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タイ政府が大麻草100万本を無料配布 ─ その裏事情とは

2022年4月20日、バンコクでマリファナデーを祝う4/20ラリーに参加する男性。PHOTO: MANAN VATSYAYANA / AFP

2022年4月20日、バンコクでマリファナデーを祝う4/20ラリーに参加する男性。PHOTO: MANAN VATSYAYANA / AFP

タイ政府が大麻草100万本を無料配布 ─ その裏事情とは

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VICE Japan

大麻に対する超進歩的なアプローチで、世界中で大きく報道されたタイ。しかし、現地の実情はかなり複雑だ。

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By Koh Ewe Translated By NozomiOtaki

もしパット・ティカナロン(Pat Taechanarong)の予想通りに事が運べば、タイのバンコクは彼が思い描く〈アジアのアムステルダム〉になるかもしれない。

起業家のパットが2021年10月に共同創設したタイの大麻販売店〈Bloom〉は、CBDオイルから食用ゼリー、美容液まで幅広い製品を扱っている。このような企業は1年前のタイには存在しなかったが、もしこの国の大麻産業が今後数年間、彼の期待通りに発展し続ければ、ありふれたビジネスになるだろう。

「さまざまな生活スタイルのあらゆる年齢のお客さんに商品を提供しています」と彼はVICE World Newsに語った。「たくさんのひとが法の改正にワクワクしていますよ」

パットの言う法の改正とは2018年12月、タイが医療用大麻を合法化して世界的なニュースになったことだ。そして2022年2月、大麻を国が定める麻薬リストから除外することが発表され、タイは事実上、アジア初の大麻の非犯罪化国家となった。

2022年5月上旬、タイの大麻へのアプローチに関する最新ニュースが発表された。アヌティン・チャーンウィラクン(Anutin Charnvirakul)保健相が、6月9日以降に市民に大麻100万本を無料配布するとFacebookに投稿したのだ。この日、タイでは家庭での大麻栽培が無制限で可能となった。

しかし、一見先進的なアプローチによって、タイは理論上、世界でも有数の大麻先進国となったにもかかわらず、大麻を使用したい人びとにとって、現実は想像以上に複雑だ。

6月の大麻草解禁には厳しい条件が伴い、許可されるのは医療目的の医療用大麻の栽培だけだ。さらに、市民による栽培が無制限で可能になったものの、たとえわずかな量でも娯楽目的での使用は違法なため、自ら栽培した大麻を使うことは許されない。向精神作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)含有率が0.2%を超える大麻は、今も麻薬リストに掲載されたままだ。

「(ハイになることは)これまでもずっと違法でしたし、家庭で栽培できるようになったとしても、この先合法化されることはないでしょう」と大麻専門のコンサルティング会社〈Elevated Estate〉のCEOで、長年タイでの合法化を提唱してきたキティ・チョパカ(Kitty Chopaka)はVICE World Newsに語った。家庭で合法で栽培できる多量の大麻の使用を、当局がどのように取り締まるのかは不明だ。

「タイの大麻合法化にまつわるニュースが世界中に広まった結果、国内での関心が高まり、需要を創出しています……この需要が合法市場で満たされなければ、それはどこに向かうと思いますか?」

一見矛盾しているようにも思えるこの規制は、多額の利益(タイ政府の試算では年間100億バーツ/約374億円)を見込める大麻市場への足がかりを得たいものの、国内で大麻の消費文化を発展させることには消極的というタイ政府の相反する思惑を示唆している。

キティは、この規制の曖昧さによって、グリーンラッシュ(※大麻合法化による大麻ビジネスの発展)に便乗しながらもウィード販売までには至らない、大麻関連ビジネスのグレーゾーンが生まれたと語る。

「簡潔に言えば、これがタイの大麻業界の仕組みです。利益を生むのは、大麻草に直接触れるビジネスだけとは限らないのです」とキティは大麻を含まない製品も販売している地元の大麻関連企業に言及した。「私たちは許可されている合法の範囲内で遊んでいるのです」

キティは大麻草をはじめとする多様な植物に含まれる自然由来の成分、テルペン入りのグミを販売する〈Chopaka〉の創設者でもある。キティによれば、Chopakaのグミに含まれるテルペンは、ハイになることなく、空腹感や眠気のコントロールなど、大麻に似たさまざまな効果を発揮するという。さらに、性質は大麻に似ているものの、これらのグミにはTHC(テトラヒドロカンナビノール)やCBD(カンナビジオール)が含まれないため、タイの食品医薬品局の認可も得ている。

このようなクリエイティブな発想は、タイの他の新進気鋭の大麻企業にも見られる。2021年1月、〈Good Mood Pizza〉や〈Giggle Bread〉などを提供する国内初の合法のウィードカフェがバンコク郊外にオープンした。これらのメニューには大麻草を模した緑色の葉が飾られているが、THCはごく微量しか含まれない。法定許容量を超えないよう、カフェでは大麻の蕾の使用を控えている。

タイ政府は国内での大麻使用の条件を厳格に定めるいっぽうで、自由化の経済的利益を享受しようとしている。アヌティン保健相は長年、自身が所属する〈タイの誇り党〉のキャンペーンの一環として、大麻合法化を推し進めてきた。タイ誇り党は、元陸軍司令官で現首相のプラユット・チャンオチャ(Prayuth Chan-ocha)が率いる保守派の与党だ。キティによれば、大麻草の無料配布はアヌティン保健相による大衆受けを狙った政治工作のひとつに過ぎず、政府は麻薬使用の自由化による社会的影響を最小限に抑えながら、大麻の経済的利益を享受しようとしているという。

アヌティン保健相が今年3月、2019年はじめの医療用大麻の合法化以来、70億バーツ(約262億円)もの利益があったと発表したことからもわかるように、タイの大麻産業が莫大な利益を生むことはすでに証明されている。数ヶ月前には、ある政府職員がマリファナ・フレンドリーなイメージによって観光者の再来を見込み、大麻を低迷する観光産業を活性化するためのタイの〈秘密兵器〉と呼んだ。

しかし、タイ当局が大麻を純粋な商品作物に位置付けようと躍起になっているなかで、大麻の大規模栽培の推奨と娯楽使用の禁止の間の緊張は頂点に達したと主張する声もある。

「タイの大麻合法化にまつわるニュースが世界中に広まった結果、国内での関心が高まり、需要を創出しています」とキティは指摘する。「この需要が合法市場で満たされなければ、それはどこに向かうと思いますか?」

しかし、明確な計画がないにもかかわらず、政府による大麻の経済効果の熱烈な宣伝はすでに世論に影響を与え、政府が望まないであろう議論が巻き起こっている。キティによれば、現在、タイの人びとはかつてタブー視されていた話題を持ち出し、大麻使用にまつわるより広範な議論のための下地を作り、ドラッグの主流なイメージを変えつつあるという。

「彼らはもう大麻を恐れていませんし、それについて話すことも恐れていません」とキティは語る。「今まで以上に関心が高まり、他の何よりもそれが生み出す利益に注目が集まっています」

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