原型を制する者はフィギュアを制す あなたの知らないフィギュアの世界
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(2024/06/11)
ゲームセンターやコンビニの一番くじの景品として、お馴染みのフィギュア。フィギュアとはラテン語で、“形”を意味し、図形、人を写した絵や彫刻を指す言葉だ。
かつてはサブカルチャーな嗜好品だったが、いまではすっかりポップカルチャーとして確立されている。今回、そんなフィギュアの創造主「原型師」にフォーカスした展示「PROTO1/1」が南青山のFeb gallery Tokyoで行われている。
トイカルチャーが根強い人気を誇る表参道・原宿の街とも相性が良さそうな展示だ。一体どんな展示が繰り広げられているのか。プレミアが付くほど熱狂的なファン、コレクターがいるフィギュア。その魅力の根幹に迫る展示をレポートしたい。
商業原型師がオリジナル作品を作ったら?現代のミケランジェロたちによる魅惑の立体アート
フィギュアを”アート”として鑑賞することはなかなかないだろう。本展の参加作家であり発起人の一人、江頭慎太郎さんは「ミケランジェロが現代に生きていたら『商業フィギュア原型師』になっていたんじゃないか」とこの展示を企画する際に言っていたそうだ。
言い得て妙。この展示ではルネサンス期の芸術家たちに通ずるような原型師による、圧倒的な技術、技巧、表現力を捉えることができる展示だ。特に、人体に迫るその精緻な観察眼はまさしく現代のミケランジェロなのである。
原型師というのは世に流通するフィギュアの原型を作る人たちのこと。商業原型師ってことはみんな同じなんじゃないの?と思うかもしれないが、それは大きな勘違い。これが実に個性的で、出自もてんでバラバラだったりする。
原型師それぞれにファンが付いているのも当然。つまり、推しである。それだけ原型を作る人によって仕上がりに個性が出るのだ。
普段は「ワンピース」や「マーベル」という超メジャーなフィギュアを製作する原型師6名が参加し自主監修。それぞれがオリジナルの作品を披露している。
まず最初に目を引いたのは入り口からいちばん手前にあった山下 マナブさんの作品。アンニュイなキャラの表情と立ち姿にグッときた。それでいて身につけているアイテムの質感がシワまでリアルに細かく表現されており、キャラクターとのコントラストが素晴らしい。
山下さんは原型師として活動しながら自身の表現として油画を描いていたそうだが、立体に手法を変えてオリジナルの作品を作っている。どのキャラの表情にもどこか憂いがあって、憎めないのが魅力だ。
その奥にある石崎紗央里さんの作品はポップで艶かしい出立ちが特徴だ。これは商業原型師をやりながら自身のアート制作のきっかけとなった「DOLLEL」というシリーズ。大きくデフォルメされた頭身も可愛らしい。
着用している衣装はドール服の作家さんが制作。商業原型師という人形の「型」を作る人がいれば、「服」を作る専門の人もいるというわけ。
本展のフライヤーにも使われている、コンセプトカラーで彩色されたフィギュアが可愛すぎる。
髙橋晋太郎さんの作品はニヒルでミニマルな作風が好み。 ミニマルなだけに同じモデルでも彩色、サイズで全く異なる印象になるのがよくわかる。いやーかっこいい。
山下マナブさんとともに『ストリートフィギュア』を感じる出立ちに胸が熱くなる。この二人の服の皺やデフォルメの仕方の違いを見るだけでも奥深いフィギュアの世界に惹き込まれる。
バンダイナムコグループの株式会社アートプレスト内にある造形室「KLAMP STUDIO」で働く實方(じつかた)一渓さんの作品は、うってかわって趣が全く異なる、ホラーテイストな作品。
もともと、映像の特殊メイク・特殊造形を学び、フリーの原型師として活動していた経歴を持つ實方さん。呪物をモチーフに作品を展開する。
小人のミイラ、猿の即身仏、生えると幸せをもたらすマンドラゴラなどユニークな設定も魅力だ。小人のミイラに至っては、はみでた細かな指まで造形が細かい。
一方、レトロフューチャーでSF色濃厚な作品を手がけるのが山口範友樹(やまぐち のりゆき)さんの作品だ。ダークヒーロー感全開!動き出しそうな臨場感である。
荒廃した近未来。バイク屋が自らの身を守るためにバイクパーツから生み出した用心棒という設定があり、もうこのまま連載、アニメなどのメディアミックスできるんじゃないかという完成度。
圧巻なのは細かく解体された原型。原型師にとって、いかに精巧かつ違和感なくパーツを分割できるか、というのも腕の見せ所。
それを今回作品でわかりやすく分解で見せたのが、山口さん。ひとつひとつ原型をつくって組み上げた、見ただけで“わからせる”凄みがあった。
今回は作品としてだが商業フィギュアであっても、パーツの分割まで原型師に裁量があるというのがすごい。本当にフィギュア完成までワンストップ。フィギュアの完成度が原型師に因るところが大きいというのも納得だ。
そして奥に鎮座するは悩めるイエス様。手がけたのは「DOLLEL」の石崎紗央里さんとともにこの企画を呼びかけた江頭慎太郎さんの作品。
江頭さんは古今東西の神々をベースに原型を制作。イエスの他、日本書紀・古事記に登場するイザナミ・イザナギのフィギュアも展示。
憂いの表情を浮かべ、タバコ片手のハードボイルドなイエス様。人の世のあらゆる二元論に疲れたイエス・キリストがコンセプトとなっており、“白”と“黒”の間には原型の地の色で、中間のグレーのイエスがいるのがなんともニクイ演出だ。
江頭さんはもともと美術彫刻を学んだバックボーンがある。その観点からも、宮廷や教会の宗教彫刻・絵画を数多く手がけたミケランジェロが生きていたら、こんな作品を残したかも!?
いずれの作品も、グレーの色をした原型が用意されているのがポイント。本来、量産しない一点だけのフィギュア展ならば原型は必要ない。しかし「原型師」による展示に原型は欠かせない!ということで、彩色したフィギュアと並べているのが特徴。一貫したこだわりに、原型師の心意気を感じる。
ギャラリーのスクリーンには、原型師それぞれのアトリエで撮影された制作記録を放映。なかなか制作の裏側を見ることはないので貴重な映像だ。来場者とともにスクリーンに釘付けになってしまった。
原型師が制作に使う画像ソフトや道具、技術は医療分野から流用されるものが多いという。確かに、骨格や筋肉、緻密な人体構造に迫っているという点で原型師も医師も共通する部分があると言える。
表参道・原宿エリアともフィギュアは親和性が高い。バウンティハンター(BOUNTY HUNTER)を始め、リーコン(RECON)といった裏原ブランドが著名なアーティストとコラボした「ストリートフィギュア」は当時から人気で今ではとんでもない値段になっているらしいし、コラボとえばメディコム・トイのベアブリック(BE@RBRICK)は象徴的な存在だ。
今もなおフィギュアを軸としたトイカルチャーは根強い人気を誇る。明治神宮前駅からほど近い中国のトイブランド「POP MART」は連日人気で、オープン前から並んでいる姿を出社するときよく目にする。
また、マーベルやスターウォーズと言った、洋画やアメコミ版権モノのホットトイズ社製フィギュアを主に扱う「トイサピエンス(TOY SAPIENCE)東京」も原宿に旗艦店を構える(2021年9月に神宮前3丁目から拡大移転した)。
このようにフィギュアとの関係性も深い表参道・原宿の街。今までフィギュア原型師という職業をご存知なかった人は、作品の魔力に魅了されて惚れ惚れすること間違いなし。フィギュア好きは、推し原型師の普段は見ることができない境地を新鮮に感じるだろう。
新たな表現としてフィギュアという造形作品を楽しむことができる試みに胸が躍った。その手でフィギュアに命を吹き込み、立体としてこの世に生み出す原型師たち。手に取ったものを魅了し、感動や喜びを生む理由がそこにはある。その様は、まさに神業。現代のミケランジェロたちに刮目してほしい。
■概要
「PROTO 1/1」
開催期間:2024年6月1日(土)〜6月16日(日)
開催場所:Feb gallery Tokyo
住所:東京都港区南青山4-8-25
営業時間:13:00〜20:00
定休日:月曜・火曜
<参加アーティスト>
石崎紗央里 @ishizakisaori
江頭慎太郎 @egashira_shintaro
實方一渓 @ikkei_jitsukata
髙橋晋太郎 @totoy_2022
山口範友樹 @yamaguchi2424
山下マナブ @manabooth_
Photo & Text:Tomohisa Mochizuki
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