CUCK NORRIS
ニュージーランドで活動するタトゥーアーティストが、自らの出発点や奇怪なデザインについて語った。
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ウェリントンには、優秀なタトゥーアーティストが決して少なくない。由緒ある有名スタジオも多く、若く実験精神あふれる独学のアーティストたちが華々しく活躍している。地元のアーティストのもとを訪れれば、一晩中踊り明かせる汗まみれのベルリンのクラブを思わせるコンテンポラリータトゥーや、ブルックリンのステーションシェフが入れているような無造作なタトゥーを施術してくれる。新型コロナウイルスによるパンデミックの始まりから1年間、私たちはラッキーにも、ロックダウンで身動きのとれなかったニューヨークのリタ・ソルトから、この国でタトゥーをしてもらう機会を得た。向こうにとってはラッキーではないかもしれないが。私はそこで4つのタトゥーを入れてもらった。
ダークで不気味、時にユーモラスなスタイルで知られる卓越したアーティストのひとりが、ウェリントンを拠点とするカック・ノリスだ。
今回VICEはキューバストリートに隣接するカックのスタジオに向かい、実際にタトゥーを入れてもらいながら、独学のアーティストとしてキャリアを築いた方法やダークなデザインの着想源について話を聞いた。
VICE:まずはあなた自身について教えてください。カック・ノリス(Cuck Norris)とは何者ですか?
カック・ノリス:ポネケ(※ウェリントンの別名)を拠点とするタトゥーアーティスト。個人のスタジオを持っている。タトゥーは独学で習得した。
──タトゥーを始めて何年ですか?
タトゥーを始めて……うーん、何年だったかな? 道具は2017年から持ってる。でも実際に施術をしているのはここ3年半くらいかな。
──Cuck_Norris999というインスタグラムのアカウント名の由来は?
残念ながら番号なしのCuck Norrisというアカウントはもう使われていた。実を言うと、いい名前が思いつかなくて。2019年にトモ(Tommo)という友だちが考えてくれた。
だからこれはただのインスタのアカウント名で、他とかぶらないものを探したってだけ。施術を始めてフォロワーが増えたときに、この名前を使い続けるべきかどうか悩んだ。でも、相談したひと全員から「そのまま使いなよ」といわれた。
みんながタトゥーのことを「これがカック(Cuck: 寝取られ男の意)の作品?」っていうのが面白くて。それを聞くとめちゃくちゃ笑える。
──独学でアーティストになることは可能なんですか?
自分の技術のレベルと絵を描く能力の絶妙なバランスのおかげかな。独学のタトゥーアーティストの難点は、常にフィードバックや改善方法を教えてもらえるいわゆる徒弟制度に比べて、上達するのに時間がかかること。
高校の頃からタトゥーアーティストになりたいとは思っていたけど、その思いはしまっておいた。それでよかったと思う。ウェリントンには勉強しに来たから。それでも、ずっとドローイングやタトゥーに興味があったから、最初は誰かの弟子になるつもりだった。
でもどういうわけか、1年目は自分とフラットメイトにハンドポーク(手彫り)タトゥーを入れるところから始まったんだ。
──正式な道具を使って?
いや、縫い針と筆記用の液体インクとかでね。ハンドポークにはすごく時間がかかるから、結局マシンを買った。マシンを手に入れてから、ときどきベッドルームの外で自分や友だちにタトゥーを入れるようになった。まだ本格的にやっていたわけではなかったけど。
──友人同士の施術から正式な仕事へ、どのように発展していったんですか?
自信がついて、知り合い以外にも施術をしたいと思ってから、インスタが使えるんじゃないかと思って。自分のアカウントをもっとタトゥー中心にして、空いている日やデザインなどを投稿するようにした。
──あなたのタトゥーにはとてもゴージャスで、独特のスタイルがありますね。それはどこから生まれたんでしょうか?
今までずっと絵を描いてきて、視覚芸術に興味があった。
独学でタトゥーを身につけたことも大きいかな。特定のスタイルに従う必要もなかったし、無意識のうちにスタイルを参考にする相手もいなかった。ただタトゥーしたいときにして、絵を描きたいときに描いていただけ。
もちろん、何をすべきかよくわからないときは、もっと経験豊富な友だちにアドバイスを求めた。質問があれば、質問した。でもタトゥーに関してはほとんど試行錯誤の繰り返しと、練習台に進んで肌を差し出してくれた友だちのおかげ。(最初の頃のタトゥーを)見ると笑っちゃうけど。振り返ってみると自分の成長がよくわかるよ。
──デザインの着想源はファンタジーですか? 個人的にはとてもゴシックでSFっぽさを感じます。
確かに。ファンタジーもフィクションも大好き。映画やビデオゲーム、ホラーゲームなど、インスピレーション源はかなりたくさんある。
特に影響を受けたとわかりやすいのは漫画の『ベルセルク』だと思う。
──伊藤潤二の作品ではないですよね?
『ベルセルク』*は違うけど、確かに伊藤潤二もインスピレーション源のひとつ。
*『ベルセルク』はカルト的人気を誇る壮大でダークなファンタジー。ひとりの人物を長い時間をかけて追う物語で、そのなかでこの世界はどんどん混乱していく。この作品の芸術スタイルはとんでもなく不気味なんだ。人間の顔をした悪魔がたくさん出てくる。僕のドローイングを見れば、この作品の影響がはっきりと感じられるはず。
──『サイレントヒル』も好きですか?
プレーしたことはないけど、どんなシンボルが使われているかは知ってるよ。
──クリーチャーのデザインに、あなたの作品に似たものが感じられます。大好きなゲームです。
──あなたのスタイルはどのように進化してきましたか?
自分が描けるものならタトゥーにもできると思った。でもそこで、〈クリティカルマス〉に達した。つまり「もう飽きた、何か新しいことに挑戦したい」と思ったってこと。タトゥーのレベルが上がったからバランスをとる必要があるんだと思って、絵の技術を向上させた。そうすればタトゥーもそこに追いつかなければいけなくなるから。そうするうちに今度はドローイングよりもタトゥーのほうが上手くなったら、また絵の技術を向上させる。
──実験的で非伝統的なタトゥーとはこうあるべき、という圧力を感じることはありますか?
今の世界のタトゥーシーンは、個人的にはある特定の伝統的なスタイルを非難するというより、個人のスタイルや表現を尊重する段階に来ていると思う。みんな自分のドローイングや創作を、そのまま肌の上で表現している。決まったスタイルもあるにはあるけれど、今はどちらかといえば個人の表現のほうが大切。
──アートスクールに通った経験が助けになったと思いますか?
長い目で見ればそうだと思う。ドローイングの能力に関して直接効果があったかはわからない。僕の母校は技術重視というより概念的だったから。絵の描き方というより、自分の創作についての考え方を教わった。
自分にとって決定的だったのは──ずっと高校を卒業してすぐタトゥーを始めようと思っていたから──猶予期間を設けて大学に通ったこと。そのおかげで絵の技術や自分が描きたいもの、自分の好みを掘り下げる余裕ができた。
──最初にタトゥーを入れたのはいつですか?
確か17歳のとき。きちんとした手順に従って施術を受けた。母もタトゥーを入れていたから、すぐに同意書にサインしてくれた。
──そのタトゥーは気に入っていますか?
うーん、嫌いなわけではないけど、あの頃から好みも変わったからね。下手なタトゥーってわけでは全然ない。最初に入れたタトゥーは消したくないけど、これを出発点にして、他のタトゥーアーティストたちに何かを付け足していってもらうのも悪くないかも。
──話題は変わりますが、あなたにとって良いクライアントと悪いクライアントとは?
クライアントとの嫌な経験は特に思い浮かばないな。タトゥーを入れるのはすごく親密な体験で、誰かの隣に何時間も座って、そのひとのことを知っていく作業だから。
あとはエチケットの問題かな。当日のドタキャンとか。そのことで相手を責めたりはしないけどね。ただ「次回は携帯でアラームをセットしたりして、事前に知らせてください」って伝えるだけ。
それよりももっと大切なのは話をすること。タトゥーを彫られる側として、事前にタトゥーアーティストにされたくないことを共有しておくこと。なぜならタトゥーには力関係がつきもので、残念ながら過去にもそれが悪用された例が何度もある。だからタトゥーを入れるときは、自分にとって何が大丈夫で何がダメかを伝えることのほうがずっと大切。大切なのは合意、インフォームド・コンセントだから。
──その通りですね。
──最後になりましたが、一番重要な質問です。カック・ノリスの今後の計画は?
アップサイクルの商品をいくつか発売する予定。今でもこの言葉を使うのかわからないけど──オプショップ(※チャリティショップ)の掘り出し物を脱色したり染めたりして、デザインを加えた。Tシャツ40〜50着とフーディなどを出すつもり。それからウェリントンのWindy Workshopsギャラリーでポップアップストアも開催する予定。
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