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起業家に対する3つの勘違いと、たった1つの真実

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最近の日本は以前にも増して、行政レベルでスタートアップを育成する動きが多く見られる。実際自分も、いくつかのプログラムでメンターをさせていただいている。

専門はデザインであるが、もともと起業家とスタートアップが多いサンフランシスコ地域で経営していることもあり、スタートアップサービスの作り方や育て方もそれなりに理解しているつもり。

そんなこともあって、以前より学生向けのピッチコンテストからグローバル起業家育成プログラムまで、多くのスタートアップ育成に関わる事業に関わってきた。

メンタリングの際には、自分自身の経験をもとに、日本の起業家志望の方々に対して、まず伝えるようにするのは、

僕は君が起業家になることをオススメしない

である。

何言っちゃてんの?と感じるかもしれないが、これにはいくつか理由がある。

心が壊れてしまった十代の子達

複数のスタートアップ系イベントの中でも、高校生や大学生を対象とした起業家育成プログラム的なものも幾つかかある。このようなプログラムでは、起業家になることが素晴らしいという雰囲気が作られ、参加者に起業家を目指すことを期待する。

そんなプログラムに参加した十代の何名かが実際にサービスを作り起業をした。そして周りからは賞賛され、いくつかのイベントでも表彰され、メディアでも派手に祭り立てられた。

その後ビジネスを進めていく上で、お金の事やチーム作り、人間関係での困難に直面し、悩み、苦しみ、そして続けられなくなっていった姿を何度か目の当たりにもした。

これらの試練は起業家としては誰もが通るが、感受性が高い十代の若者にはかなり酷な状況だっただろうと想像ができる。

最初は周りの大人におだてられ、サービスが評価され、起業したことで注目を浴び、自己肯定感はMaxになる。

しかし、いざ上手くいかなくなった場合は、聞かされていたキラキラ世界とのギャップと、チームメンバーを含めた周りの人たちの態度の変化に当惑するだろう。そして、起業家という特性上、一人孤独に悩み苦しみ、諦めることになる。

失敗した際のサポートが提供されていない状態で十代の若者がこのような状態に陥ると、最悪の場合、心が壊れてしまう危険性がある。

起業 or 就職?

いくつかの日本の学生向けのプログラムに支援側として協力したことがあるが、その内容が色々な意味で、結構ガチなのである。参加者が自己紹介する時に、今後の進路として起業するか就職するかを宣言させるものもあった。

「僕は起業します。」「私は就職します。」と、まるで「ビーフ or チキン?」の勢いで宣言してるのは少し違和感を感じる。

まだまだ将来何をしたいかが決まっていない段階で進路を決めるのは、はっきり言って難しい。その段階で起業家になるというプレッシャーをかけ、選択肢を狭め、自分を追い込む必要はない。

やりたいことが見えてきて、それを達成するための手段としてスタートアップを始めるのがよければそうすれば良いだけで、そのタイミングはいつ来るかもわからない。

いたずらに起業家をヒーロー扱いする危険性

起業家を増やそうとする取り組み自体は非常にすらばらしいと思うし、国の将来にとってもポジティブな影響があるだろう。

しかし、場合によっては、少し起業家を美化しすぎているきらいもある。これは、起業家が少なかった日本における”よりもどし”なのかもしれないが、スタートアップや起業家にきらびやかなイメージを与え、誰でも起業しろ、などとあおるのは危険だと思う。

最近流行りの「みんな起業しろ」はかなり無責任に感じる。若くて起業しただけで注目が集まる。しかしその後、祭り上げるだけ祭り上げて、上手くいかなかったらストンと落とす文化においては、起業家の精神的リスクもかなり高いだろう。

多くのスタートアップは、外から見えるグラマラスなイメージとは裏腹に、その中身はかなりドロドロとしている。成功率が10%以下と言われるかなり厳しい世界では、上手くいく方が珍しい。

それだけ覚悟と理解が必要だろう。もしくは、多少失敗してもあまり気にしないお気楽さを持ち合わせているとか。だから、誰でも起業するべきではないし、起業しただけで安易に持ち上げるのも良くない。

起業家には向き不向きがある

そもそも起業家はとても特殊な仕事内容で、誰にでも向いているわけではない。実際、全人口の起業家率はわずか8%である。

起業家に向いている人は、やはり少し変わったところがあるし、一般的な価値観を持ち合わせていない人も多いように感じる。言い換えると、それほど珍しい存在。なので、周りとは感覚が合わず、自ずと孤独になる可能性が高い。

イノベーターと呼ばれる人たちは物事を違う角度から見る。スティーブ・ジョブスの言葉を借りると、クレイジー、反逆者、変わり者なのである。

シリコンバレーの著名投資家であるロン・コンウェイも下記のように語っている。

起業家には生まれつきの向き不向きがあると思っている。僕が思うに起業家に向いている人は起業家の遺伝子を持っており、一生起業家として生きていくだろう。一度起業してその後大企業に普通に勤められるケースはとても少ない。

>>エンジェル投資家の裏側教えます【インタビュー】シリコンバレーのスーパーエンジェル投資家: ロン・コンウェイ

起業家はメンタル的にもかなりタフな仕事

実際のリサーチ結果を見てみても、起業家がどれだけメンタルにキツい仕事かがわかる。

米国国立精神衛生研究所の調査によると、起業家の72%がメンタルヘルスの問題から直接的または間接的な影響を受けている。これは、非起業家の48%と比べると非常に高い数字である。

また、カリフォルニア大学が行った調査によると、起業家の49%がADD、ADHD、双極性障害、依存症、うつ病、不安症のどれか一つを患っており、約1/3がこの2つ以上を患っているとの結果が出ている。これは、アメリカにおける全体の割合から見ても高い数字だ。

また、同大学バークレー校のマイケル・フリーマン教授によると「エネルギッシュでモチベーションが高く、クリエイティブな面を持つ人は、起業家になる可能性が高いと同時に、強い感情を持つ可能性も高い」とのこと。その結果、メンタルがやられる人も少なくない。

起業家と一般的な人々の精神疾患の割合
起業家と一般的な人々の精神疾患の割合

起業家はその立場上、誰にも相談できないことも多く、一人で乗り越えなければならないことばかりである。スタッフには常にポジティブな態度でいなければならないし、日々の仕事ぶりをこまめに褒めてくれる存在も少ない。なのに、上手くいかない場合は、全て自分が責任を負わなければならない。

経営者が孤独と言われるのも理解できるだろう。

>>リーダーは本当に孤独なのか?

日本での起業家の扱いに疑問を感じる

10数年前と比べると、日本もスタートアップを取り巻く環境がかなり改善されてきている。投資家やサポーターも増えたし、上場する会社の数も右肩上がりだ。起業家のイメージも爆上がりだろう。

その一方で、上手くいかなかった場合のセーフティーネットはまだまだ足りない気がする。場合によるが、敗者としてレッテルを貼られたり、借金を背負わされたり、就職先がなかったり、社会的に葬られたりすることもまだある。

参考: 東京でスタートアップイベントに参加して感じた事

日本とシリコンバレーにおけるスタートアップを取り巻く状況

もう一つ考えなければいけないのは、スタートアップを取り巻く状況だ。特に日本だと、まだまだその状況は良いとは言えない。もちろん以前よりは改善されているが、決して恵まれているとは言い難い。

下記は、経団連副会長の南場智子氏による資料の抜粋になる。

日本のスタートアップをめぐる負の循環
日本のスタートアップをめぐる負の循環

これを見てもわかる通り、サポートは少なく、リスクとリターンの割りが良くないことから、依然として負の循環が起こっている。

参考: 日本からグローバルなプロダクトが生まれにくい5つの理由

一方でこれがシリコンバレーの場合は、下記のようなポジティブサイクルが生まれていると考えられる。

シリコンバレーのスタートアップをめぐる正の循環
シリコンバレーのスタートアップをめぐる正の循環

起業家に対する3つの勘違いと、たった1つの真実

そもそも、ここで基本的なポイントとして、”なぜ”起業するかを考えてみよう。というのも、実は多くの人が誤った目的で起業しているからだ。

起業目的として、よく聞くのが 1. お金を儲けたい、2. 決定権が欲しい、3. 自由な時間に仕事をしたい。である。しかし、これはらすべて間違っている。

勘違い1: お金を儲けたい

起業する目的の中でも最も多い理由の1つ。特に最近だと、ユニコーン企業や大型IPOでファウンダーが大金持ちになるニュースを見る事もあり「自分も一発当ててやろう」という思いで会社を興すケースもある。

しかし、もしそれが目的なのであれば、やめた方が良い。そもそも自分で会社を始めるのはワリに合わない。新しいビジネスの実に、95%から99%が失敗すると言われる中で、金儲けを目的に起業するのは、単純にROIとしての計算が合わない。

そもそも、計算が苦手なら起業するのにはあまり向いていないし、もっとお金が欲しいという理由なのであれば、待遇の良い仕事に就いたの方がよっぽど目的が達成されやすい。

勘違い2: 決定権が欲しい

企業のいち従業員として働いていると、上司の指示に従わなければならないことも多く、自分で決められることにも限界あると感じる事も多いかもしれない。

これがもし自分の会社であれば、最高責任者として自分で決断ができる。そう感じて自分の会社を始めたいと思っている人もいるかもしれない。

しかし、CEOになればあらゆる決定権が持てるのであろうか? もちろん、会社のトップになるわけだから、そう思うかもしれない。

でも現実は全く違う。上司を持ちたくないという理由で起業しても、実はスタッフや、お客様、そして投資家、株主の方々が上司になってしまう。常に自分の周りの人々に根気よく説明をし、理解を獲得することに相当のエネルギーを費やす。起業家は、周りの人たちのサーバントとして仕事をすることになるだろう。

勘違い3: 自由な時間に仕事をしたい

自分の会社なのだから、自分のスケジュールは自分で決められる。これも起業家の醍醐味のように感じるかもしれない。まあ、間違っていない。誰からも指示を受ける事なく、自由に働くことが可能になる。

そう、一日20時間、自分の好きな時にね。

起業家になるたった1つの正しい目的

では、どんな目的があれば起業家になるべきなのか。実はその理由は1つしかいない。その答えは”

– 世界を変えたい –

そう。起業家という身体的にも精神的にも大きな負担がかかり、その割にはリスクが非常に高く、リターンもかなり少ない。

そんなワリに合わない立場になる唯一の目的は、素晴らしいチームを作り、優れたプロダクトやサービスを通じて世の中を変えたい。実はそれしか無い。逆に、そうでなければ起業する意味なんてない。

>>Youはなぜ面倒な起業家なんかに?

だったら君もやる方に入ったら?

ここまで説明して、僕が本当に伝えたいのは、“僕は君が起業家になることをオススメしない”と言われても、それでもやる人でないと続けられない世界であるということ。

これは、どの世界でもそうだと思うが、トップレベルで成功した人のその多くが、最低でも一度や二度は「そんなの無理だ、やめとけ」と言われた経験を持っている。

でも、それでもどうしてもやりたいぐらいの強い熱意がある人だけが一流として生き残れる。特にビジネスの世界は、孤独で、厳しく、理不尽である。それでも、どうしても起業家になりたい人だけがなったほうが良い。と僕は思う。

参考: 日本でイノベーションが生まれにくいと思った3つのポイント

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