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21世紀の奴隷がつくった「自由の村」の真実

アザド・ナガルの採石場で石を割る女性。ALL PHOTOS COURTEST OF LAURA MURPHY

アザド・ナガルの採石場で石を割る女性。ALL PHOTOS COURTEST OF LAURA MURPHY

21世紀の奴隷がつくった「自由の村」の真実

アザド・ナガルの採石場で石を割る女性。ALL PHOTOS COURTEST OF LAURA MURPHY

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VICE Japan

いまだに何百万人が奴隷とされている世界で、少数の村人たちが主人を打倒したストーリーは、自由の代償に疑問を投げかける。

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By Arman Khan Translated By Ai Nakayama  TOKYO, JP

アザド・ナガルの採石場で石を割る女性。ALL PHOTOS COURTEST OF LAURA MURPHY

インドをはじめとする南アジア諸国では、現代でもさまざまなかたちで奴隷制が存在している。もっとも一般的なのは債務労働(bonded labor)と呼ばれる制度だ。雇い主から多額の借金をし、その法外な金利により返済不可能となった労働者が、わずかな給料で働かされる。どんなに長時間、勤勉に働いたとしても借金は返せない。なぜなら金利があまりにも高すぎるからだ。 

そうして何世代にもわたり終わりなき返済のループが続く。多くの場合家族総動員で働くものの、借金を完済できることはない。

現代の奴隷主は大抵広大な土地も所有しており、地元の行政機関を味方につけて、住民のヒエラルキーのなかで大きな権力を握っている。そのためシステムに反抗しようとする者への攻撃は非常に苛烈な、あるいは文字どおり命に関わるレベルとなる。買収された警察が力を貸す場合もある。

「奴隷制と聞いて私たちが思い浮かべるのは、ひとを所有物とする米国の奴隷制ばかりです」とVICEに語るのは、英国のシェフィールド・ハラム大学で人権や現代の奴隷制を専門に研究するローラ・マーフィー教授だ。「しかし私にとってもっとも衝撃だったのは、インドでは米国の奴隷制についてよく話されているのに、債務労働の話がほとんどされていなかったことです。誰よりも周縁化されたひとびとが、同時に誰よりも見えない存在となっているのです」

2000年、ウッタル・プラデーシュ州のソンバーサ(Sonbarsa)という村(のちにアザド・ナガル〈Azad Nagar :自由の村〉へと名称が変更される)の奴隷たちが団結し、勝ち目のないなかで信じられないほどの連帯を示した。彼らの多くは1830年代、植民地支配に対するものとしてはもっとも成功した蜂起とされている戦いで英国に挑んだコル(Kol)という民族の出身だった。その伝説的な反乱からおよそ15年後、マーフィー教授は村を訪ねた。平和的に終わったとされるこの反乱は、国際機関から「静かな革命」と称されている。

マーフィー教授に反乱の話を語るため集まった村人たち

しかしほどなくして教授は、実はこの反乱は「静か」でも、非暴力的でもなかったと知ることとなる。教授は自らが発見した真実を、最近上梓した『Azad Nagar: The Story of a 21st Century Slave Revolt』に記録している。

本書によると、この奴隷反乱の起源は多くの点で、あらゆる奴隷反乱において極めて重要な特徴、すなわちゴシップによる組織化に端を発することができるとされる。ソンバーサの反乱では、ウデイ・プラタップ・シング(Uday Pratap Singh)という農民によってその種が撒かれた。彼は近隣の村の出身で非常に貧しかったが、カースト上位であったために債務労働者となることは免れていた。

シングは頻繁に異性装の道化師を演じていたため、「カンチュキ(Kanchuki)」というあだ名で呼ばれていた。カンチュキとは、サンスクリット文学に登場するトランスジェンダーの人物の名前だ。シングはこのあだ名を名誉の証として受け入れていた。このあだ名は、彼の上位カーストのアイデンティティを覆い隠すものでもあった。愉快な道化師の仮面に加え、カーストを感じさせないあだ名をつけることで、彼は何の疑いも持たれずにコル人が暮らす貧しい農村地帯を訪れることができた。

「カンチュキは夜遅くまで滞在し、地主や奴隷主が眠っているあいだにコルのひとびとと会合を開いていました」とマーフィー教授。村人の多くが債務労働を運命として受け入れていたが、彼らが今どんな状況にあるかをカンチュキは認識させた。「彼は小屋から小屋へと移動し、労働者たちとともに暮らし、薄いマットで眠りました。私たちは彼の物語を通して、アクティビズムがどのようにカーストの障壁を超えて機能するかを理解することができます」

教授は、これはトップダウンのアプローチではないと明確にした。上位カーストが革命の起こしかたを指示したわけではない。確かにうわさが広まり、奴隷主への不満は高まった。そしてまもなく革命が起き、国際機関もまた、文字や資源を用いた労働者たちへの支援を開始した。しかしコル人たちは自分たちの要求を理解していた。それはすべての苦難の根源、すなわち土地の所有だ。

アザド・ナガルの女性たち

自分たちの権利について、そして苦しみの度合いについて村人たちに教えたカンチュキの最初の行動計画は、地元の刑事弁護士、アマル・サラン(Amar Saran)に協力を求めることだった。彼は当時、同州の債務労働者の自警団に所属していた。サランの最初の提案は、同地で歳入徴収官としての役割を果たしていた名ばかりの王に、彼の得ている利益はコル人の血と汗から不当に徴収されたものであり、彼らの多くは約30年ものあいだ債務労働者として奴隷扱いされている、と訴えることだった。

「王は彼らの証言に心を動かされたようで、租鉱権を与えること、そして労働争議を仲裁することを約束しました」とマーフィー教授。「しかし、王にはそれらを実行するための現実的な計画が全くないことが、まもなく明らかになりました。王はお金を稼ぐことが目的で、地主を通して非常にうまくやっていました」

サランは次に地方判事である県長官に嘆願したが、彼は当初、債務労働というものが実際に存在していることすら信じようとしなかった。しかしその思い込みは、実際に村を訪ねて霧散する。彼が見る場所すべてに奴隷制が存在していた。判事は、村の外にある小さな土地区画について、コル人自身が採掘できる場所だと認めた。

「それに対する抵抗は激しいものでした。自分たちの土地や学校、共同の井戸へのコル人のアクセスを、地主が雇った男たちが妨害しました。コルの女性たちが強姦されるケースもありました」とマーフィー教授は説明する。

悪魔の化身

革命に必要なのは英雄だけじゃない。悪役も必要だ。ソンバーサでの反乱において悪役となったのは、ヴィレンドラ・パル・シング(Virendra Pal Singh)。彼はその残忍さから、一部の地元民に「奴隷主の長」と呼ばれていた。ある女性がマーフィー教授に話した証言によると、あるとき彼女が労働を拒否すると、パル・シングは彼女の髪を掴んで引っ張り、彼のために石を砕くよう強要したそうだ。

「ある夜マントゥア(Mantua)という少女が仕事現場から帰宅していると、パル・シングに後を付けられ、レイプされかけた。少女が抵抗すると彼は彼女の家に火をつけ、彼女を殺害した」とマーフィー教授は前述の著書で述べている。

ソンバーサの奴隷主の残忍さについて国際機関に訴えるために弁護士のアマル・サランがしたためた手紙では、パル・シングの恐ろしい逸話が強調されていたとマーフィー教授は語る。しかし、コルのひとびとに火をつけたきっかけは、いつもの抗議運動の最中、パル・シングがカンチュキの顔を殴ったことだった。「お前はヤツらを自由にすべきだと言うが、そしたら誰が俺の土地で働き、誰が俺の石を砕くんだ?」とパル・シングは言ったという。

マーフィー教授の説明によると、「パル・シングと彼のいとこたちはコル人をレイプしたり、さらには殺害することもあった」が、コルのひとびとが許せなかったのは、パル・シングが「この心優しく穏やかな男に暴力を振るった」ことだった。彼の唯一の過ちが、村人たちの士気を高めたのだ。 

血まみれの革命

カンチュキ事件が明るみになると、大勢のコル人が地元のランガル寺院の近くに集まった。

パル・シングと彼のしてきたことはすべて罰せられなければならない。彼はあまりに長いあいだ、あまりに好き勝手をしてきた。その場には抗議の音楽や打楽器の音、地元の民謡が鳴り響いた。失うものは何もない。土地、家族、そして何より彼らの尊厳。地主たちはコル人にとって大切なものを、すでに何もかも奪ってきた。

その日の終わり、皆が家路に着く頃、パル・シングとその一味はコルの女性たちの後を追った。発砲で脅された女性たちは助けを求め、コルの男性たちは地主たちと戦うために駆けつけた。コル人50人に対し、パル・シング側は8人。勝負は明白だった。 

反乱が起こったランガル寺院の横の土地

そして戦闘の末、パル・シングは殺された。

警察はコル人に対する訴訟を起こした。ソンバーサは突然渦中に置かれることとなり、国際機関やメディアの注目がこの村に集まった。全世界の目が向くなかで、これまでと同じような債務労働は続けられるはずもない。そうして債務労働は、その誕生のときと同じように徐々に消滅した。

アザド・ナガルはその直後に形成されたが、コル人は復讐に燃えるパル・シングの家族と法廷で争うことになった。10年後、裁判所は最終的にパル・シングの殺害に関しては誰の罪でもなく、事故であったと結論づけた。

しかし、本当に自由は手に入ったのだろうか。

「このユートピアがどうなっていったかを追跡するために戻ったひとは誰もいませんでした」とマーフィー教授は述べる。「現実はユートピアとはほど遠い。通りには電柱が並んでいましたが、明かりはともりませんでした。近隣の村には電気が通っていて、仕事もあることはわかっているのに、アザド・ナガルでは何もかもが行き詰まっているように見えた。村人たちは、これが自由を得るために払わなければならなかった代償だ、と強く信じています」

現代の奴隷制においては、自由は苦労して、そして暴力をもって獲得するものだと教授は主張する。私たちが信じたいと思っているような、静かで平和的な方法ではない。しかしいくら自由を獲得し、立ち上がった民衆が新聞の一面で祝福されても、現地ではそうそう大きな変化は起こらない。

HINDI DAILY AMAR UJALAに掲載された、反乱に関する新聞記事

状況がさらに悪化する場合もある。権力をもつものは常に革新的な方法を見い出す。官僚主義的な手続きから地味な差別までさまざまな方法をとり、お前たちは決して真の自由を手にできない、と元奴隷たちに示すのだ。

マーフィー教授が2019年に村を再訪したとき、彼女は知人宅の中庭にある膝の高さの壁の後ろで用を足さなければならなかった。共用トイレの建設用資金は、地元の役人に流用されてしまった。電気ボックスは小屋に取り付けられたが、電気は電線を通っていない。村人の半数以上が、都市への移住を選択した。

現在のアザド・ナガルに建つ家屋

アザド・ナガルの夢は完全に実現されておらず、住民たちは絶望から抜け出すことはできていない。しかしそれでも革命は無益ではなかったとマーフィー教授は信じている。

「革命により意識を高め、こんなことが公然と行われていると政府に知らしめることができました。法律が改正され、労使関係も変わりました。コル人は、かつてのアザド・ナガルが描いた解放の夢は叶えていませんが、希望のない負のスパイラルから抜け出したんです」

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