PHOTO COURTESY OF SAVE MY INK FOREVER
亡くなったばかりの故人の遺体からタトゥーを採取しアート作品にする、彫り師の新しいビジネスが登場している。
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By Claire Woodcock Translated By Ai Nakayama
ジョナサン・ギルは2019年に双子の兄弟を船の事故で亡くした。タトゥーで本人だとは確認できたが、火葬前の兄弟の遺体は見ることができないと言われた。葬儀社によると遺体は水によるダメージが大きく、お通夜で対面できる状態ではなかった。
ギルはニューヨークのクイーンズ区にある、Thomas F. Boyland Funeral Homeという葬儀社を営むトーマス・ボーイランドに連絡をした。そしてボーイランドから、亡くなった家族の思い出として遺体からタトゥーが入った皮膚を採取し永久保存するという、遺族のためのビジネスを紹介された。
ギルの兄弟は複数のタトゥーを入れていた。ボーイランドはそのうちの2つを繋ぎ合わせ、オハイオ州の研究所に送付した。そこでSave My Ink Foreverという死体専門タトゥーサービスにより、皮膚へのタトゥーをファインアート作品へと変身させる。作業が終わると、額装されたタトゥーをボーイランドがギルと彼の母親に直接届けた。
「何もかもが一気によみがえると同時に、不思議と心が慰められました」とギルはMOTHERBOARDに語る。「奇妙なかたちでの再会でした。彼を思い出させる物がかえってきたんです」。
Save My Ink Foreverが開発した独自のプロセスは、皮膚の化学構造を永久的に変化させることでタトゥーのインクを保存し、皮膚の腐敗を防ぐ。同社は米国21州の民間葬儀社と提携し、カナダや英国でも事業展開している。遺族から許可を得るにあたり、州ごとの葬儀法に従い近親者と直接やりとりする。
「このサービスを求めるひとたちにとって、これは本質的に〈葬儀〉そのものなんです」とSave My Ink ForeverのCOO(最高執行責任者)でタトゥー保存師のカイル・シャーウッドはMOTHERBOARDに語る。「彼らにとっては教会での葬儀よりも大切なんです」。
クライアントからタトゥーが彫られた位置と見た目について説明を受けると、資格を持った葬儀スタッフがタトゥーの周囲の組織を切除し、オハイオ州にあるSave My Ink Foreverの研究所に送る。ここがシャーウッドの仕事場だ。彼は修正を加えたりして作品を整え、できる限り元の状態に戻す。このプロセスにかかる期間は3か月程度だ。
シャーウッドは、ギルのようなひとびとの物語が、自身の事業を意義深いものにしてくれるという。
「完成した作品を受け取った遺族からの感謝の言葉や、『信じられない、あのひとがここにいるみたい。毎日見ていたこのタトゥーが、今自分の手の中にある』と言われたりする」と彼は語る。「遺灰をダイヤモンドにしているひともいるし、ヴィクトリア女王がイギリスを統治していたヴィクトリア朝では遺体の髪を切ってネックレスにしていた。それと何も変わりませんよ」。
しかし、本サービスは法律的にはグレーゾーンだと指摘する専門家もいる。
ウェイクフォレスト大学ロースクール(Wake Forest University School of Law)の副学部長で、このテーマに関する50数年ぶりの専門書『The Law of Human Remains』の著者でもある葬儀法の専門家ターニャ・マーシュの葬儀法の解釈によれば、Save My Ink Foreverは葬儀社を、遺体からの組織切除という行為に対する州法および刑法上の責任を負う立場に置いていると考えられる。
「彼らのサービスを利用することがひとびとにとって大変意義深いことはわかりますし、ひとびとがそういったものを利用できるよう、法律が柔軟であることにも賛成です」とマーシュはMOTHERBOARDに語る。「しかしながら、この行為を適法とできるほど現在の法律が柔軟であるとは思いません」。
葬儀社が遺体の皮膚を切り取り、それを保存するために企業に送付することを明確に許可している連邦法、州法は存在しない。しかし半数以上の州が、一般的に「死体虐待法」として知られる刑法を設けており、裁判所が「冒涜」とみなす方法で遺体を扱った場合、刑事罰が科される。
死体虐待刑法は郡の検察官により執行されることになっているが、州の規制当局に申し立てる場合、家族から行われる可能性が高いだろうとマーシュは述べる。また、タトゥーの切除を遺体の切断とみなした場合、遺体の不当な扱いによって精神的危害を受けたとする私的訴訟が遺族によってなされる可能性もあり、これは50州すべてにおいて可能であるとマーシュは指摘する。
同社の顧問弁護士であるドン・ファーフォリアは、遺族が記入する免責同意書により葬儀社とSave My Ink Foreverの責任は免除される、と主張する。ファーフォリアによると、何か問題が起きた場合は葬儀社に代わり同社が刑事罰を受ける可能性があるため、「死体虐待法」がある州で作業をする場合は、家族や葬儀社に協力しないこともあるという。また同社は、親族法を遵守することの重要性も強調する。
「私たちは遺体の処分権を有する遺族としか仕事をしません」とファーフォリアはMOTHERBOARDに語る。「もし処分権を有する家族が動揺していたら、私たちはタトゥーを回収して保存することはありません。例えば故人の子どもたちが集団として平等に処分権を有している場合、そのうちひとりでも異論があればタトゥーを回収しません」。
同社は法律を遵守しており、もし法的に責任を問われることになった場合、同社のネットワークに所属する葬儀社を法的に保護するとファーフォリアは述べた。シャーウッドは、タトゥーの人気が高まるにつれ、同社が提供するサービスへの需要も増加するだろうと考えている。Statistaによる2021年の調査では、米国人の26%が少なくともひとつタトゥーを入れていることがわかっている。この業界において商業的に運営しているビジネスとしては世界で唯一のSave My Ink Foreverは、このニッチ市場を独占している。
死体のタトゥー保存は、タトゥーアーティストのレガシーにも第二の命を与えるとシャーウッドは主張する。
「タトゥーアーティストのなかには、現代のピカソやレンブラントのようなひと達がいます。彼らはインクと羊皮紙ではなくインクと皮膚を使うため、名声を得ることができません」とシャーウッド。「私は〈オールドスクール・タトゥーの父〉と呼ばれる彫り師、セーラー・ジェリーの作品を扱ったことがあります。彼がいかにタトゥーアーティストのコミュニティを形作ったかを考えると、彼の作品が彫られた肌はもはや芸術品なんです。私たち以前は、彼らの作品はタトゥーの持ち主とともに死んでしまっていたのでタトゥーアーティストのレガシーを残すことができなかった」。
シャーウッドは遺体の皮膚に彫られたタトゥーの保存について、アートギャラリーや美術館が歴史的・文化的遺産として扱う未来が来る、と希望を抱いている。彼によると、日本では刺青保存技術の発展に貢献した病理学者の福士政一が収集した刺青標本が、東京大学医学部に収蔵されている。
またシャーウッドはタトゥーアーティストと提携し、作品をNFT化する試みも進めている。
また同社ではSave My Ink Foreverのサービスに関心を寄せる遺族を担当する葬儀社ならどことでも協力していくつもりだとシャーウッドは語るが、タトゥーの位置や内容によっては保存を断る場合もあるという。
「当社には基準があります」とシャーウッド。「疑いの目も向けられていますから、私たちは非常に厳しく管理を行なっています。何もかもを堂々と扱うようにしているんです。これを余興のための見せ物にはしたくない。ひとびとに、私たちの仕事を嫌悪する言い訳を何も与えたくないんです」。
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