筆者にとって初めてとなるサンフランシスコ滞在中、GoogleのUX Lead DesignerであるSteven Ma氏によるUXワークショップに参加した。
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参加した理由は主に2つ。一つは単純に、デジタルプロダクトデザインの第一線で活躍するデザイナーの話を聞いてみたかったという理由。
もう一つは、筆者自身もワークショップでファシリテーションを行っているため、ワークショップそのもののデザインとファシリテーションの仕方を見て学びたかったというものだ。
ワークショップの内容としては、これからUXを学んでみたいと考えている人たち向けにデザインシンキングやUX、UIのイントロダクションが中心となるもので、筆者も以前受講、終了したGoogle UX Design Professional Certificateのコース内容をざっと網羅するものであった。
普段東京でデザイナーとして仕事をしている筆者に、Steven Ma氏は長年のキャリアから得た知見を、快く丁寧にシェアして下さった(さすがに最新のGoogleでの仕事は極秘だったが)。
今回はその中でも特に印象的だった「良いデザインとは?」「良いUXをつくるには?」という問いに対する考え方をシェアしつつ、自分の考えをまとめたい。
良いデザインとは?
Steven Ma氏によるとデザインはビジネスであり、良いデザインは、顧客の問題を解決し目標を達成させるものだ。
ビジュアル的な魅力があるものを作ったり、デザインアワードで賞を取ったりすることが大事なのではなく、顧客のビジネス上の課題を解決することがデザインだと言う。
実際に世間的にも、デザインとはただビジュアル的に綺麗なものを作るだけではないという認識は、すでに浸透しているだろう。むしろ顧客は、そのプロダクトがちゃんと機能すれば、ビジュアル的に魅力的かはさほど気にしない。
例として、”Craigslist”というサービスがある。1995年に開始された、目的や地域別に誰でも手軽に広告を掲載できるこのWebサイトは、創業からほぼデザインを変更していない。
ビジュアル的に魅力があるとは言えないこのUIにも関わらず、月2.5億 (250million) 人ものユーザーが利用している。
この事例から言えることは、ユーザーがこのサービスに求めているのは、欲しいものがちゃんと探せて、目的が達成できることだ。ユーザーに体験してもらいたいこと、つまり良いUXを提供できていることが最も重要で、ビジュアルは二の次であるということは、利用者数から見てとれるだろう。
また一方で企業にとって良いUXは、ユーザー数とそれに伴うお金を生み出し、必要なものの開発保守や運営以外に掛かる無駄なお金をセーブする。
企業は、顧客の問題解決を目指しながら、自社のビジネスもサステナブルに回していく必要がある。そのため、サービス提供側にとっても、良いUXの提供は大切なのだ。
ユーザー / 企業双方にとって、良いUXが良いデザインの条件となると言えるが、何も全てのサービスやプロダクトが、ビジュアル的な魅力が不要というわけではないと筆者は考える。
そのサービスが良いUXを提供でき、ユーザー数とそれに伴うお金を生み出せることと、ビジュアル的な魅力があることは同義にはならないということが重要だ。
ビジュアルにどの程度重きを置くかは、そのサービスのターゲットとしている層やコアにしたいUXの設計、作り手の思いによって変化する部分であろう。
実際、ビジュアル的な要素はユーザーの感情に大きく影響する。筆者も、美しいものやかっこいい、可愛いと感じるものは、見ていてワクワクするので大好きだ。
ただ、ビジュアルを含めた様々な要素の優先順位付けをしながら、顧客の問題解決を目指し、リアルな数字を見ながら自社のビジネスを回していく必要があるのだと思う。
良いUXをつくるために意識すべきこと
ではここで、良いデザインのために重要な「良いUX」をつくるために意識したいことを5つご紹介していく。
1. 全てはケースバイケース
マインドセットとして、「全てはケースバイケース」とフレキシブルに考えられることは大切だ。デザインのセオリー上、良いとされているからといって、全てをセオリー通りにすべきというわけではない。筆者自身も、複雑な内容の業務システムを扱うプロジェクトでは特にそれを実感した。
その際に重要になってくるのがユーザー理解だ。どのようなユーザーが、どんな場面で何を目的にそのプロダクトを使うのか。ユーザーはそのプロダクトの中で、何ができると1番嬉しいのかなどをリサーチを通して探っていく。
筆者もデザイナーとしてユーザーインタビューに参加させてもらう機会があるが、こちらが想定していなかった利用シーンや目的が発見できるため、とても学びが多い。
実際にユーザーの声を聞いたり、クライアントとディスカッションを重ねることで、ユーザー理解を深め、ユーザーが使ってみたくなるようなプロダクトへと近づけていく。
2. チームメンバー1人1人がオーナーシップを持つこと
Steven Ma氏は、「プロダクトのために働くのではなく、プロダクトを自分が生み育てている意識が大切だ」と言う。
これは、特に組織が大きくなればなるほど、重要になってくる部分なのかもしれない。様々な役割の人の働きからビジネスはつくられていて、自分の行っていることが何に繋がるのかという、マクロな視点も忘れないようにしたい。
1デザイナーとしてのタスクを抱えつつ、マネジメントも行う彼は、チームビルディングにはコミュニケーションと、人対人の信頼関係が重要だと話してくれた。
やはりという感じがするが、オフラインで1on1を頻繁に行っているというチームの話はコロナ期間が明けて、より耳にするようになった。
弊社は日米にチームがあるためface to faceで話すメンバーや機会は限られているが、最近は日米間の移動が増えてきている。
移動時間が削減できるなど、リモートワークの良さももちろんあるため、上手くハイブリッドワークが活用できると良いと思う。
3.本当にその仕様や変更は必要か?
リサーチの結果、ユーザーのインサイトが見えてきたり、「こういう風にしてほしい」といった要望があったりするだろう。
その際は、本当にその仕様や変更は必要なのかを改めて考えたい。その仕様によって(または仕様を変更することで)、ユーザーは何を得て何を失うのか?また、その変更によってビジネス的に得るものは何か?を問う必要がある。
筆者も、リサーチやクライアントとのディスカッションを通して見えてきた要望をデザインに落とし込む際には、なぜそれが必要なのかは意識して考えるようにしている。
要望をそのまま反映すると、複雑なUIに繋がったり、運用を十分考慮できていない部分が出てきたりしてしまう。そのため、他のやり方で「こうあって欲しい状態」を実現できないかを考えていくと、良い着地点が見つかる気がしている。
4.今すぐに行うべきものなのか?
あるタスクにおいて、その仕様や変更が必要となった場合は次に、それは今すぐに行うべきものなのかを考えたい。
その事項は、Must(優先度:高)なのかNice to have(優先度:低)なのか?優先順位が高いものが複数ある時はどうするのか?
Steven Ma氏によるとその時は直近3ヶ月で取り組むべき、最もインパクトの大きい問題は何かを考えるとのこと。彼のプロダクトマネージャーは、優先順位が高い問題が複数上がってきた場合、ビジネスインパクトの大きさを比較して決めているそう。(「彼女は非常にロジカルな人だ」と言っていた。)
5.データに基づいてデザインする
良いUXをつくるためには、今まで挙げたものに加え、実際のデータに基づいてデザインすることが重要だ。データの存在は大きな判断材料となり得る、ということは言うまでもない。
その機能が実際にどの程度使われているのかについて、ログから分析したり、A/Bテストなどの複数のデザインパターンを用いて、データを比較する。その結果からより効果的なデザインを取り入れていく。
筆者もデータアナリストの方と協働させていただく機会があったが、データがあることでユーザーリサーチだけでは見えてこなかった部分が見えてきたり、ユーザーニーズの裏付けになったりして、その大切さを実感した。
まとめ
今回は、長年デジタルプロダクトのUXデザイナーとして働いているSteven Ma氏の知見をもとに、デザインとビジネスの関係と良いUXをつくるために意識したいことについてご紹介した。
ワークショップ中、彼が何度も「ビジネスインパクト」という言葉を口にしていたことが印象的だった。もはや世界のインフラとなっているGoogle。インパクトの大きさも凄まじいものだろう。
また、一人のデザイナーとして彼のデザインや仕事に対する姿勢など非常に学びの多い時間だった。
今回のサンフランシスコ滞在中では、彼を含め日本のデザインやプロダクトに興味のある方に多く出会った。これからも日米の架け橋となれるよう、デザインを通じてビジネスを支援していきたい。
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