1955年に創業した老舗ニットメーカーである丸安毛糸株式会社が、NFTアートをニットで表現するプロジェクトをスタートして、注目を集めている。
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同社は今年の11月、渋谷PARCOで開催されたNFTアート展、#NFTCATTOKYO「ネコといる暮らしVol10」に参加し、クリエイター・木之村美穂のデジタルアート作品をベースにしたニット作品4点を出品した。
さまざまな大手ブランドなどがNFTに参入する中で、ニットメーカーとして、どのような目的があったのだろうか。
そこで今回、プロジェクトを担当した同社のデジタルプロモーションディビジョンリーダーの岡崎淳さんに、NFTとの関わりや参入の経緯、今後の展開などについて聞いた。
ニットとNFTの親和性
同社は、ニット糸や製品の企画販売をしているが、「常に糸だけに関わらず新しいチャレンジをする姿勢」のもと、近年ブランドやメーカーがNFTに参入する動向を見ながら「どのようにビジネスにしていくか」を考えていたという。
「その中で、社長の岡崎博之が今回コラボしたクリエイターの木之村美穂さんのNFTアートを購入する機会があり、そこからニットとNFTをどう絡められるか、具体的にプロジェクトがスタートしました」
ニットは、どんな柄でも表現しやすい特長を持つだけでなく、NFTアートとの親和性が高かったこともプロジェクトを後押しした。
「『OpenSea』(NFTのオンラインマーケットプレイス)などを見ていると、いろんなNFTアートがありますけど、ドット絵とニットの『柄組』(ニットの編み方をパソコンでプログラミングすること)の画面が結構似ているなと感じました。
ニットを製作する際は『この編み目には、この色をつけます』という感じで、プログラミングしてくのですが、それとNFTのドット絵が似ているな、同じようなことをやっているな、とシンパシーを感じて、それならばNFTアートをニットで表現できると思いました」
こうした経緯を踏まえ、木之村美穂のNFTアートをもとにした「猫のニット」はどのようにして生み出されたのだろうか。
「実は、今回の展示会では出してないファーストサンプルに関しては、NFTの柄をシンプルに表現したベストだったんです。ただ、これに関しては木之村さんから『これだとNFTアートを単にニットにしただけなので、素材を変えて、立体感を出してみたいですね』というフィードバックをいただきました。
そこで、『そんなに自由にやっていいならば私たちの表現でやりますよ』とお伝えしたところ快諾いただき、出展作品のような形となりました」
ひと目見て印象的な、猫の顔が大きく縫い付けられたデザインも、同社の事業部である製品部と素材部が連携した賜物だった。
「今回は猫だったので、ヘアリーにしてフワッとしたり、ちょっとポコポコとした立体感を出したりした表現や技法は、製品部の経験と実績を生かせましたし、私たちの強みですね。
そして、素材部は、様々な糸を持っていますので、今回は海外でも高い評価を受けている糸を活用しました。その結果、ただのプリントや柄ではなくて、+αでの糸の表現ができましたし、製品部と素材部が一気通貫で製作できるからこその、こだわりが詰まっています」
展示に対する反響と今後の展開
展示作品に対しては業界内の反響が大きかったほか、来場者からは「展示作品は購入できるのか」という問い合わせがいくつも寄せられたという(本作品は展示のみで非売品)。
「今回のプロジェクトの1番の目的は、やはり国内の糸メーカーで、NFTのプロジェクトをやっているところが1つもない中で、丸安毛糸がNFTにチャレンジしていく姿勢を日本や世界に発信していきたいというところにありました。
社内では、来年も第2弾、第3弾をやっていきたいと話をしています。丸安毛糸の経験や表現力、アイデアと、NFTを掛け合わせたいアーティストさんを募集して、新しいニットを作っていきたいですね」
同社は、NFTアートとニットの組み合わせをビジネスチャンスとしても捉えているというが、具体的にはどのような考えを持っているのだろうか。
「NFTアートとニットをセットで売ろうと検討しています。市販のニットの場合、高くても1着4〜6万円ぐらいです。しかし、ニットをコレクターズアイテムとしてNFTアートとセットで売れれば、もっと付加価値を付けられると考えています。
ただ、大量生産するのも悪くはないですが、その場合は丸安毛糸のこだわりを詰められなくなってしまいます。そう考えると、1人のアーティストさんと1着何十万円、何百万円だけど、すごく価値があってアイデアや付加価値がついているものを売っていきたい。それは日本以上に海外でチャンスがあると思います」
今後は、アーティストとコラボするだけでなく、同社がNFTアートそれ自体を手掛けることもあるのだろうか。
「十分に可能性はあると思います。糸というモノを売っているメーカーだからといって、『ニットの柄をNFT化して売ることに何の意味があるのか』という疑問を持つことは、捨てなければいけない時期に来ていると思っています」
アナログな業界で、パイオニアになりたい
最後に、同社はこれからメタバースなどにも挑戦していきたいと意気込んでいるが、今後のテクノロジー活用について聞いた。
「メタバースにおいて、衣服や素材は手触りや色が大事になってきます。その点で、実はファッションとメタバースは結構難しい組み合わせだと思いますが、だからこそ、メタバース空間で丸安毛糸の展示会をやりたい。海外の方まで誰でも入れる場を作れると、プロモーションやブランディングで武器になると思います。
私たちは、NFTやメタバースなどに関して、繊維業界でいち早く取り組みたいと思っています。繊維業界はまだまだアナログで、今でもファックスを使っていますし、オーダーも電話と紙がやっぱり主体です。世間一般的には当たり前に使われている技術も、繊維業界がまだやってないことがたくさんあります。
だから、NFTやデジタルに関しては『丸安毛糸がパイオニアである』と今後も発信していけたらいいですね」
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