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乙女ゲームの元祖「アンジェリーク」が誕生した理由

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All images and photographs courtesy Koei-Tecmo

 

1994年、10代の女の子をターゲットにした新しいタイプのスーパーファミコン・ソフト、『アンジェリーク』が発売された。開発を担当したのは、当時、コーエーが組織した新たなチーム〈ルビーパーティー〉だ。『アンジェリーク』のプレイヤーは、宇宙の次期女王候補として選抜された女子高生を操る。そこに登場する、宇宙と女王を護るために集められた美少年〈守護聖〉9人が主人公を支えるために能力を発揮する。主人公がコンテストでの勝利を目指して、大陸を開発するなかで、守護聖のサポートが愛情の度合いに応じて高まる。主人公が9人のうちのひとりと関係を深めて女王の座を諦めるか、神聖な使命のために女王の座につくか、判断するのはプレーヤーだ。

『アンジェリーク』は、若い女性を対象にした〈ロマンス・シミュレーション・ゲーム〉で、〈乙女ゲーム(otome games)〉の元祖だ。現在、このジャンルは殷賑を極め、日本では、毎年、数多のヴィデオ・ゲームが発売され、スマホ・ゲームに至っては、数え切れないほどのタイトルがカタログに並ぶ。

乙女ゲームの〈乙女〉は、少女、もしくは、処女に由来する日本語で、同ジャンルのオーディエンスを明確に表明している。ヴァーゴ(Virgo)を日本語にすると〈乙女座(otome-za)〉であり、それは、処女性、純粋さを象徴する単語だ。それゆえ、このジャンルが根本的に強調しているのは、少女漫画と同じく、〈純愛〉なのだ。こんにちの乙女ゲームは、一般的に、物語を重視したゲームで、複数の男性とのロマンティックな関係を追求するプレーヤーを対象にしている。

乙女ゲームは、侍劇からSFにまでテーマを広げ、ときには、RPG、もしくは、シミュレーション・ゲームの要素も取り込む。『薄桜鬼 ~新撰組奇譚~』といったゲームは、日本国外で徐々に人気が高まりつつあるが、全ての始まりである、『アンジェリーク』を開発した画期的なチーム〈ルビーパーティー〉についての英語話者がアクセスできる情報は、ほとんど見当たらない。

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Keiko and Yōichi Erikawa. Courtesy of Koei-Tecmo

〈ルビーパーティー〉は、1990年、襟川恵子の発案によりスタートした。彼女は、1978年、夫である襟川陽一、またの名を〈シブサワ・コウ〉の光栄(KOEI)創業をサポートし、2002年まで、同社のエグゼクティブ・ディレクターを務めた。1983年、『信長の野望』を発売した頃、コーエーの開発チームに女性スタッフはひとりしかいなかった。襟川恵子は、ゲーム開発に女性が携わり、女性が対象のゲームを増やすべきだ、と女性スタッフ採用を促した。

女性的観点で、それまでとは違うゲームを創るべく、コーエーは、新たなチームの編成を目指して女性スタッフ採用に勤めた。しかし、『アンジェリーク』20周年を記念するファミ通のインタビューで、襟川恵子は、プログラミングの知識がある理系女性はほとんどおらず、人文系の女性ばかり採用した、と語っている。「女性スタッフがゲーム作りに慣れるまでに、時間はかかりました」と彼女。「当時は当たり前でしたが、採用した方はみんな、ゲームをつくったことがありませんでしたので」。その結果、コーエーが積極的な女性採用を推し進め、『アンジェリーク』を発売するまでに10年以上を費やした。

『アンジェリーク』のストーリーとキャラクターのアイディアは、かなり早くから固まっていたのだが、「...ゲームとしてみたら、ぜんぜんおもしろくないはなしになっちゃって(笑)」と襟川恵子は回想する。そんななか、ゲームづくりのノウハウを活かし、『アンジェリーク』を名作たらしめたのは、彼女の夫、襟川陽一だった。プレイヤーは、主人公を競わせ、守護聖の協力を得て自領を開発し、さらに、恋愛シミュレーションも楽しめる。こうして、「ロマンス・シミュレーション・ゲーム」が生まれたのだ。

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Angelique Retour, a 2015 remake of the original.

『アンジェリーク』は、女性向けの新しいタイプのゲーム、と賞賛されたが、すぐにヒットしたわけではなかった。コーエーは、女性に、この新しいタイプのゲームを紹介する術を模索しなければならなかった。襟川恵子によると、そんな逆境のおかげで、『アンジェリーク』は、端から、メディアミックスの恩恵を授かったという。日本のメディアにおいて、メディアミックスは、歴史的にもごく当たり前の手法だ。例えば、漫画ひとつとっても、アウトプットは、漫画だけでなく、アニメ、オーディオ・ドラマ、ビデオ・ゲーム、関連商品など、多岐にわたる。

不幸にも、スーパーファミコンのソフトとしてリリースされた『アンジェリーク』では、声優を起用しておらず、その世界観とキャラクターを伝えきれなかった。しかし、ドラマCD、漫画、声優を起用したイベントを通じて、さらなる物語を展開し、キャラクターに声を与え、ゲームに足りなかった要素を補うどころか、ゲームの世界観を発展させたのだ。たとえゲームソフトの売上が芳しくなくとも、こういった企画が『アンジェリーク』に新たなプレーヤーを引き込み、従来のファンをさらに虜にした。

そんななかでも、『アンジェリーク』と少女漫画は、切っても切り離せない。ヴィデオ・ゲームをプレイしたことのない少女たちを取り込むために、ルビーパーティーは、一般的な少女漫画的美学と文法を利用した。同ゲームは少女漫画に影響力されており、実際、キャラクター・デザイナーの由羅カイリは、『アンジェリーク』の主人公を1970年代の少女漫画『キャンディ・キャンディ』のキャンディになぞらえるよう指示されたという。その結果、ゲームの主人公はキャンディのような、金髪の可愛らしい少女になり、赤い洋装を纏ったのだろう。もちろん、主人公の部屋はピンクだ。さらに、これまた少女漫画の鉄板である、ギリシャ神話にヒントを得た守護聖は、由羅カイリの優雅な画風により、ゲームのなかで活きいきと輝いている。

ルビーパーティーは、コーエーテクモの女性向け〈ネオロマンス〉プロジェクトのもと、たくさんのゲームを開発した。ルビーパーティーとネオロマンスは、ほぼ同義で、宣材のなかでも互換性をもって扱われる。ネオロマンス・ゲームのなかでも、RPGの要素が盛り込まれたファンタジー・乙女ゲーム・シリーズ『遥かなる時空の中で』、音楽科のある学校が舞台の乙女ゲーム・シリーズ『金色のコルダ』が有名だ。

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Mei Erikawa. Courtesy of Koei-Tecmo

〈ネオロマンス〉は、比較的ストレートな名前だが、〈ルビーパーティー〉という名前には、どんな意味が込められているのだろう。現在、ルビーパーティーのブランド長を務める襟川恵子の娘、襟川芽衣は、チーム名にもある〈ルビー〉という言葉の多義性が重要だという。宝石の女王であり、〈情熱〉〈純愛〉の象徴である〈ルビー〉は、彼女たちがつくろうとしているゲームを、完璧に喩えている。〈パーティー〉では、RPGにも登場する仲間の集まりであり、ルビーのような女性がチームのメンバーだ、と表明している。ルビーのようなファンのために、新しいゲームのジャンルを切り拓くチームにうってつけの名前だ。

コーエーテクモは、まだ、ルビーパーティーのゲームを英語でリリースしていないが、『アンジェリーク』のタイアップ・アニメ、漫画は、英語化されている。2017、2018年に同社が発表したインタビューで、襟川芽衣は、新たなメディアミックス開発、ネオロマンス以外のコンテンツ開発、ネオロマンスのアジア各国での展開について言及している。これは、近い将来、英語版のルビーパーティー・ゲームが発売される可能性を示唆しているのだろうか。2015年のPS vita版『アンジェリーク ルトゥール』の英語版をリリースすれば、英語話者の乙女ゲームファンにアンジェリーク・シリーズを紹介するまたとない機会になるはずだ。

1980年代、企業の開発環境は、特に日本では、女性にとってとても厳しかった。そんななか、襟川恵子は、献身的に、ゲーム業界に新たな潮流を導入した。コーエーテクモには、絶大なる影響力を誇るルビーパーティーのゲームを世界規模で流通させていただきたい。日本国外にも、熱狂的な乙女ゲームファンがいるのだから。

「会社の中では、『市場が小さいから、女性向けのものを作っても売れない』という意見もあった』と襟川恵子は回想する。「私は『市場はある』と考えていました。その考えを貫いてよかったと思っています」

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