アカデミア発の技術による社会課題解決に取り組む、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社。落合陽一氏が代表を務めることでも知られている同社は2023年1月5日~8日、アメリカ・ラスベガスで開催されたCES 2023に出展するとともに、超音波スカルプケアデバイス「SonoRepro(ソノリプロ)」によって、「CES 2023 Innovation Awards」を受賞した。
SonoReproは、同社の超音波研究と予防医学のアンファーによる頭髪研究を組み合わせて共同開発した、家庭用スカルプケアデバイスだ。同社独自の技術「非接触振動圧刺激」を搭載し、空中を伝わる超音波を用いた振動圧刺激によって、触れずに頭皮を刺激する仕組みとなっている。
そこで今回、本製品の開発担当であり、落合氏と共同で同社を創業した取締役CRO 星貴之さんと、事業本部 小野川舞さんに、SonoRepro開発の経緯や反響、今後の展望などについて聞いた。
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PROFILE|プロフィール
星 貴之(ほし たかゆき)
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 CRO
2008年東京大学大学院博士課程修了。博士 (情報理工学)。東京大学助教などを経て、オープンイノベーションを促進するため、2017年同社に参画。
PROFILE|プロフィール
小野川 舞(おのがわ まい)
ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 事業本部ディレクター
長年の超音波研究を背景に、頭皮を刺激するデバイスを開発
同社は、音や光を操ることで、視覚・聴覚・触覚などに関わる技術を開発し、課題解決に取り組む大学発のベンチャー企業だ。取締役CROの星さんは、創業前から超音波の研究に携わっており、2008年頃、東京大学で直接触れずに空中で触覚を感じる超音波の技術を初めて開発した。
「超音波の小さいスピーカーを300個ほど並べて、タイミングを調節して超音波を出すと、同時にたどり着いた位置で超音波が強め合って、局所的に圧力が出る装置を開発しました。この圧力によって、紙が持ち上がったり、水面がへこんだりします。この超音波と映像を組み合わせて、バーチャルリアリティの視覚と触覚の融合などを実現しました。
また、当社の代表 落合陽一と、空中に超音波の圧力を作り、その圧力で空気を震わせることによって音が空中で発生する現象を生み出すなど、さまざまな超音波の研究をしていました」。
近年、同社はヘルスケアやダイバーシティ領域での研究開発と事業化に取り組んでいる。そのなかで、SonoReproは研究中のとある偶然から生まれたという。
当初、星さんは日本医科大学との共同研究として、超音波を傷に当てることで治りを早くするという実験を行っていた。その成果として、通常は2週間で傷が塞がるところが1週間で塞がるという良い結果が得られたのだが、同時に超音波を当てた箇所から毛が生えることも発見された。
星さんはこの「意図せざる結果」を社会実装できないかと考え、学校法人日本医科大学とアンファー株式会社が行っていた発毛に関する研究に参加することにした。そして臨床実験として、髪の毛に悩みのない健康な男性の頭皮を、週1回超音波で20分刺激すると毛髪にどんな変化があるか調査したところ、休止期毛(伸びない毛)の割合と成長期毛(これから伸びる毛)の割合が変わることが分かり、発毛につながることが確認できたという。
「電気を流すものやマッサージ系の機器は多いですが、超音波で毛髪にアプローチするデバイスはあまり見かけないと思います。メカノバイオロジー(圧力刺激によって細胞にどういう影響が出るかという研究)から開発された点も面白いと思います」と星さんは話す。
さらに局所的な現象であることから、マウスと人間には体格差があるが、体格が大きくなるほど超音波の刺激を強くするといった条件変更の必要はなかったとのこと。そのため、開発から製品化まで迅速に進む結果となった。
現状、SonoRepro単体で使うことを想定しているが、ミノキシジルを塗布した頭皮にも使えるので、今後はデバイスと一緒に使えるヘアケア剤や美容液なども、プロダクトのラインナップとして考えているそうだ。
CESで「innovation awards」を受賞。国内外から好評を博す
「CES 2023 Innovation Awards」を受賞したが、国内外での反響はどうだったのだろうか。当初、SonoReproは男性寄りのプロダクトだと考えていたが、日本、海外ともに女性からの引き合いが強く、国籍・性別を問わず幅広い層にポジティブに受け入れられているという。日本では、家庭用スカルプケアデバイスは市場としてまだ成長していないが、海外では「Hair Growth」と結びつける人が多いなど、認知率が高いという気付きもあったそうだ。
また、海外ではヘルメットのような形をした機器が主流だが、SonoReproはハンディタイプであり、デザインにもこだわったことで、おしゃれに使えるところもユーザーに気に入ってもらえているという。
そのうえで、何よりもSonoReproの使い方が、一番反響を得られたと小野川さんは話す。
「皆さんに驚かれるのは、気になる頭皮の場所に関して、1日1分間当てるだけでいいということです。短時間のヘアケアができることに、魅力を感じていただけているようです」 。
発売当初は反響が出てくるのは数か月後を想定していたが、それを待たずに喜びの声が多数寄せられていることで、機能としての高さを実感しているという。
星さんの父親も購入してくれたそうで、「これまで研究者として論文を書いてきましたが、父に届くことはありませんでした。今回初めて届いて感慨深いです」と語った。
ヘルスケア領域に転用し、新たな展開へ
SonoReproの開発・製品化によって、これまで超音波研究をしてきた星さんにも新たな気付きが生まれたという。
「SonoReproが出している超音波の刺激は、私がこれまで研究してきた触覚に関する超音波よりも感触としては弱いんです。これまで『実用化を見据えるなら超音波はもっと強くなければいけない』と考えがちだったなかで、刺激が弱くても用途があることは1つの気付きで、超音波が持つ可能性を感じました。今回の研究を踏まえて、新たなプロダクトの開発に取り組んでいきたいと思います」。
また、SonoReproは当初傷を治す研究から始まったこともあり、小野川さんは「ヘアケアだけでなくヘルスケア領域に広く転用していけると考えています」と話す。
SonoReproを開発するなかで、「髪そのもののハリやコシの改善の兆しも見えてきた」という。こうした知見を踏まえ、今後のラインナップとしていきたいとのことだ。
ソーシャルインパクトドリブンという指針を掲げる同社は、今後もBtoB、BtoC問わず社会課題に寄与する開発や取り組みを行っていくという。新たな研究や製品の開発に、注目したい。
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