ジェフ・パターソンと彼が育てたキノコ。PHOTO: COURTESY OF JEFF PATTERSON
ゲリラ・ガーデナーは水鉄砲で胞子を入れた水を撒き散らし、森の中で幻覚キノコを自生させ栽培している。
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マジックマッシュルームを侮ってはいけない。この非常に強い幻覚を引き起こすキノコは地球上の至る所に生息し、キノコ王国全体をつなぐ神秘的な菌糸体ネットワークを通して、土の中で広がっていく。
しかし、地上で起きていることはまったく異なる。キノコの胞子や菌糸体は風や動物などの自然のプロセス、そして最近では、収穫量を最大限に増やそうと試みるゲリラ・ガーデナーによって運ばれる。
彼らはコロラド、オレゴン、カリフォルニア、ワシントン州などに出向いて、キノコの胞子を植え付けた数キロのウッドチップをばら撒き、さらに数百万の胞子を水鉄砲で吹き付ける。これは産業レベルでの幻覚剤事業計画だ。
「ここ数年で、この地域のマジックマッシュルームは大幅に減少しています」と語るのはワシントン州ブレマートン出身の吹きガラス職人、ジェフ・パターソン(Jeff Patterson)だ。「それに対抗する唯一の手段が栽培なんです。マジックマッシュルームは依存症とうつ病の治療に効果があります。僕自身も一晩で限界までキノコを食べて以来、一度もタバコを吸っていません」
彼のマッシュルームに対する信頼は、仕事にも反映されている。「ハイテクなシビレタケのパッチをつくる実験をしてみよう」と彼は5万人超のフォロワーを擁するInstagramに投稿されたビデオで、最高級の水鉄砲に胞子入りの水を入れながら説明する。「やあ、ちょっと散歩してこの辺りに胞子を撒き散らしてくるよ……(中略)うまく育つといいな。これ、めちゃくちゃ楽しいんだ」
もちろん、こんな風に大雑把に撒き散らした胞子の大部分が、キノコに育たない可能性は大いにある。しかし、パターソン──別名マジックマッシュルームのジョニー・アップルシード(西部開拓時代に数千本のリンゴの木を植えた果樹園業者)──は、数十億まではいかずとも数百万もの〈デポジット〉に賭けているのだ。
つまり、彼は他のゲリラ菌類学者と同様、〈数撃ちゃ当たる〉の精神なのだ。たとえ1%しか根付かなかったとしても、大量のマッシュルームが収穫できる。「僕はずっと採集をしながら育ったんですが、それがものすごく楽しくて」と彼は回想する。「未来の世代にも、ぜひ同じ体験をしてほしいんです」
ワシントン州の政治家はいまだにサイロシビンの合法化に慎重だが、パターソンは特にこの活動を隠してはいない。「警察とか、僕たちがウッドチップを掘り返しているのに興味津々な人たちに足止めを食らった仲間はほとんどいません」と彼はいう。「誰かが近づいてきたら、マッシュルームの知識をあれこれ語り出せば、大抵のひとはうんざりして放っておいてくれます。警官にはよく不法侵入だとか、ここから立ち去るようにといわれますが」
幻覚剤の人気が高まるにつれ、パターソンは拡散した胞子が初心者によって見境なく収穫されるかもしれないと危惧している。彼以外にも、多数のアマチュア菌類学者が、マッシュルームの資源がペヨーテ(※幻覚作用のあるサボテン)のように枯渇することがないように、自ら行動を起こしている。
「まるで自分がキノコとつながっているような一体感があります。私はキノコの指示に従って動いているんです」と薬剤師を退職した、胞子拡散のパイオニアであるスティーブ(仮名)は語る。マジックマッシュルーム市場の急激な拡大を危惧した彼と仲間たちは、活動にさらに力を入れている。
さらに、かつて豊かな生息地だった場所が──熊手や鋤(すき)などの使用によって──持続可能な採集をしないアマチュアの手で完膚なきまでに荒らされたことによる資源不足の問題もある。「出かけていって、踏み荒らされた生息地を見たくはありません」とスティーブは打ち明けたが、彼と仲間はただ怒りを抱えたままじっとしているよりも「何か行動を起こす」という。
人びとが外で「菌糸体をあちこちに撒く」理由は「みんなビジネスの匂いを感じていて、それが気に食わないから」だ、と彼は付け加えた。スティーブは誰の手も借りず、ひとりで数百ものマジックマッシュルームパッチをつくったと主張する。「こうすれば、より多くのひとがキノコ採集を体験できます。もっと大規模で手の込んだことをしているひとも大勢います」
昨年11月に公開された短編ドキュメンタリー映画『Azurescens: Through the Blue Lens』は、太平洋岸北西部でゲリラ胞子スプレッダーとして活動するコミュニティの主催者を取材している。「できるだけ多くの菌糸体を集め、それに適していると思う場所へ持っていきます」と彼は逮捕を恐れて顔をマスクで隠しながら語る。
彼らは菌糸体を植えつけたあと、その場所に印をつけ、1年後か2年後に戻ってきて確認する。非公開のとある場所では、最近「50ガロン(約189リットル)以上の菌糸体を接種した」と彼は主張する。
サイロシビンは規制物質法(Controlled Substances Act)の付表Iに掲載されている物質だが、オレゴン州とコロラド州のマジックマッシュルーム合法化は、一部の活動家に希望を与えた。今まで以上に堂々と活動するひとも少なくない。
このカウンターカルチャー的な運動がここに至るまでには長い時間がかかった。1950年代半ば、米国の至る所でマジックマッシュルームが生息していることが明らかになって以来、マッシュルーム採集家はローテクな方法で胞子を広めてきた。
しかし、大きな進展があったのは2008年、アマチュア菌類学者のピーター・マッコイ(Peter McCoy)が〈Spore Liberation Front〉という運動組織を通して、美味しいアンズタケからより幻覚成分の多い親戚まで、あらゆる種類のキノコの「胞子を形成する使命」を担うガイドブック『Radical Mycology』を出版したことだ。作者によれば、数千人の人びとがこのZINEを手にしたという。
マッコイは、自分が知る限りではマジックマッシュルームのゲリラ散布によって逮捕されたひとはいないとVICEに語ったが、「今になっても、何かを受け入れようとしないひとはいる」と述べた。
しかし、マッコイは違う。「とても攻撃的な種で、屋外でもすぐに成長します」と彼は、故郷のオレゴン州原産のアズレゼンスとキアネセンスという強力な幻覚作用のある品種について説明する(ちなみにガーデニングを始めたい方へ:非在来種を広めることはよくない考えだ)。「母校があるワシントン州オリンピアで非在来種を広めたひとがいたんですが、ものすごい勢いで広がっていきました。ある秋の午後、友人の裏庭に数十キロものシロシベ・キアネセンスが生い茂っていることに気づいたんです」
マッコイは彼のZINEの人気は出版後に「雪だるま式に大きくなっていった」と語る。2011年には〈Radical Mycology Convergence〉と呼ばれるカンファレンスが開催され、その後、より詳しい解説を載せた本は1万部を売り上げたという。2022年10月には、オレゴン州で6度目となるカンファレンスが開催された。
「人間とキノコの関係は、全く新しい時代に突入しています」とマッコイは説明する。「キノコの生態にまつわる現在の知識──どのように自然環境と相互作用し、人間が育てやすく変化していったのか──は、これまでの歴史上、ずっと人間にとって未知のものでした。100年前にはキノコの育て方はほとんど謎に包まれていました。キノコは自然界に残された最後のフロンティアのひとつなのです」
人類に恩恵を与えるのは、マジックマッシュルームだけではない。多くの熱心な菌糸類ファンたちはマッコイと同様、すべての種を広めるべく活動している。「みんなに美味しいキノコを食べさせよう」とロンドンの公園で幻覚作用のないキノコの菌糸体を散布する〈The Psychedelic Society〉のゲリライベントを主催したあと、ニック・フィリップスは宣言した。「キノコは人の免疫を高めてくれる」
彼はシイタケやヤマブシタケなど、幻覚作用のない品種の自然栽培を増やすことが価格の低下につながり、一般的な消費の増加が公衆衛生の向上をもたらすと信じている。科学者は多種多様なキノコを食べると豊富に含まれる抗酸化物質によって、がん、アルツハイマー、心臓病の罹患率が下がることを発見した。「キノコは全国から注目を浴びてしかるべきです」とフィリップは語る。
しかし、菌糸体を散布する技術が簡単に譲渡可能なことは否めない。知識を使ってマジックマッシュルームを緑地に植えると明言してワークショップを去る参加者もいる。「わたしのミッションは、他のひとが簡単にマジックマッシュルームを入手できるようにすること」とある参加者は語る。「重要なのは、人びとが自然と触れ合い、自然とのつながりを取り戻し、変化を起こすことなんです」
ワシントンでは、パターソンがお気に入りの品種の胞子散布の準備を進めていた。「すごく攻撃的な種で、あらゆるウッドチップを食べ尽くしてしまうんです」と彼はいう。「片手分の胞子が、6ヶ月で約3メートルのパッチに成長します。コミュニティは、キノコを未来の世代に受け継げるように全力を尽くしています」
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