左のモンスターの顔の一部は現在も残されている


自身のフットワークで許可を取りつけながら、丁寧にミューラルを制作・更新していくLyさん。彼女にとって、オモハラの街は最適なキャンバスであると同時に、自身の心境を記録する大切な日記帳のような存在でもあるのかもしれない。

黒いモンスターは海外からも、地元からも愛される

こんな活動を10年以上続けているLyさんは、1年前に嬉しい出来事があったという。

「『GALLERY TARGET』で私が昔から憧れてるラリー・クラークの写真展が開催されてたんだけど、長蛇の列に並んで本人に会ったら、彼が私のミューラルのことを知ってくれてて、『女性が描いてるとも日本人が描いてるとも思わなかった。DIKくん(男性器を意味する『DICK』をシンボルにしたモンスター!)のバスマットが欲しいから俺の写真と交換しよう』って言ってくれて...。高校生のときから持ってた写真集にもサインしてもらって、あれはすごいテンション上がったよ」

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彼女は年に1回、ギャラリーで個展も行う。こちらは2017年に開催された「OMOTESANDO ROCKET」での個展の様子


他にも、壁にペイントをしているからこそ、自分が知られていると感じる機会は少なくないという。

「『San Francisco Peaks』で2回目のペイントをしてるとき、絵が描けないほどいろんな人に声を掛けられたの。小学生から『通学路なんでずっとこの絵見てますよ』とか、隣のビルのオーナーさんから『この絵、子供たちに人気だよ』とか言われて。普段アートに触れないかもしれない人たちからの反響を感じると、自分のミューラルが地域に根付いてるんだって思えて、嬉しかったな。表参道・原宿って若い人が何かやりたいことに気付ける街だと思ってて。そんな街に私の作品が当たり前にあって、普段は気にしないけどいつの間にかちょっと影響を受けてるっていうような存在になれたらいいかな」

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Lyさんと新作の女の子。この子の正体は「まだ秘密」とのこと

ミューラル制作や個展を通して、自分自身、そして作品であるモンスターもこの街で育っていると話すLyさん。きっと今日も『私に描いてほしそうな壁はないかな』と探し歩くのだろう。オモハラで暮らす人々は、ぜひ、この街で見かける黒いモンスターと彼が過ごす世界の移り変わりを、温かい気持ちで見守ってほしい。

Text:Takeshi Koh
Photo:Mizuki Aragaki

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