先日、こちらのツイートに対して多くの反響をいただいた。
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その中でも
“これは本当にできているのか?本当のフェイクではないのではないか?顔だけではないか。前から似たようなものもあった。”
といった内容のコメントもいただいた。
ちなみに、この動画は香港のパンテオンラボというスタートアップが自分達の技術のプロモーション用に製作した技術デモである。
その技術レベルの真偽は謎のままであるが、それがかなりスタートアップっぽいなと思った。
“Fake it till you make it”
というのも、実は多くのスタートアップは初期段階で “出来ている風” の動画やプロトタイプをリリースすることが多い。
「AIによる完全自動化」や「独自のアルゴリズム」などのフレーズが飛び交うが、実はその裏では人力で動かしていたり、全く技術開発が追いついていないケースも実は少なくない。
しかし一方で、シリコンバレーを中心に、スタートアップの人たちの間では “Fake it till you make it (実現するまでハッタリをかませ)” という言葉があるほど、ある意味日常茶飯事でもある。
例えば、表面的にはAIによるチャットボットのように見せていて、実際は裏で人間が動いてる。なんていうことも頻繁に聞く話である。
これまでにもFake itフェーズを経験しているスタートアップがいくつもある。そんな中でも代表的な例を紹介する。
注: 我々がハッタリを推奨しているということではなく、あくまで、スタートアップを成功に導くための考え方の一例として、過去の事例から学べるエッセンスを参考にしていただければ幸いだ。
- パソコンがないのに開発案件を受注したマイクロソフト
- ”一生、砂糖水を売るか世界を変えるチャンスに賭けるか”
- めっちゃクールなデザインの指輪でピッチ大会優勝
- ストアの全てのパソコンにPinterestを表示
- 海賊版配信から正規ライセンス配信で大成功したクランチーロール
- 筋金入りのハッタリだったセラノス
- 運営チームがサクラだったマッチングアプリ
- 存在しないサービスをLP+PPCで市場テスト
- 身に付けたい技術を履歴書に羅列した某CEO
パソコンがないのに開発案件を受注したマイクロソフト
世の中にパソコンというものが普及すると考えていたファウンダーのビル・ゲイツとポール・アレンは、パソコン製造メーカーのMITS社に営業電話をかけ、ソフトウェアの重要性を売り込んだ。
その当時、彼らはMITS社のパソコンを所有しておらず、ソフトも全くできていなかったにも関わらず。
結果的にその後2人は大学のPCを利用し、8週間でBASICを作り上げ納品に成功した。
ギリギリで帳尻を合わせた有名な事例だ。
”一生、砂糖水を売るか世界を変えるチャンスに賭けるか”
Appleがスタートしてまだ5年しか経っていないにも関わらず、ペプシコの敏腕CEOを引き抜いたジョブス。
その時に彼に言ったのが
“このまま一生、砂糖水を売り続けるのか、それとも世界を変えるチャンスを見たいですか?”
まだまだ小さな会社だったのにも関わらず、ビジネス界の大先輩にこんな大口を叩いたのも、なかなかだ。
めっちゃクールなデザインの指輪でピッチ大会優勝
我々ビートラックスは以前、日本のスタートアップ向けにサンフランシスコでピッチイベント (SF Japan Night) を開催していた。
その際に日本で予選会を行っていたのだが、第5回大会では、指輪型のIoTデバイスをクールにプレゼンしたRingが優勝した。
ファウンダーの吉田くんが、洗練されたデザインの指輪を振りかざすだけで、メッセージを送れたり、改札を通れたりするデモを披露。そのクールさゆえに、会場が大いに盛り上がった。
しかし優勝後にわかったことが、実はそのデバイスはピッチ当時 “がわ” だけであり、テクノロジー自体はまだまだ開発中であったということ。
そして、製品化したプロダクトもデモ版とはかなり違うものがリリースされた。
ただ、スタートアップではピボットやデザインの変更は日常茶飯事。むしろユーザーに向き合い、改善を進めている印でもあることは、この場で改めてお伝えしておきたい。
ストアの全てのパソコンにPinterestを表示
ハッタリを一番活用しがちなのが、スタートアップの立ち上げ時期。それぞれがユニークな手法でユーザー獲得をする中でも、Pinterestが行った施策が面白い。
最初は、ファウンダーのベンがサービスを友人や家族に知らせ、彼らがユーザーとなった。そしてその後、連日複数のパソコンストアに通い、置いてあるパソコンのブラウザーにPinterest.comを開いたままにしたことで、知名度を上げたのだ。
海賊版配信から正規ライセンス配信で大成功したクランチーロール
次は、カリフォルニア州立大学、バークレー校に通うアニメ好きの若者たちが投稿サイトを立ち上げたクランチーロールの事例。
当時は日本アニメのファンサブが中心に投稿され、その多くが法的には著作権を侵害する内容であったが、サイトは急成長を遂げていった。
その後、日本法人を設立し、アニメ会社と提携について交渉を開始。自サイトの違法動画を削除、動画投稿サイトにおける違法投稿の検出ソフトの提供などを行い、テレビ東京や、GDH、東映などとも契約を結ぶまでに至った。
その後も成長を続け、現在ではソニーグループの傘下に入り、世界ユーザー数は1億2000万人(有料会員500万人)を誇っている。
筋金入りのハッタリだったセラノス
おそらく今まで最も壮大なハッタリスタートアップといえば、セラノスだろう。
セラノスのサービスは、たった数滴の血液検査を通じて手軽にユーザーに対して30項目の検査を可能にするというコンセプト。当時19歳だった女性起業家、エリザベス・ホームズにより2003年に創業した。
彼女は、女性版ジョブスと言われるほどのカリスマ性を武器に、多くの著名人とのコネクションを構築。そしてそれを活用することで世の中に”夢を見させる”ことを可能にした。
セラノスは、医療業界や投資家から大きな注目を集め、シリコンバレーの大手VCの数社をはじめ、オラクルの創業者からも投資を受けた。最終的には会社は90億ドルの評価額となり、7億ドル以上もの資金を集めた。
そして社外取締役にも元国務長官、元国防長官、労働省長官、国務長官、海軍提督や上院議員などを揃え、でアメリカのドラッグストア大手ともパートナーシップを結んだ。
しかし、内部からのタレコミもあり、実はハッタリだらけの内情をウォール・ストリート・ジャーナル紙にバラされてしまった。
その結果彼女は刑事告訴を受け、裁判で有罪になったのだ。
運営チームがサクラだったマッチングアプリ
以前に我々が日本のマッチング系アプリに対する支援を行っていた頃、出来たばかりのサービスをテストしてみようと思い、使ってみた。
そのアプリは相手とメッセージを送り合い、マッチして初めて写真と名前が表示される仕組みだった。
マッチしたユーザーが見つかった!と思った束の間、その相手がまさにそのスタートアップの運営スタッフだったのだ。その時はお互いかなり気まずい雰囲気になった。
存在しないサービスをLP+PPCで市場テスト
実はハッタリ作戦は、プロダクトの方向性が決まってない時にも利用可能。
シリコンバレー界隈のスタートアップでは定番となっているのが、その実現性は一旦無視して、複数のプロダクトコンセプトを出すこと。
それぞれに対しての理想的なキャッチコピーとビジュアルを掲載したLPを作成し、それに連動するWeb広告を走らせる。
その結果を見て、最も反応の良かったコンセプトを採用することで、プロダクトの成功率を上げるという手法だ。
身に付けたい技術を履歴書に羅列した某CEO
最後は自分自身の体験。学生で駆け出しデザイナーだった頃、どうしてもプロのデザイナーになりたかったため、必要とされるスキルを片っ端から履歴書に書いた。
もちろん、複数のプロジェクトを受注できたのだが、できるふりをしていたため、それがバレないように必死にスキルを身につけた。
また、どうしても自分だけでは解決できない場合は、大学の先生に手伝ってもらったりもしていた。
たまにはハッタリもありな5つの理由
このような感じで、何かを始めた直後は特にハッタリが必要になる。
実はビートラックスでも、立ち上げ直後、ある会社との大きな仕事を発注するために、自宅をオフィスにしていたにも関わらず、アパートの外観を良い感じで写真に収め、クライアントに「オフィス写真」として送ったことがある。
そんな感じでハッタリが効果的な5つの理由を紹介する。
1. ユーザーの間で話題になる可能性が高まる
今回のデジタルモデルのバズもそうだが、そのコンセプトが面白ければ、実現可能性は抜きにして、まずはユーザー間で話題になり、成功への第一歩に繋がる。
2. メディアに注目される可能性が高まる
ユーザーが話題にすれば、メディアも注目し、取り上げてもらう機会も増えてくる。初期の頃はどうしても露出への課題があるため、これは貴重な機会になりうる。
3. ビジョンが可視化される
スタートアップのビジョンは言葉で語るよりも、プロダクトを使ってもらう方が理解されやすい。
それもユーザー体験そのものがビジョンに直結するので、一定の効果は見込めるかもしれない。
4. ユーザーはコアテクノロジーを重要視しない
そもそも、ユーザーが裏のテクノロジーがどうなってるかなど、そこまで気にしないことが多い。
AIを使っていると書いてあれば多くの人は「そうなのかなー」と感じる程度というのもまた現実だろう。
5. バレる前に実現するために必死になる
そして、ハッタリが最も効果を発揮するのが、実現までの時間短縮。
方向性が可視化され、その上周りからはできると思われているため、バレる前に早く実現しなきゃ、と勢いが増す。
日本は「正しさ」の追求をしすぎるのかも
ここまでハッタリに近い施策の効果を我々を含む複数の事例とともに語ってきたが、どうしても少しでも嘘があると許さない日本の文化的にはやりにくい。
特にネットでどんどん真実が明るみに出やすい現代では、フェイク耐性が低い国民性になってしまってるのは否めない。
その一方で、スタートアップの初期の頃は特に、他社との差別化のためにリスクを取る必要があるだろう。
多くの起業家がそうであるように、どこまでクレイジーになれるかで将来が変わってくる。
Brandon K. Hill(ブランドン・片山・ヒル)
Founder & CEO
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